ルジューヌ『ギリシア語アクセント規則概説』第三部


文中の語

46.

これまでに定義されたような,個別に考察された語のアクセントは,原則,文中においても,変わることなく維持される.ただし,句読点の前に置かれていないとき,あらゆる oxytonon $${\text{(τίς,}}$$ $${\text{τί}}$$ を除いて:§ 20¹),文中でbarytonon になるというあの条件を除く (§ 4)$${^{(1)}.}$$

(1) oxytonon が後倚辞 (enclitica) の前で鋭アクセントを保つことも後で見る (§§ 54, 55).

しかしながら,アクセントの様々な特殊性の原因になりうるものがある:

1) 文中における,アクセントを持たない語の存在 (前倚辞, proclitica:§§ 47-49後倚辞, enclitica:§§ 50-57).

2) ある語の語末母音とそれに後続する語の語頭母音との衝突による効果 (ēlīsiō, 母音省略,省音:§‍§ 58-60aphaeresis,除音:§ 61crāsis,融音:§ 62).

第一章
前倚辞 proclitica

47.

少数の短い語は,その語自身には,アクセントがなかった (§ 1).文の発音において,一方はアクセントを持った後続語とグループをなしていた:これが前倚辞 (後接語, proclitica) である:他方はアクセントを持った先行語とグループをなしていた:これが後倚辞 (前接語, enclitica) である.

このような,前倚辞 + アクセントを持った語,あるいはアクセントを持った語 + 後倚辞のグループは,文中において,アクセントの観点からすると,一つの単位を構成していたが,綴り上は二つの要素に分けられる$${^{(1)}:}$$$${\text{ἐν}}$$ $${\text{ὁδῷ}}$$(procl. + tonique), $${\text{ὁδός}}$$ $${\text{τις}}$$ (tonique + encl.), $${\text{ἐν}}$$ $${\text{ὁδῷ}}$$ $${\text{τινι}}$$ (procl. + tonique + encl.).

(1) いくつか例外がある.不定関係詞 $${\text{ὅστις}}$$ (アクセントをもつ $${\text{ὅς}}$$ + 後倚辞 $${\text{τις}}$$:§ 20⁶) は一語で書かれる.ただし,中性単数主対格 $${\text{ὅ}}$$ $${\text{τι}}$$ を除く (接続詞 $${\text{ὅτι}}$$ との混同を避けるため).また,$${\text{-δε}}$$ がもともと後倚小辞である指示詞 $${\text{ὅδε,}}$$ $${\text{τοιόσδε,}}$$ $${\text{τοσόσδε,}}$$ etc. (§ 20⁷) も一語で書かれる.そして,いくつかの不変化詞 $${\text{(ὅτι,}}$$ $${\text{ὥστε,}}$$ $${\text{οὔπω,}}$$ etc.) は,第二要素が後倚辞である二語の結合によって形成された.これら綴り上の習慣から,しばしば,制限の法則に対する見かけ上の例外 $${\text{(ὧντινων,}}$$ etc.;§ 3 及びその註),あるいはアクセントが置かれた長い次末母音の法則に対する見かけ上の例外$${\text{(ἥτις,}}$$ etc.:§ 8 及びその註) が生じる.

48.

ギリシア語における前倚辞 (proclitica) とは:

1) 冠詞の語頭子音を持たない形態,すなわち,主格 $${\text{ὁ,}}$$ $${\text{ἡ,}}$$ $${\text{οἱ,}}$$ $${\text{αἱ}}$$ (§ 20⁵):$${\text{ὁ}}$$ $${\text{κύων,}}$$ $${\text{ἡ}}$$ $${\text{κύων,}}$$ $${\text{οἱ}}$$ $${\text{κύνες,}}$$ $${\text{αἱ}}$$ $${\text{κύνες.}}$$冠詞の他の形態はアクセントが置かれる (直立格では鋭アクセント,斜格では曲アクセント:§ 33).成句$${\text{ὃ}}$$ $${\text{μέν}}$$ $${\text{. . .}}$$ $${\text{ὃ}}$$ $${\text{δέ,}}$$ $${\text{ἣ}}$$ $${\text{μέν}}$$ $${\text{. . .}}$$ $${\text{ἣ}}$$ $${\text{δέ,}}$$ $${\text{οἳ}}$$ $${\text{μέν}}$$ $${\text{. . .}}$$ $${\text{οἳ}}$$ $${\text{δέ,}}$$ $${\text{αἳ}}$$ $${\text{μέν}}$$ $${\text{. . .}}$$ $${\text{αἳ}}$$ $${\text{δέ}}$$ において,冠詞が指示代名詞の役割をなしている時は男女主格でさえもアクセントが置かれうる$${^{(1)}.}$$

(1) しかしながら,男女主格にアクセントを置かず $${\text{ὁ}}$$ $${\text{μέν…}}$$ $${\text{ὁ}}$$ $${\text{δέ,}}$$ etc. と書くのも誤りではない.

2) 前置詞 $${\text{ἐν,}}$$ $${\text{εἰς}}$$ $${\text{(ἐς),}}$$ $${\text{ἐκ}}$$ $${\text{(ἐξ),}}$$ および $${\text{ὡς}}$$「(ある人) の所へ」:$${\text{ἐν}}$$ $${\text{τῇ}}$$ $${\text{πόλει,}}$$ $${\text{εἰς}}$$ $${\text{τὴν}}$$ $${\text{πόλιν,}}$$ $${\text{ἐκ}}$$ $${\text{τῆς}}$$ $${\text{πόλεως,}}$$ $${\text{ὡς}}$$ $${\text{βασιλέᾱ.}}$$

3) 接続詞 $${\text{εἰ}}$$「もし」および $${\text{ὡς}}$$「~のような,~ということ,~である時,etc.」.しかし,成句 $${\text{καὶ}}$$ $${\text{ὥς}}$$「そうであっても,それにも拘わらず」,$${\text{οὐδ’}}$$ $${\text{ὥς,}}$$ $${\text{μηδ’}}$$ $${\text{ὥς}}$$「そうであっても~でない」,$${\text{ὡς…}}$$ $${\text{ὥς}}$$「~であるように,そのように」における指示副詞 $${\text{ὥς}}$$「そのように」には鋭アクセントが置かれる.

