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【勝手な創作】 明日という名の翼
山田美咲は、デスクに置かれたカレンダーを見つめていた。明日の予定欄は空白のまま。フリーランスになって3ヶ月、時間の使い方は自由になったものの、それは同時に不安との闘いでもあった。
「また悩んでるの?」
オンラインミーティングの画面越しに、親友の香織が声をかけてきた。二人は高校の同級生で、今はAIクリエイターとして活動している香織に、美咲はよく相談を持ちかけていた。
「うん...明日何をしようか考えてたの」
「それって本当は『明日から何になろうか』って考えてるんでしょ?」
図星だった。美咲は大手出版社を退職して、デジタルコンテンツの制作に転身しようとしていた。しかし、具体的な方向性が見えずに立ち止まっていた。
「AIの進化って凄いよね。私みたいな素人でも、作品が作れるようになってきてる」
香織の言葉に、美咲は少し希望を見出した。確かに、最近は誰でも高度な創作活動ができる時代になっている。
「でも、それって私の価値を下げることにならない?」
「違うよ。大切なのは、それを使って何を表現するかだと思う」
香織は自身の画面を共有した。そこには、AIを使って制作した幻想的なアート作品が広がっていた。
「見て。これ、私が新しく立ち上げたオンラインギャラリーのメンバーたちの作品なの。プロのアーティストから主婦まで、みんな自分なりの表現を追求してる」
画面には、様々なスタイルの作品が並んでいた。従来のアート界では評価されづらかったような斬新な表現もある。
「実は...明日、オープンミーティングがあるの。美咲も参加してみない?」
その提案は、美咲の心に小さな火を灯した。
翌日、美咲は初めてのオンラインコミュニティに参加した。画面上には、世界中から集まった創作者たちの顔が並ぶ。
「今日のテーマは『明日への手紙』です」
モデレーターの説明に従い、参加者それぞれがAIを使って作品制作を始めた。美咲も、おそるおそるAIツールを起動する。
文章を入力し、イメージを重ね、音楽を組み合わせる。慣れない作業に何度も躓きながらも、少しずつ形になっていく。それは、未来の自分へ向けた小さなメッセージ。
完成した作品を共有すると、予想以上の反応が返ってきた。
「素晴らしい感性ですね」
「私も同じような不安を感じていました」
「次回の企画に参加してみませんか?」
画面の向こうから、温かな言葉が届く。そこには、血縁でも地縁でもない、新しい形のつながりがあった。
その夜、美咲は久しぶりに明日の予定を書き込んだ。
「AM10:00 新作の構想練り
PM2:00 コミュニティミーティング
PM7:00 オンライン作品レビュー」
そして、余白に小さく書き添えた。
「明日は、誰かの心に響く何かを作る日」
スマートフォンが震える。香織からのメッセージだった。
「新しいプロジェクト、一緒にやらない?AIで絵本を作ろうと思うの」
返信する前に、美咲は深く息を吸った。今の自分に何ができるかはまだ分からない。でも、それを探す旅が、もう始まっている。
窓の外では、街灯が静かに揺れていた。明日は、また新しい一歩を踏み出す日になる。技術は進化し、世界は変わっていく。でも、誰かの心に触れたいという思いは、きっと変わらない。
カレンダーに書かれた予定は、未来への小さな約束。それは同時に、新しい自分への挑戦状でもあった。
美咲は香織への返信を送った。
「一緒にやりましょう。明日から、できることから始めていきたい」
画面に映る自分の表情が、少し晴れやかになっているのに気がついた。
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