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ママパパにも知ってほしい!第7回「PANS/PANDAS(強迫神経症状)①こだわりがとまらない子どもたち」

こんにちは、医師の本間龍介です。

子ども運動教室LUMO(ルーモ)」の栄養講習7回目です。
本日は、お子さんの治療に携わる私自身が非常に危機感を抱いている「PANS/PANDAS(パンス/パンダス)」がテーマです。

パンダのことかな?と思った方が多いでしょう。事実、日本でこれを検索すると、最近まで動物のパンダがヒットするくらいでした。アメリカでは浸透し始めていますが、日本では医師すら知らない場合が多いと思います。

PANS/PANDASは言うなれば強迫神経症状のことで、自閉症などの症状によく似ています。発達障がいや自閉症は、生まれながらの脳のトラブルだと認識されています。

しかし、風邪などの感染症を境に、急にさまざまな困りごとが起こるのがPANS/PANDASです。その代表症例には強烈なこだわりなどがあります。みなさんも、感染症にかかったお子さんに変化を感じたことはありませんか?

頑固になった/心配性になった/お漏らしがふえた/宿題や決められたことを忘れやすくなった/漢字や九九ができなくなった…etc.

そうです。ママやパパの多くが気づいているその変化は、PANS/PANDASの症状である可能性があります。もちろん、一時的なもので治っていくことが多いのですが、戻らずに深刻になっていくケースがあります。

そしてPANS/PANDASは大人にも発症します。この概念を知っておくだけで、日頃のお子さんを見る目や対応が変わるでしょう。数回にわたってお伝えしますので、ぜひお付き合いください。


PANS/PANDASの概念

PANS/PANDAS は1998年に初めてアメリカで報告されました。

溶連菌という細菌に感染したことをきっかけに、強迫神経障害、チック、親と離れることへの分離不安、 注意欠陥、気分が不安定になるといったことが起こるというのです。

このほかにも、強迫性障害、摂食障害、あるいは偏食などがみられることがわかってきました。男児に多いという点も含めて、発達障がいや自閉症の症状とよく似ています。

ところが、溶連菌以外のウイルスに感染した場合にも同じ症状が現れることがわかってきました。例えばヘルペスウイルス、コサクッキーウイルス、各種細菌。あるいは、ライム病(マダニを介して細菌の一種であるスピロヘータに感染して起こる)などにかかった場合。

難しい話ですがあえて詳しくお伝えすると、PANS/PANDASは、感染症をきっかけとして、脳幹にトラブルが現れた状態といえます。自己抗体が大脳基底核に変症を起こし、強迫観念、チック、ADHD様行動、気分変動などが現れます。統合していない原始反射の反応としてトラブルが生じます。

そして、発達障がいや自閉症の症状とまるで区別がつきません。

このPANS/PANDASの発症率は200人に1人くらい。結構な割合です。その割合も徐々に増えているのですが、日本の小児科医の多くが知りません。外来もわずかに個人クリニックで見られる程度です。

これに対して、アメリカではスタンフォード大学のような著名大学の附属病院に外来があります。スタートしてもう数年が経っています。

PANS/PANDASか、否か

ある日突然、いわゆる感染症が原因で起こるのがPANS/PANDASの特徴です。しかし日本では知られていないため、これを機に受診した病院で自閉症や発達障がいやグレーゾーンだと誤って診断されてしまいます。

私の専門を知っている方からは「パニック障害、副腎疲労や慢性疲労、あるいは起立性調節障害と、どう違うのですか?」と質問いただきます。

前提として、これらはすべて病名ではありません。何らかの病因ではなく、症状から付けられた症状名です。しかし、これらの特徴はPANS/PANDASと区別することが非常に難しいです。ほとんど同じ症状をみせるからです。

では、他の病気や発達障がいと、PANS/PANDASはどう違うのでしょうか。

私個人としては、発達障がいや自閉症のお子さんのサポートをしていますし、実際に症状が改善する例をみています。まして、元に戻る可能性があるのに改善しないとみなされることは残念なことです。

実はどちらにも脳幹のかかわりが深いです。PANS/PANDASに陥った状態は、間違った抗体免疫システムが働いて、脳幹を破壊や阻害しているからです。つまり、脳のダメージをケアする必要性が共通しています。

例えば、運動は効果があるのでやったほうがいいです。脳幹で起こる原始反射をととのえることで症状を落ち着かせる可能性があります。原始反射の統合運動は役に立つのです。

驚くべきこだわりの例

PANS/PANDASの代表的な症状のひとつが、強いこだわりです。

一口にこだわりといっても、PANS/PANDASなのかどうか一定の判断基準はあります。

まず、感染症などにかかったときや、その後からこだわりが出始めていること。あるいは、小さなお子さんにみられるイヤイヤ期をとっくに過ぎていたり(中高生・大人にもあります)、それまでなかった強いこだわりを示し始めてしまうこと。

こだわり以外にもたくさんのことが起こります。「うちの子、こんな子だったっけ?」「こんな態度しなかったのに」と、周囲が困ってしまうような態度をともないます。私のクリニックを訪れるお子さんの例をみてみましょう。一言ではくくれない、非常にさまざまなケースがあります。

ケース1 強いこだわり

線を描くときに定規を使わずにはいられない子がいます。線が曲がるのが嫌で、文字を書くときでさえ定規を使いたがります。

あるいは、三角形の形状は正三角形でなくてはならず、二等辺三角形やそれ以外を認めないといった調子です。

中には、消しゴムが削れてくると嫌がって、丸い消しゴムを放り投げてしまうケースもありました。

ケース2 偏食

食感、色、見た目などのこだわりが偏食として現れることがあります。

例えば、柔らかい食感が嫌なので、葉物野菜は生でないと食べないとか、パンの耳だけ食べるとか。逆に、柔らかいパンの中心だけ食べるようになる子もいます。

中には、「焦げたものは癌になる」と聞いたところから、焼き目がついている程度でも食べられなくなった子がいました。お母さんが食べようとすると「癌になる」と叫んで不安がりました。