4) 否定辞 $${\text{οὐ}}$$ $${\text{(οὐκ).}}$$

この前倚辞のリストを記憶するための一助となるかもしれないので,これらが全て母音で始まる一音節語であることを指摘しておこう.

49.

アクセントの位置が取りうる変化パターンの制限は語末と関連している (第一部参照).したがって,アクセントを持つ語のにアクセントを持たない語を付加 (前倚, proclisis) しても,当然,付加された語のアクセントに影響はない:$${\text{νοσῶ}}$$「私は病気である」,$${\text{οὐ-νοσῶ}}$$「私は病気ではない」.文中に前倚辞が存在しても,他の語のアクセントはいっさい変更されない.

同じ理由によって,他の語のアクセントを変更することなく,いくつもの前倚辞が次々と続いていく (と言うよりも,あるいは,前に前にと置かれていく) ことができる:$${\text{λέγει}}$$ $${\text{ὡς-οὐ-νοσῶ}}$$「私が病気ではないと彼は主張している」.

前倚辞が,アクセントを持つ後続語に寄りかかることのできないケースが二つある:

a) 句読点の前:実のところ,このケースが起きるのは否定辞 $${\text{οὐ}}$$ のみである;この場合,鋭アクセントが置かれる:$${\text{βούλονται}}$$ $${\text{μὲν,}}$$ $${\text{δύνανται}}$$ $${\text{δ’οὔ.}}$$

b) 後倚辞の前:この場合,後述される規則 (§ 56) に従って,前倚辞に後倚によるアクセント (鋭アクセント) が置かれる:$${\text{οὔ}}$$ $${\text{τις}}$$「誰も~ない」,etc.

第二章
後倚辞 enclitica

50.

後倚辞 (前接語, enclitica) とは,それ自身はアクセントを持たず,文中で,アクセントを持つ先行語に寄りかかる語である (§ 47).

これは次のようなものである$${^{(1)}:}$$

1) その用法の一部における (下記 § 51 参照),動詞 $${\text{εἰμι}}$$「私は~である」と $${\text{φημι}}$$「私は言う」の直説法現在形.ただし,常にアクセントを持つ2人称単数 $${\text{εἶ,}}$$ $${\text{φῄς}}$$を除く (§ 11a).

2) その用法の一部における (下記 § 52 参照),単数の人称代名詞の形態.ただし,常にアクセントを持つ主格 $${\text{ἐγώ}}$$ と $${\text{σύ}}$$ を除く (§ 19¹).

3) 不定語:$${\text{ἄττα}}$$ を除く代名詞 $${\text{τις}}$$ の形態 (§ 20²) と $${\text{πῃ,}}$$ $${\text{ποθεν,}}$$ $${\text{ποι,}}$$ $${\text{ποτε,}}$$ $${\text{που,}}$$ $${\text{πω,}}$$ $${\text{πως,}}$$ etc. といった副詞$${^{(2)}.}$$

4) いくつかの小辞:$${\text{γε,}}$$ $${\text{νυν,}}$$ $${\text{περ,}}$$ $${\text{τε,}}$$ $${\text{τοι,}}$$ etc. $${^{(3)}.}$$

(1) 文献,文法書,辞書の中には,二音節の後倚辞を個別に示す際,語末母音に,これが短ければ鋭アクセントを,長ければ曲アクセントを置くものがある.この用法の由来については,§ 55, 註を参照.
(2) $${\text{ποθι}}$$ のような,他の不定副詞のいくつかは,アッティカ散文の用法では見られない.
(3) 他の後倚小辞 $${\text{(θην,}}$$ $${\text{κε,}}$$ $${\text{ῥα,}}$$ etc.) はアッティカ散文の用法では見られない.

したがって,問題となるのは,次のような短い語:

  • あるいは,短母音を持つ一音節語 $${\text{(με,}}$$ $${\text{τις,}}$$ $${\text{γε,}}$$ etc.);

  • あるいは,長母音を持つ一音節語 $${\text{(μου,}}$$ $${\text{τῳ,}}$$ $${\text{πῃ,}}$$ etc.);

  • あるいは,語末に短母音を持つ二音節語 $${\text{(εἰμι,}}$$ $${\text{φαμεν,}}$$ $${\text{τινος,}}$$ $${\text{ποτε,}}$$ etc.);

  • あるいは,語末に長母音を持つ二音節語 $${\text{(τινων,}}$$ $${\text{τινοιν}}$$ のみ).

もっとも,後で見るように,後倚の規則 (§ 54-57) に,後倚辞の語末母音の量は干渉しない;その点で,$${\text{μου}}$$ は $${\text{με}}$$ のように,$${\text{τινων}}$$ は $${\text{τινος}}$$ のように振る舞うので,後倚辞が一音節であるか二音節であるかという特徴のみを検討すればよい.

51.

直説法現在 $${\text{εἰμι}}$$「私は~である」および $${\text{φημι}}$$「私は言う」の二音節形は通常,後倚辞である.これらの形態にアクセントが置かれることがある;これに関して,語法は複雑で,しばしば流動的である$${^{(1)} ;}$$3人称単数 $${\text{ἐστι}}$$ とその他の形態とで語法は異なる.

(1) したがって,校訂によって,こちらでは $${\text{ἔστιν}}$$ $${\text{ὅτε,}}$$ あちらでは $${\text{ἐστὶν}}$$ $${\text{ὅτε,}}$$ etc. といったアクセントの差異が見つかっても驚くことではない.これから述べる規則が定義するのはひとつの正書法であって,唯一の正書法ではない.

