ミュージカル俳優の「労働者性」を考える
※全部素人の私見です!!!
主にミュージカル俳優として舞台に立つことを生業にしている(or したい)人にお聞きしたいのですが、
「ミュージカル俳優は”労働者”ではない」
と言われたら、どう思われますか?
上記文章は、「労働者」と言う単語の意味を”労働基準法”に基づき定義すると事実となってしまう可能性が高い、と思われます。
「労働者」「労働者性」とは?
労基法に基づく定義は堅くて小難しい表現になってしまうので出来るだけ平易にした以下文言に対して、「YES」の数が多いほど「労働者性」が高く、少ないほど低い、という感じのようです。ただし労働者性は極めて個別のケースバイケースでの判断が必要とされ、いくつチェックがつくから労働者、と言うシンプルなものではないことを申し添え致します。
労働者性チェックリスト:参考記事
・仕事の依頼、業務の指示等に対する拒否権がない
・業務内容及び遂行方法に対する指揮命令に従わなければならない
・勤務場所・時間が指定・管理されている
・労務提供の代替/本人に代わって補助者等が労務を提供することが認められていない
・報酬が時間給を基礎として計算される等、労働の結果による較差が少ない
・自身が個人的に所有している高価な機械や器具などを自らの判断で用いながら業務遂行している、報酬が著しく高いなど、「事業者」的要素を自身が持っていない
・他社の業務に従事することが制度上制約され、また、時間的余裕がなく事実上困難である
・源泉徴収や社会保険料の控除などを支払い元から受けている
上記項目については、「実質的にはYESだが、そもそも契約内で所与の条件として合意されているものとみなされる」ものが多く含まれている、ということかと思います。
舞台ビジネスに関してはほぼ素人ですが仕事(人事)面では専門領域と言う中途半端な立場の私なりに色々と調べてみるに、俳優・所属事務所・舞台企画者/社の3者は「業務委託契約」で結ばれた関係であり、「雇用契約」ではない、と言う立て付けになっていると言えます。図で言うと以下のような感じです。
※図 by 筆者
※上記の通り三者が介在するケースが多いと思いますが、フリーランス俳優 の場合は事務所機能も俳優が兼ねるとお考えください。
①マネジメント契約:参考記事
・俳優と事務所の関係性は「俳優が事務所にマネジメント業務を委託する」契約であり、”べき論”としては俳優と事務所は対等になります。マネジメントが専属か否か、報酬配分はどうするかなどは契約締結時点で相談のもとに定められるべきであるし、俳優は事務所の持ってきた仕事を断る権利を本来は有することとなります。
・一方、実質的には事務所との力関係から俳優が契約内容に口を出す余地がない、仕事を断れないと言うケースも多々あると理解しています。この場合、労働者性が疑われるとも言えるかと思います。
※ちなみに俳優が事務所の社員と言うケースも可能性としてゼロではないと思いますが、僕はあまり(てかほぼ)聞いたことがありません。
②出演契約
・諸条件を定めた契約を企画者・事務所間で締結し、そこに対して事務所がマネジメント契約している俳優を参加させる、と言う形かと思います。企画者との契約主体は事務所、業務提供者は事務所と契約関係にある俳優、事務所と俳優はマネジメント契約で定められたやり方で報酬を分配する、と言うことになります。
・企画者ー事務所はは法人同士なので雇用契約とはなり得ず、業務委託契約となります。
③業務提供
・事務所ー企画者間で交わわれた契約内容に基づき、俳優は現場で業務を提供します。ここで冒頭に記載した「労働者性」項目を実態に即してチェックしていきます。
・仕事の依頼、業務の指示等に対する拒否権がない
→その仕事をやることは事務所〜企画者間で握られているので俳優に拒否権はない、YES。
→ただし、"べき論"では俳優はその仕事を断る権利を有しているので、事務所から引き受けた時点で所与の条件として合意されているものとみなされる。
→一方、事務所との力関係的に俳優が実質的に仕事を断れない場合は労働者性が疑われることとなる)
・業務内容及び遂行方法に対する指揮命令に従わなければならない
→原則俳優は演出指示に従う必要があるので、YES。
→一方、そもそも出演契約の中でそれは決められているはずなので、俳優がその仕事を引き受けた時点で所与の条件として合意されているものとみなされる。
→事務所との力関係的に俳優が実質的に仕事を断れない場合は労働者性が疑われることとなる
・勤務場所・時間が指定・管理されている
→リハ場所や本番場所、時間は指定・管理されるのでYES。一方でその条件は出演契約の中で決められているはずなので、合意のものとみなされる。
・労務提供の代替/本人に代わって補助者等が労務を提供することが認められていない
→通常その役はその人がやるものなので YES。
→一方、出演契約はそもそもその人が出演することを締結するものなので、所与の条件として合意されているものとみなされる。
・報酬が時間給を基礎として計算される等、労働の結果による較差が少ない
→報酬は時間給としては計算されず、役によって異なるのが大半のはずなので、ここはNO。
・自身が個人的に所有している高価な機械や器具などを自らの判断で用いながら業務遂行している、報酬が著しく高いなど、「事業者」的要素を自身が持っていない
→いずれも当てはまるケースは少ないものの、これ一つを持って「労働者性」を主張することは難しい。
・他社の業務に従事することが制度上制約され、また、時間的余裕がなく事実上困難である
→これもリハ中は事実上制約されることが多いのでYES
→一方、そもそもリハ参加を所与の条件として合意した上で仕事を受けているものとみなされる
→空いている時間に何かをする自由は与えられているはず(他現場の平行、アルバイトなど)なのでNO。
・源泉徴収や社会保険料の控除などを支払い元から受けている
→企画者からの支払いはto事務所であり、事務所to俳優の支払いは給与ではなく業務委託料として払われているはずなので、NO。
このように、仕組み的なところで言ってしまえば俳優は「労働者」ではない。俳優を「正社員」として抱える(=無期雇用で社会保険なども負担する)覚悟と体力のある企業が出てくれば話は別ですがそんなものを悠長に待つこともできませんし、そんな優良団体に所属できるチャンスはおそらく希少です。
となると俳優は、業務を委託されるに足る・そして事務所とできるだけ対等な関係性であることを維持できるだけの専門家としての「市場価値」を身につける必要があります。
※僕は表方の専門家ではないので、この辺の詳細について個人としては提唱致しません。
一方、企画者側はそのような専門家に果たしてどのくらいのギャランティを払うのが妥当なのか?と言うことについては労働市場的な観点からある程度考察することができると思うので、次の機会に整理してみようと思います。
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