日本ミュージカル界における待遇問題と俳優組合の可能性について


※全部素人の私見です!!※


日本ミュージカル界(だけではないと思いますが)において囁かれる問題のひとつとして「待遇の悪さ」「やりがい搾取」ということを聞くことが多々あります。実際そもそもビジネスとして成り立たせるのがなかなか難しいのだとは思うのですが、プロダクションの規模感問わず様々な問題が起こりがちなのは事実かと思います。
※主に役者を意識して書いていますが、スタッフも同様と認識しています


いきなりこんなこと書くと反感買うとは思いますが、「どんな役者でもそれなりの待遇が用意してもらえると言うものではない」と個人的には思っています。

というのも、「役割や役職・能力によって待遇差があること」、そして「待遇内容およびその決め方は会社の考え方であり、世間一般の声や社会的あるべき論を必ずしも反映させたものではない」というのは民間企業でもそうなので、民間プロダクションである以上はミュージカルもその原則に則ることになると思っています。

一方、ある程度のフェアネスを担保するためにも「①役者として最低限必要なスキル・経験」「②それを満たす人に対する待遇のミニマムライン」の2点をクリアにしておくのは大変重要です。それがあった上で実力に応じた待遇がアドオンされる、と言うのが健康的な運用と思います。

冒頭記述した「日本ミュージカル界における待遇問題」と言うのは上記2点がクリアでないこと、そしてそれをなかば悪用する形で「大規模商業プロダクションに出演できない人を悪待遇で起用することを前提としているようなプロダクション/企画が存在する」と言うことにも起因しているのかと推測します。

これらの課題に対してブロードウェイには俳優組合・ユニオン(Actor's Equity Association)があります。存在は知りつつも実情をわかっていなかったので調べようと思ったらすでに書いてくださっているブログがあったので、記事を参照しつつポイント抽出してみます。以下元記事(その1)へのリンクです。

<組合に所属するメリット>リンク
・賃金からリハ環境まで至る所にガイドラインが設定されており、俳優としての仕事に専念できる。
・ブロードウェイ、オフブロードウェイの公演は全てユニオンコントラクトであり、上記ガイドラインの確保が求められている。
・ユニオンメンバーでなければ参加できないオーディションが多い。

<デメリット>リンク
・ユニオンメンバーになるためのハードルが高い
 →例えばブロードウェイ/オフブロードウェイプロダクションへの出演経験が要件の一つとしてあるが、ユニオンメンバー以外にオープンなオーディションがそもそも少ない、など。

ノンユニオンの仕事が一切できなくなる
→俳優の数に対してブロードウェイプロダクションの数が少ないことに鑑みると、これはかなりの痛手と言えます。


超ざっくりまとめると「組合参加のメリットは当然あるが入るためにそれなりのハードルがあることに加え、ガイドラインに沿った環境が確保されている現場に参加できる人は一握りである」ということかと思います。

とは言え、前述した通り「実力に応じた待遇が準備されるべき」と言う当方個人の考えに基づくと、組合のような団体が「役者として求められるスキルや経験の水準」を設定し、メンバーであるか否かと言う形で可視化することはまさに「その基準を満たす人への最低限の待遇を規定すること」にも繋がります。プロダクション側はある程度信頼のおける役者を判別することができるようになり、役者側もそのメリットを享受できることになります。


それでは日本でも組合化を進めるのが良いかと言うとそう単純でもなく、課題はたくさんあると思います(まわりくどくてすみません)

①活動によりダメージを被る恐れがあるため、旗揚げが難しい
・民間企業でもそうですが、労働組合と言うのはそもそも企業側からすれば望ましい存在ではありません。組合は労働にまつわる諸条件について口出し・交渉の窓口、下手すればストライキにまで繋がる可能性のある存在であり、脅威です。(であるからこそ、労働者側にとっては結成意義があると言えます。)
・したがって要注意なのが、組合結成及びそこに属するものに対する各プロダクションの印象が悪くなり、結果として仕事に影響が出る可能性が懸念されます。
・そのような事態を防ぐには、組合の中に相応の実力者/インフルエンサーがおり、この人が出演しなくなる/周りの人に働きかけてストライキ的運動が起きたりするとプロダクションにとって厳しい状況となることが現実的に懸念される、というのが重要かと思います。
 →とは言え、果たしてそれだけのリスクを冒して声をあげてくれるリードロールがいるか、実際に声を上げてくれるか…以前小栗旬さんが動きを見せていましたが、最近は下火な様子です。記事リンク

②それでも残る課題の存在
・仮に組合ができて最低条件が担保されたとしても、「ユニオンに参加できない人もいる」「ユニオン条件をクリアできるプロダクション数の少なさ」「悪い待遇をデフォルトとして企画されるプロダクションの存在」と言う課題は依然として残ります。
・といいつつ、「ユニオンに参加できない人もいる」に関しては、冒頭記述した「誰でも良い待遇を受けられるものではない」と言う原理に鑑みると、俳優側が努力して参加資格を得てもらうしかありません。きちんと機能するための水準設定や運用の透明性は当然必要ですが。
・後者ふたつについては、現日本プロダクションのうちどの程度が真っ当な待遇を用意しているのかを知り得ていないためコメントしづらいですが…きっと多くはないのだと思います。ここを成り立たせるためには良い作品を作るクリエイターの発見・育成とそこへの資金調達の仕組みを再構築する必要がありますね。


上記課題についてどんな取り組みができるのかは今後要検討ですね。百里の道も一歩から、どこから手をつけるのがいいのやら…

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