a) $${\text{εἰμι,}}$$ etc. に関する語法
文頭で,あるいはより一般的に,句読点の後で使われる時,通常は後倚辞である形態にもアクセントを置かなくてはならない,というのも,この場合,アクセントを持つ先行語に寄りかかることはもはやできないからである.このような場合,動詞の人称形であるのだから,アクセントは可能な限り語頭へと遡ることが期待される (§ 10);しかし,慣用では語末音節に鋭アクセントが置かれる (鋭アクセントは文中において重アクセントになる):$${\text{εἰμί,}}$$ $${\text{ἐστόν,}}$$ $${\text{ἐσμέν,}}$$ $${\text{ἐστέ,}}$$ $${\text{εἰσί ;}}$$$${\text{φημί,}}$$ $${\text{φησί,}}$$ $${\text{φατόν,}}$$ $${\text{φαμέν,}}$$ $${\text{φατέ,}}$$ $${\text{φᾱσί ;}}$$この語法は説明がついていない;$${\text{εἰμί,}}$$ etc. のアクセントは,いずれにせよ,「後倚によるアクセント」$${\text{« accent d’enclise »}}$$となんら共通点がなく,ゆえに,これとは異なり (§§ 55³, 60),ēlīsiō の際は,先行する母音にアクセントが移る:$${\text{εἴμ’}}$$ $${\text{ἐγώ,}}$$ $${\text{φήμ’}}$$ $${\text{ἔγωγε,}}$$ etc. ― 同じアクセントが,先行語の終端母音が省略されるときは,$${\text{εἰμί,}}$$ $${\text{ἐστόν,}}$$ $${\text{ἐσμέν,}}$$ $${\text{ἐστέ,}}$$ $${\text{εἰσί}}$$ の語末母音に置かれる$${^{(2)}:}$$$${\text{αὐτὸς}}$$ $${\text{δ’}}$$ $${\text{εἰμὶ}}$$ $${\text{φαῦλος ;}}$$ēlīsiō の場合には,先行する母音の上に移る:$${\text{αὐτὸς}}$$ $${\text{δ’}}$$ $${\text{εἴμ’}}$$ $${\text{ἀγαθός.}}$$ ― そして,3人称複数 $${\text{εἰσιν}}$$は成句 $${\text{εἰσὶν}}$$ $${\text{οἵ…,}}$$ $${\text{εἰσὶν}}$$ $${\text{αἵ…}}$$ において,語末母音にアクセントが置かれる.

(2) ēlīsiō される前,この母音にアクセントが置かれていたかどうかに関係なく.

b) $${\text{ἐστι}}$$に関する語法
終端母音が省略される語の後では$${^{(2)}}$$ $${\text{(ἀλλὰ}}$$あるいは $${\text{τοῦτο}}$$ である場合を除いて),$${\text{ἐστι}}$$ は最終音節に $${\text{(εἰμι,}}$$ etc. のように) 鋭アクセント (重アクセントに変わりうる) が置かれる:$${\text{ταῦτ’}}$$ $${\text{ἐστί,}}$$ $${\text{εἰ}}$$ $${\text{δ’}}$$ $${\text{ἐστὶ}}$$ $${\text{ταῦτα,}}$$ etc. 鋭アクセントは,ēlīsiō の場合,語頭に移動する:$${\text{οὐδ’}}$$ $${\text{ἔστ’}}$$ $${\text{ἀγαθός.}}$$

(2) ēlīsiō される前,この母音にアクセントが置かれていたかどうかに関係なく.

他方,$${\text{ἔστι}}$$ のようにアクセントが置かれるのは:

  1. 文頭あるいは句読点の後で;

  2. 先行語が $${\text{ἀλλ(ὰ),}}$$ $${\text{εἰ,}}$$ $${\text{καὶ,}}$$ $${\text{μὴ,}}$$ $${\text{οὐκ,}}$$ $${\text{τοῦτ(ο)}}$$ あるいは $${\text{ὡς}}$$ (接続詞) である時;したがって次のように書かなければならない:$${\text{ἀλλ’}}$$ $${\text{ἔστι,}}$$ $${\text{εἰ}}$$ $${\text{ἔστι,}}$$ etc.;

  3. 成句 $${\text{ἔστιν}}$$ $${\text{ἅ}}$$ $${\text{(ἔσθ’}}$$ $${\text{ἅ),}}$$ $${\text{ἔστιν}}$$ $${\text{ὅτε}}$$ $${\text{(ἔσθ’}}$$ $${\text{ὅτε),}}$$ $${\text{ἔστιν}}$$ $${\text{ὅπως}}$$ $${\text{(ἔσθ’}}$$ $${\text{ὅπως),}}$$ etc. において;

  4. 非人称 $${\text{ἔστι}}$$「〜が可能である」である時.

[訳註: ここで「終端母音」と訳した原文の表現は $${\text{« voyelle terminale ».}}$$特に使い分けは説明されていないが,$${\text{« finale »}}$$ が子音で終わる語も含めた「語末音節」の母音を指すのに対して,文字通り語末に置かれる母音を指しているものと解釈される.]

52.

単数の人称代名詞の対格,属格および与格の形態には,二系列が存在し,一方はアクセントを持ち,もう一方は後倚辞である$${^{(1)}:}$$

$$
\begin{array}{ l c c }
&\text{アクセントを持つ形態}&\text{後倚辞形態}\\
\text{対}&\text{ἐμέ, σέ}&\text{με, σε}\\
\text{属}&\text{ἐμοῦ, σοῦ}&\text{μου, σου}\\
\text{与}&\text{ἐμοί, σοί}&\text{μοι, σοι}\\
\end{array}
$$

(1) 3人称の古い代名詞のうち,与格 $${\text{οἷ}}$$ $${\text{(= ἑαυτῷ,}}$$ $${\text{ἑαυτῇ),}}$$ $${\text{οἱ}}$$ $${\text{(= αὐτῷ,}}$$ $${\text{αὐτῇ)}}$$ のみがアッティカ散文で見られる;アクセントを持つ形態かアクセントを持たない形態かの選択を決定するのは意味,すなわち再帰的か否か,である.

アクセントを持つ形態が使われるのは:
1) 文頭で,あるいは,より一般的に言えば,句読点の後で;
2) かなり頻繁に,前置詞の後で (規則は絶対的なものではないが);
3) 人称の指示を,文意のために,いささか強調をもって引き立たせなくてはならないときはいつも;とりわけ,代名詞が $${\text{αὐτός}}$$ を伴うとき$${^{(2)}.}$$

(2) 再帰代名詞 $${\text{ἐμαυτόν,}}$$ etc. (一語で書かれる) のアクセントについては,§ 19 参照.

53.

不定語 (mots indéfinis) は常に後倚辞である.これらが対応する疑問詞から区別されるのは後倚による:$${\text{τίς}}$$「誰?」に対して $${\text{τις}}$$「誰か」;$${\text{ποῦ}}$$「どこ?」に対して $${\text{που}}$$「どこか」;etc.

したがって,不定語は決して文頭で,あるいは句読点の後で使ってはならないはずである.しかしながら,いくつかの二音節形に対しては,$${\text{τινὲς}}$$ $${\text{μέν…}}$$ $${\text{τινὲς}}$$ $${\text{δέ…}}$$「あるものは~,他のあるものは~」や $${\text{ποτὲ}}$$ $${\text{μέν…}}$$ $${\text{ποτὲ}}$$ $${\text{δέ…}}$$「時には~時には~」のような表現におけるケースが見られる;この場合,慣用では,鋭アクセントが (文中では重アクセントになる) 語末音節に置かれる (これによって疑問詞とのあらゆる混同が避けられる).

54.

アクセントの位置が取りうる変化パターンの制限は語末と関連している.アクセントを持たない一音節あるいは二音節の語を,アクセントを持つ語の末尾に付加 (後倚 enclisis) すると,当然,アクセントに影響が生じる.これは,後倚の規則によって説明される.

a) 一音節の後倚辞の前では (その母音が短母音であれ長母音であれ):
1) oxytonon である語は鋭アクセントを保持し,これを重アクセントに変えない;
2) perispōmenon あるいは paroxytonon である語は変化せずそのままである;
3) properispōmenon あるいは proparoxytonon である語は,その語固有のアクセントは保持するが,それに加えて,語末母音に鋭アクセントが置かれる (これは重アクセントに変わらない);これを「後倚によるアクセント」$${\textit{« accent d’enclise »}}$$ $${^{(1)}}$$と呼ぶ.

第三曲用の $${\text{-αξ,}}$$ $${\text{-ιξ,}}$$ $${\text{-υξ}}$$ に終わる名詞及び形容詞の単数主格では,語末母音は,語によって,あるいは短母音:$${\text{μεῖρᾰξ,}}$$ etc.,あるいは長母音:$${\text{θώρᾱξ,}}$$ etc. であった (§ 2, 註).しかし,この点においては,混同が生じた;後倚辞が後続する,$${\text{-αξ,}}$$ $${\text{-ιξ,}}$$ $${\text{-υξ}}$$ に終わる properispōmenon は paroxytonon のように扱うという語法が確立された:$${\text{μεῖραξ}}$$ $${\text{τις}}$$ (後倚によるアクセントがない!) は $${\text{θώρᾱξ}}$$ $${\text{τις}}$$ のように,$${\text{φοῖνιξ}}$$ $${\text{τις,}}$$ $${\text{κῆρυξ}}$$ $${\text{τις,}}$$ etc. も同様.

(1) 後倚によるアクセントには二種類を区別すべきである:
1) 後倚辞に先行する語の語末母音に置かれるアクセント (常に鋭アクセント) $${\text{(κοῦφός}}$$ $${\text{τις,}}$$ $${\text{ἔνδοξός}}$$ $${\text{τις :}}$$§ 54;$${\text{κοῦφόν}}$$ $${\text{τινα,}}$$ $${\text{ἔνδοξόν}}$$ $${\text{τινα :}}$$§ 55;$${\text{ὥς}}$$ $${\text{τις :}}$$§ 56;$${\text{γέ}}$$ $${\text{τις :}}$$§ 57)
2) paroxytonon の後で,二音節の後倚辞の語末母音に置かれるアクセント:この語末母音が短ければ鋭アクセント (重アクセントになりうる) $${\text{(πόδες}}$$ $${\text{τινός),}}$$長ければ曲アクセント $${\text{(πόδες}}$$ $${\text{τινῶν) :}}$$§ 55.

これらの規則をまとめると,次のように例示される:

$$
\begin{array}{ l l l }
\text{oxytonon + encl.}&\text{ἀγαθός}&\text{τις}\\
\text{perisipōmenon + encl.}&\text{χρῡσοῦς}&\text{τις}\\
\text{paroxytonon + encl.}&\text{νέος τις}&\\
\text{properisipōmenon + encl.}&\text{κοῦφός}&\text{τις}\\
\text{proparoxytonon + encl.}&\text{ἔνδοξός}&\text{τις}\\
\end{array}
$$

$${\text{τις}}$$ は短母音だが,これを,長母音の $${\text{πως}}$$ に置き換えても,いかなる変化も生じない.

55.

b) 二音節の後倚辞の前では (その語末母音が短母音であれ長母音であれ):
1) oxytonon である語は鋭アクセントを保持し,これを重アクセントに変えない;
2) perispōmenon である語は変化せずそのままである.
3) paroxytonon である語は変化せずそのままである;しかし,後倚辞は語末母音に後倚によるアクセントが置かれる;このアクセントは母音が長母音なら曲アクセントによって,短母音なら鋭アクセントによって示される (この鋭アクセントは文中において重アクセントに変わりうる);後倚辞の語末母音が省略される場合,このアクセントは先行する母音に移らない;$${\text{νέον}}$$ $${\text{τινά,}}$$ $${\text{νέον}}$$ $${\text{τινὰ}}$$ $${\text{πολῑ́την}}$$ に対して $${\text{νέον}}$$ $${\text{τιν’}}$$ $${\text{ἄνδρα}}$$ $${^{(1)}.}$$
4) properispōmenon あるいは proparoxytonon である語は,その語固有のアクセントは保持するが,これに加えて,語末母音に後倚の鋭アクセントが置かれる (この鋭アクセントは重アクセントには変わらない).

ここでもまた (§ 54 参照),$${\text{-αξ,}}$$ $${\text{-ιξ,}}$$ $${\text{-υξ}}$$ に終わる properispōmenon は paroxytonon のように扱われる:$${\text{μεῖραξ}}$$ $${\text{τινός}}$$ $${\text{(θώρᾱξ}}$$ $${\text{τινός}}$$ のように), etc.

(1) paroxytonon が先行するときに,後倚辞そのものに置かれる,この後倚のアクセントこそ,個別に示された形態を後倚辞として特徴付けるために,時おり,使われるものである:$${\text{τινες}}$$ あるいは $${\text{τινές,}}$$ $${\text{τινων}}$$ あるいは $${\text{τινῶν}}$$ (§ 50 註 参照).これを,文頭の,あるいは ēlīsiō の後のいくつかの形態に置かれる,伝統的だが恣意的であるアクセントと混同してはならない $${\text{(εἰμί,}}$$ etc.:§ 51).

paroxytonon の後を除いて,一音節の後倚辞と同じ規則であることが見られる.これらの規則をまとめると,次のように例示される:

$$
\begin{array}{ l l l }
\text{oxytonon + encl.}&\text{ἀγαθόν}&\text{τινα}\\
\text{perisipōmenon + encl.}&\text{χρῡσοῦν}&\text{τινα}\\
\text{paroxytonon + encl.}&\text{νέον τινά}&\\
\text{properisipōmenon + encl.}&\text{κοῦφόν}&\text{τινα}\\
\text{proparoxytonon + encl.}&\text{ἔνδοξόν}&\text{τινα}\\
\end{array}
$$

$${\text{τινα}}$$ は語末母音が短母音であるが,これを語末母音が長母音である $${\text{τινων}}$$ に置き換えても,いかなる変化も生じない.ただし,paroxytonon の後で,後倚辞に置かれるのは曲アクセントである:$${\text{νέον}}$$ $${\text{τινῶν.}}$$

56.

通常は後倚辞であるいくつかの語が,文頭あるいは句読点の後で使用される際のアクセントについては既に指摘した:$${\text{εἰμί,}}$$ $${\text{ἔστι,}}$$ etc. (§ 51);$${\text{σοί,}}$$ etc. (§ 52);$${\text{τινές,}}$$ etc. (§ 53).

ここで,後倚辞に先行する語が,それ自身もアクセントを持たない場合があることを指摘しなくてはならない.

a) 前倚辞 + 後倚辞
前倚辞に後倚によるアクセントが置かれる (鋭アクセント,これは重アクセントには変わらない):$${\text{ὅ}}$$ $${\text{γε,}}$$ $${\text{εἴ}}$$ $${\text{περ,}}$$ $${\text{ὥς}}$$ $${\text{τις,}}$$ $${\text{ἔκ}}$$ $${\text{τινων,}}$$ etc. $${^{(1)}.}$$

(1) この規則の例外として,決して,後倚辞 $${\text{ἐστι}}$$ の前で (後倚によるアクセントを伴って) $${\text{οὔκ,}}$$ $${\text{εἴ,}}$$ $${\text{ὥς}}$$ と書かれることはなく,必ず $${\text{οὐκ,}}$$ $${\text{εἰ,}}$$ $${\text{ὡς}}$$ の後にアクセントが置かれた $${\text{ἔστι}}$$ が書かれる (§ 51).

57.

b) 後倚辞 + 後倚辞
いくつもの後倚辞が続く時は,最後の後倚辞以外の全ての語末に鋭アクセントが置かれる.それらに先行する語のアクセントは,上述の規則によって固定されたままである.

例えば:$${\text{εἴ}}$$ $${\text{γέ}}$$ $${\text{τις…,}}$$ $${\text{εἴ}}$$ $${\text{γέ}}$$ $${\text{τίς}}$$ $${\text{σοι…,}}$$ $${\text{εἴ}}$$ $${\text{γέ}}$$ $${\text{τίς}}$$ $${\text{σοί}}$$ $${\text{ποτε…,}}$$ etc.

ひとつだけ困難が生じる.$${\text{εἰμι}}$$ の現在形の前では (というのも,母音で始まる後倚辞は他にはないからである),$${\text{γε,}}$$ $${\text{τε,}}$$ $${\text{ποτε}}$$ のような後倚辞の語末母音が省略される.このような場合,動詞形態の語末母音に鋭アクセントが置かれるのが慣用である.この鋭アクセントは重アクセントに変わりうる (§ 51).例えば:$${\text{ἀγαθός}}$$ $${\text{τε,}}$$ $${\text{ἀγαθός}}$$ $${\text{εἰμι}}$$ に対して$${\text{ἀγαθός}}$$ $${\text{τ’}}$$ $${\text{εἰμί ;}}$$同様に$${\text{οἷοί}}$$ $${\text{τε}}$$ に対して $${\text{οἷοί}}$$ $${\text{τ’}}$$ $${\text{εἰσί ;}}$$ $${\text{ὁποίᾱ}}$$ $${\text{ποτέ}}$$に対して $${\text{ὁποίᾱ}}$$ $${\text{ποτ’}}$$ $${\text{ἐστί ;}}$$etc.

第三章
ĒLĪSIŌ, APHAERESIS, CRĀSIS

58.

文中において,句読点によって切り離されていない二つの語の,一語目が母音で終わり,二語目が母音で始まる時,この hiātus (母音衝突) は維持されることもあれば,解消されることもある.この解消そのものとなりうるのは:あるいは ēlīsiō (母音省略:語末の短母音の消失) ― これが最も頻繁なケースである ―;あるいは aphaeresis (除音) すなわち逆の ēlīsiō (語頭の短母音の消失);そして,あるいは crāsis (融音:二つの母音の約音, 縮約) である.

ēlīsiō と aphaeresis がアクセントに関わってくるのは,消失した短母音にアクセントが置かれていた場合である$${^{(1)}.}$$crāsis は常にアクセントに関わる,というのも,一般的には二語のそれぞれにアクセントが置かれているが,これを一つにするからである.

(1) しかしながら,$${\text{εἰμι}}$$ のアクセントを持たない形態の前で語末母音の省略 ēlīsiō がなされると,その母音にアクセントがなくても,慣用では,動詞にアクセントが置かれる (§ 51ª, ᵇ).
[訳註:フランス語原文ではそれぞれ $${\text{« élision,}}$$ $${\text{aphérèse,}}$$ $${\text{crase ».}}$$訳語例はここで示した通りだが,文献によっては必ずしも訳されていないので,ここではラテン語名で統一した.]

59.

ēlīsiō (省音,母音省略) とは hiātus におかれた,音色が $${\text{α,}}$$ $${\text{ε,}}$$ $${\text{ι,}}$$ あるいは $${\text{ο}}$$ である語末母音の消失である$${^{(1)}.}$$省略された母音の位置にはアポストロフィ $${\text{( ’ )}}$$ が置かれる.

(1) 短母音 $${\text{υ}}$$ は決して省略されない;アッティカ方言においては,二重母音 $${\text{-αι}}$$ (受動および中動の動詞活用語尾における) と $${\text{-οι}}$$ (間投詞 $${\text{οἴμοι}}$$ における) の ēlīsiō の例はごくわずかしかない.

母音 $${\text{-ᾰ}}$$ が省略されうるのは:

  • 第一曲用:女性単数主格 $${\text{(μοῦσα,}}$$ $${\text{λείπουσα)}}$$
    男性単数呼格 $${\text{(δέσποτα).}}$$

  • 第三曲用:男女単数対格 $${\text{(πόδα,}}$$ $${\text{πατέρα,}}$$ $${\text{τίνα,}}$$ $${\text{φύλακα).}}$$
    中性単数主対格 $${\text{(μέγα,}}$$ $${\text{ὄνομα).}}$$

  • 第二曲用および第三曲用と代名詞:中性複数主対格 $${\text{(δῶρα,}}$$ $${\text{ἐλεύθερα,}}$$ $${\text{τρία,}}$$ $${\text{ὀνόματα,}}$$ $${\text{ταῦτα,}}$$ $${\text{ὅσα,}}$$ $${\text{πάντα,}}$$ $${\text{σά),}}$$ただし例外:$${\text{τά,}}$$ $${\text{ἅ.}}$$

  • 動詞:アオリスト1人称単数 $${\text{(ἔλῡσα,}}$$ $${\text{ἔμεινα,}}$$ $${\text{ἔθηκα).}}$$
    完了1人称単数 $${\text{(οἶδα,}}$$ $${\text{λέλοιπα).}}$$
    2人称単数 $${\text{-σθα}}$$ $${\text{(οἶσθα,}}$$ $${\text{ἦσθα).}}$$
    中動態1人称複数 $${\text{-μεθα.}}$$

  • 前置詞:$${\text{ἀνὰ,}}$$ $${\text{διὰ,}}$$ $${\text{κατὰ,}}$$ $${\text{μετὰ,}}$$ $${\text{παρὰ,}}$$ $${\text{ἕνεκα.}}$$

  • 副詞:$${\text{εἶτα,}}$$ $${\text{ἐνταῦθα,}}$$ $${\text{τάχα,}}$$ $${\text{-ιστα}}$$ に終わる最上級 $${\text{(μάλιστα…),}}$$ etc.

  • 接続詞:$${\text{ἀλλὰ,}}$$ $${\text{ἄρα,}}$$ $${\text{δῆτα,}}$$ $${\text{ἵνα,}}$$ etc.

  • 数名詞:$${\text{δέκα,}}$$ $${\text{τριάκοντα,}}$$ etc.

短母音 $${\text{-ε}}$$ が省略されうるのは:

  • 第二曲用:単数呼格 $${\text{(ἄδελφε).}}$$

  • 人称代名詞単数対格 $${\text{ἐμέ,}}$$ $${\text{σε.}}$$

  • 動詞:命令法2人称単数 $${\text{(λεῖπε,}}$$ $${\text{λίπε) };}$$直説法完了3人称単数 $${\text{(λέλοιπε)}}$$ しかし,未完了過去3人称単数$${\text{(ἔλειπε),}}$$直説法アオリスト $${\text{(ἔλιπε,}}$$ $${\text{ἔλῡσε,}}$$ $${\text{ἔμεινε),}}$$希求法アオリスト $${\text{(λῡ́σειε)}}$$ は省略されない.
    能動態2人称複数 $${\text{-τε.}}$$
    中動態2人称複数 $${\text{-σθε.}}$$

  • 小辞:$${\text{δέ,}}$$ $${\text{γε,}}$$ $${\text{-δε}}$$ $${\text{(ὅδε,}}$$ $${\text{τοιόσδε,}}$$ $${\text{ἐνθάδε,}}$$ ...), etc.

  • 副詞および接続詞:$${\text{τότε,}}$$ $${\text{πότε,}}$$ $${\text{ὅτε,}}$$ etc.

母音 $${\text{-ῐ}}$$ が省略されうるのは:

  • 動詞:$${\text{εἰμι,}}$$ $${\text{ἐστι,}}$$ $${\text{φημι}}$$ の形態.
    $${\text{-οιμι,}}$$ $${\text{-αιμι}}$$ に終わる希求法1人称単数.

  • 前置詞:$${\text{ἀντὶ,}}$$ $${\text{ἀμφὶ,}}$$ $${\text{ἐπὶ}}$$ (しかし $${\text{περὶ,}}$$ $${\text{ἄχρι,}}$$ $${\text{μέχρι}}$$ は省略されない).

  • 副詞:$${\text{ἔτι,}}$$ etc.

  • 数名詞 $${\text{εἴκοσι.}}$$

N. B.次のものは省略しない:$${\text{-ι}}$$ に終わる名詞曲用語尾 (第三曲用の単数与格および複数与格),$${\text{-ι}}$$ に終わる動詞活用語尾 (上で示したものを除く),$${\text{τί,}}$$ $${\text{τι,}}$$ $${\text{ὅτι,}}$$ etc. の語末.

短母音 $${\text{-ο}}$$ が省略されうるのは:

  • 代名詞:中性単数主対格 $${\text{(αὐτό,}}$$ $${\text{τοῦτο,}}$$ $${\text{ἐκεῖνο,}}$$ etc.),ただし $${\text{τό,}}$$ $${\text{ὅ}}$$ を除く

  • 動詞:中動態2人称単数 $${\text{-ο}}$$ (希求法):$${\text{λύοιο,}}$$ etc.
    中動態3人称単数 $${\text{-το}}$$ (希求法;未完了過去;アオリスト;過去完了).
    中動態3人称複数 $${\text{-ντο}}$$ (同じ法時制).

  • 前置詞 $${\text{ἀπὸ,}}$$ $${\text{ὑπὸ}}$$ (しかし $${\text{πρὸ}}$$ は省略されない).

  • 副詞 $${\text{δεῦρο.}}$$

  • 数名詞 $${\text{δύο.}}$$

60.

一音節の後倚辞の母音が省略される時,後倚の規則によって置かれたアクセントは何も変わらない (§§ 54-57):$${\text{ἀγαθός}}$$ $${\text{γ’}}$$ $${\text{ὤν}}$$ $${\text{(ἀγαθός}}$$ $${\text{γε),}}$$ $${\text{ἔνδοξός}}$$ $${\text{γ’}}$$ $${\text{ὤν}}$$ $${\text{(ἔνδοξός}}$$ $${\text{γε),}}$$ $${\text{κοῦφός}}$$ $${\text{γ’}}$$ $${\text{ὤν}}$$ $${\text{(κοῦφός}}$$ $${\text{γε),}}$$ etc. $${^{(1)}.}$$

(1) 母音が省略された後倚辞の後で,動詞 $${\text{εἰμι}}$$ に置かれるアクセントについては,§ 57 参照.

一音節の oxytonon の母音が省略される時,そこに置かれていたアクセントは痕跡を残さずに消える: $${\text{τὰ}}$$ $${\text{σ’}}$$ $${\text{αὐτῆς}}$$ $${\text{ἔργα}}$$ $${\text{(τὰ}}$$ $${\text{σὰ).}}$$

二音節以上の oxytonon の語末短母音が ēlīsiō を受けるとき,次末母音に,長短とは関係なく,鋭アクセントが置かれる:$${\text{πόλλ’}}$$ $${\text{ἐμόγησα}}$$ $${\text{(πολλά) ;}}$$$${\text{εἴφ’}}$$ $${\text{ἡμῖν}}$$ $${\text{(εἰπέ)}}$$ $${^{(2)};}$$$${\text{δείν’}}$$ $${\text{εἶδον}}$$ $${\text{(δεινά)}}$$ $${^{(3)}.}$$

(2) 二語目の語頭母音に気音があり,省略された母音の前に $${\text{κ,}}$$ $${\text{τ}}$$ あるいは $${\text{π}}$$ があった場合, ēlīsiō の後に,$${\text{κ}}$$ は $${\text{χ}}$$ に,$${\text{τ}}$$ は $${\text{θ}}$$ に,$${\text{π}}$$ は $${\text{φ}}$$ に交替する.
(3) しかしながら,一部の写本や校訂本では,もし次末母音が長母音であれば,曲アクセントが置かれる:$${\text{δεῖν’}}$$ $${\text{εἶδον,}}$$ etc. この慣用は,広く認められたものではないが,誤りとも言えない.

このアクセントの繰り越しは,二音節の前置詞 $${\text{(ἀμφ’,}}$$ $${\text{ἀν’,}}$$ $${\text{ἀντ’,}}$$ $${\text{ἀπ’,}}$$ $${\text{δι’,}}$$ $${\text{ἐπ’,}}$$ $${\text{κατ’,}}$$ $${\text{μετ’,}}$$ $${\text{παρ’,}}$$ $${\text{ὑπ’)}}$$ や,接続詞 $${\text{ἀλλ’,}}$$ $${\text{οὐδ’,}}$$ $${\text{μηδ’}}$$には起こらない : $${\text{ἀλλ’}}$$ $${\text{οὐκ,}}$$ $${\text{οὐδ’}}$$ $${\text{ὥς,}}$$ $${\text{μηδ’}}$$ $${\text{αὐτός,}}$$ etc.

後倚辞の第二音節に置かれた後倚のアクセントが問題となる時も,繰り越しは起こらない (§ 55) $${^{(4)}:}$$ $${\text{νέον}}$$ $${\text{τιν’}}$$ $${\text{ἄνδρα}}$$ $${\text{(νέον}}$$ $${\text{τινά).}}$$

(4) そのように母音が省略された後倚辞の後で,動詞 $${\text{εἰμι}}$$ に置かれるアクセントについては,§ 57 参照.

61.

aphaeresis (頭音節省略,除音) は ēlīsiō と比べるとずっと珍しく,よりくだけた言葉に属する;前の語が長母音で終わるとき,続く語頭の短母音が消失することをいう.消失した母音の位置にはアポストロフィ $${\text{( ’ )}}$$ が置かれる.

aphaeresis によって,関与する二語のアクセントが変更されることはない消失した短母音にアクセントが置かれていた場合,語の残された部分はアクセントを失ったままになる$${^{(1)}:}$$
$${\text{ἄχθομαι}}$$ $${\text{ἐγώ}}$$ $${\text{>}}$$ $${\text{ἄχθομαι}}$$ $${\text{’γώ,}}$$ $${\text{ἀξιῶ}}$$ $${\text{ἐγώ}}$$ $${\text{>}}$$ $${\text{ἀξιῶ}}$$ $${\text{’γώ,}}$$ $${\text{ἐγὼ}}$$ $${\text{ἐμαυτόν}}$$$${\text{>}}$$ $${\text{ἐγὼ}}$$ $${\text{’μαυτόν,}}$$ $${\text{ὥρᾱ}}$$ $${\text{ἐστίν}}$$ $${\text{>}}$$ $${\text{ὥρᾱ}}$$ $${\text{’στίν,}}$$ $${\text{ποῦ}}$$ $${\text{ἐστιν}}$$ $${\text{>}}$$ $${\text{ποῦ}}$$ $${\text{’στιν,}}$$ $${\text{μὴ}}$$ $${\text{ἐν}}$$ $${\text{>}}$$ $${\text{μὴ}}$$ $${\text{’ν,}}$$ $${\text{ὃ}}$$ $${\text{ἐγὼ}}$$ $${\text{ἔλεγον}}$$ $${\text{>}}$$ $${\text{οὑγὼ}}$$ $${\text{’λεγον,}}$$ $${\text{εἰ}}$$ $${\text{μὴ}}$$ $${\text{ἔφερες}}$$ $${\text{>}}$$ $${\text{εἰ}}$$ $${\text{μὴ}}$$ $${\text{’φερες,}}$$ etc.

(1) 写本によっては,アクセントが置かれた語頭母音の aphaeresis の場合,先行語が barytonon だったなら,これが oxytonon になる:$${\text{δὴ}}$$ $${\text{ἔπειτα}}$$ > $${\text{δή}}$$ $${\text{’πειτα,}}$$ $${\text{μὴ}}$$ $${\text{ἔσθιε}}$$ > $${\text{μή}}$$ $${\text{’σθιε,}}$$ etc. しかし,多くの校訂者はこの慣用を採用していない.他方,消えた母音のアクセントをアポストロフィの横に書く校訂者もいる:$${\text{αὐτῷ}}$$ $${\text{ἔδωκα}}$$ > $${\text{αὐτῷ}}$$ $${\text{῎δωκα,}}$$ etc.

62.

crāsis (融音,縮音,母音合約) とは,語末母音 (長短どちらでも) と語頭母音 (長短どちらでも) との間で起こる約音 (contractiō) である$${^{(1)}.}$$これによって生じた長母音には,一般的に,corōnis と呼ばれる,無気息記号と同じ形の記号 $${\text{( ᾿ )}}$$ が載せられる:$${\text{τὸ}}$$ $${\text{ἐμόν}}$$ $${\text{>}}$$ $${\text{τοὐμόν ;}}$$しかし,一語目が,冠詞の形態 $${\text{ὁ,}}$$ $${\text{ἡ,}}$$ $${\text{αἱ,}}$$ $${\text{οἱ,}}$$あるいは,母音で終わる関係詞の形態 $${\text{(ὅ,}}$$ $${\text{ἅ,}}$$ $${\text{οὗ,}}$$ etc.) である時は,有気息記号が載せられる:$${\text{ὁ}}$$ $${\text{ἐμός}}$$ $${\text{>}}$$ $${\text{οὑμός}}$$ $${^{(2)}.}$$

(1) 一番目の母音が長く,二番目が短い時,aphaeresis と crāsis のどちらの可能性もあり,しばしば,テキストには迷いが見られる:$${\text{ὦ}}$$ $${\text{’γαθέ}}$$ (aphaeresis) あるいは $${\text{ὠγαθέ}}$$ (crāsis) $${\text{<}}$$ $${\text{ὦ}}$$ $${\text{ἀγαθέ,}}$$ etc.
(2) 理論上は,$${\text{ὦ}}$$ (間投詞) とそれ自身,気息をともなう母音で始まる語との crāsis においては,その結果生じた母音もまた気息をともなうはずである;しかし,実際上は,そのようなケースは見られない.

crāsis においては,二語目のアクセントのみが維持される:$${\text{καὶ}}$$ $${\text{ἀγαθός}}$$ $${\text{>}}$$ $${\text{κἀγαθός,}}$$ $${\text{ἃ}}$$ $${\text{ἐγώ}}$$ $${\text{>}}$$ $${\text{ἁ̄γώ,}}$$ $${\text{καὶ}}$$ $${\text{ἡμεῖς}}$$ $${\text{>}}$$ $${\text{χἠμεῖς}}$$ $${^{(3)},}$$$${\text{ὦ}}$$ $${\text{ἄνθρωπε}}$$ $${\text{>}}$$ $${\text{ὤνθρωπε,}}$$ $${\text{τὸ}}$$ $${\text{ἕρμαιον}}$$ $${\text{>}}$$ $${\text{θούρμαιον,}}$$ $${\text{πρὸ}}$$ $${\text{ἔργου}}$$ $${\text{>}}$$ $${\text{προὔργου,}}$$ $${\text{καὶ}}$$ $${\text{ἄν}}$$ $${\text{>}}$$ $${\text{κἄν,}}$$ $${\text{καὶ}}$$ $${\text{εἶτα}}$$ $${\text{>}}$$ $${\text{κᾆτα,}}$$ $${\text{καὶ}}$$ $${\text{οὗτος}}$$ $${\text{>}}$$ $${\text{χοὖτος,}}$$ $${\text{ἐγὼ}}$$ $${\text{οἶδα}}$$ $${\text{>}}$$ $${\text{ἐγᾦδα,}}$$ etc. 二語目が前倚辞であるなら,そこで生じる形態にも,アクセントはないままになる:$${\text{ὁ}}$$ $${\text{ἐν}}$$ $${\text{>}}$$ $${\text{οὑν,}}$$ $${\text{καὶ}}$$ $${\text{οὐ}}$$ $${\text{>}}$$ $${\text{κοὐ,}}$$ etc. $${^{(*)}}$$

(3) 一語目の語末音節が $${\text{κ,}}$$ $${\text{τ}}$$あるいは $${\text{π}}$$ で始まっていて,二語目の語頭母音が気息をともなっていた場合,crāsis の後で $${\text{κ}}$$ は $${\text{χ}}$$ に,$${\text{τ}}$$ は $${\text{θ}}$$ に,$${\text{π}}$$ は $${\text{φ}}$$ に交替する:$${\text{τὸ}}$$ $${\text{ἱ̄μάτιον}}$$ $${\text{>}}$$ $${\text{θοἰμάτιον,}}$$ $${\text{ὅτου}}$$ $${\text{ἕνεκα}}$$ $${\text{>}}$$ $${\text{ὁθοὔνεκα,}}$$ etc.
(*) $${\text{ἐστι}}$$が後倚辞 $${\text{μοι}}$$ あるいは $${\text{σοι}}$$ に続き,crāsis が起こる場合,動詞の語末母音には (ēlīsiō された語の後のように:§ 51 b, § 57) 鋭アクセントが置かれる:$${\text{μοὐστί,}}$$ $${\text{σοὐστί.}}$$

しかし,二語目が,短い語末母音を持つ paroxytonon であった場合は,crāsis によって,perispōmenon が生じる;というのも,crāsis によって生じる母音は常に長母音であり,したがって,アクセントが置かれた長い次末母音の法則 (§ 8) が適用されるからである:$${\text{τὸ}}$$ $${\text{ἔπος}}$$ $${\text{>}}$$ $${\text{τοὖπος,}}$$ $${\text{τὰ}}$$ $${\text{ὅπλα}}$$ $${\text{>}}$$ $${\text{θῶπλα,}}$$ $${\text{ὦ}}$$ $${\text{ἄνδρες}}$$ $${\text{>}}$$ $${\text{ὦνδρες,}}$$ $${\text{ἦ}}$$ $${\text{ἄρα}}$$ $${\text{>}}$$ $${\text{ἆρα,}}$$ $${\text{τὰ}}$$ $${\text{ἄλλα}}$$ $${\text{>}}$$ $${\text{τἆλλα,}}$$ etc. $${^{(4)}.}$$

(4) この規則がテキストにおいて常に守られているとは言い難い;$${\text{τἆλλα}}$$ ではなく $${\text{τἄλλα,}}$$ etc. と書く校訂者は少なくない.

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?