ケース3 ビクビク、オドオド、パニック

ケース1〜2の最後に示したお子さんに共通することですが、ちょっとしたことに恐怖を増幅させてしまいます。

例えば家の老朽化が怖いとか、見通しのない道の角を曲がれない。「トイレくらい1人で行きなさい」と言われるお子さんがいますが、実はPANS/PANDASの影響だったりします。また、眠るときにライトをつけないと寝付けなくて常夜灯が必須になってしまうこともあります。

生物への恐怖もあります。僕のみた患者さんは、鳩を怖がって公園で叫び続けてしまう例がありました。対象が蝶やトンボの例もあります。人の手の甲に浮き上がる血管を怖がるお子さんもいますね。出血を想像してしまい、死につなげてしまうのです。もちろん、死に対する恐怖心は特別大きいです。

このほか、こだわりには、色、形、触感など、あらゆるところに見られます。発達上の特性に理解のある方なら、発達障がいやグレーゾーンの症状となんら違わないと感じるでしょう。

年代別にみる特有のケース

最後に、PANS/PANDASの様子を年代別に見てみましょう。実際に診療にあたったお子さんたちと、大人の方です。みなさん治療の甲斐あって回復されています。その方法については次回で詳しくご説明しますが、非常に悩んでいるご家族が多いという事実を知っていただきたいと思います。

幼児

「手足口病になってから急に発語が減った。母親から離れられなくなり、一人でトイレに行けなくなった。おかゆばかり好んで食べる。太陽光を眩しがって外に行きたがらない。癇癪を起こす。夜尿・頻尿になった。」

解説:母親から離れないことやトイレに一人で行かない理由は、臆病になったからです。おかゆばかりを好んで食べるのは、腸の状態が悪いのです。ミトコンドリアの機能も下がっているので、肉などの固いものを食べたがりません。お腹の状態が悪くなるので、カテコラミンが増えて、癇癪を起こします。太陽光を眩しがることは感覚過敏です。夜尿や頻尿は毒素の影響ですが、PANS/PANDASの主たる症状です。

小学校低学年

「弟が溶連菌に感染した際、小学生の兄も調子が悪そうだったが病院での検査は陰性だった。それ以降、兄は登校の支度の度に泣き始めるようになった。また、ボタンが止められないと言って癇癪を起こすようになった。」

解説:実は、溶連菌の検査結果には偽陽性、偽陰性が非常に多いです。インフルエンザやコロナも同様に、検査上は陽性反応が出なくても事実として体調がかんばしくないことはよくあります。
このお子さんは、不安が強く、母親がマンションのゴミ捨て場にごみを捨てに行くだけで泣き崩れてしまいました。夜尿・頻尿が出始め、洋服を着るのを嫌がり、着ても脱いでしまいます。また、簡単な足し算がわからなくなるなど、できていたことができなくなりました。
ここで多くの親御さんは叱りつけてしまいます。できていたことができなくなることに親としても驚くのですよね。すると、お子さんの不安や緊張が高まるので、原始反射も出やすくなります。

小学校高学年

「チックをするようになった。首や手首を振ったり、ボイスチックがある。学校でストレスがあるのではないかと疑い、宿題の免除やカウンセラーのサポートを得たが改善しない。また、“死”という言葉を教科書に見つけるだけでパニックになる。母親の手の甲の血管を怖がり、一人でトレイやお風呂にもいけなくなった。帰宅した父親が“おかえり”の言葉を待たずに玄関から入ってくるとパニックになる。」

解説:年齢が上がってくると、だんだん、周囲も理解のできない行動になっていくと感じませんか? 彼の場合、“死”に対する恐怖が急に高まった結果、血管を見ると敏感に血を想像してしまいます。“血=死”だと彼のなかでつながったため、お母さんの手の血管が見えやすいことにも恐ろしさを感じる。 予想がつかないことが不安なので、お父さんは帰宅すると必ず「入るよ」と言ってから中に入るそうです。あらかじめ決められたことでないと生活できない状態です。

中学生

「独り言を止めることができず、一通り言うと落ち着く。首や手を振るチックがある。自分で決めた順番で生活しないとパニックになる。鏡文字になり、四則計算や時計が理解できない。誰かが一緒でないと寝られなくなった。家の廊下が怖いので背中を壁につけて歩いている。」

解説:中学生くらいで独り言が始まると、精神の病気だと思われることがままあります。しかし決して精神的な病気ではありません。
また、高校生になってもPANS/PANDASになるお子さんはいます。胃腸炎を起こしてイライラがひどくなったところから、味噌汁やスープにネギが入るのも許せないようになるなど、周囲には理解し難いことをしてしまいます。

このように、PANS/PANDASにもいろんなケースがあるのです。そして実は、大人でもPANS/PANDASの症状になることが最近わかってきました。

40代女性

高校生の娘さんがいる方で、仕事も子育てもしていました。とても強いこだわりの持ち主ですが、ご自身のキャラクターだと思っていたのですね。落ち着きがないのも個性だと思っていました。

しかしよく調べると、実は、ライム病の発病をきっかけにこだわりが強くなっていることがわかりました。治療によってとても落ち着き「40歳を過ぎてから、初めて椅子に座って本が読めます」とおっしゃいました。

つまり、PANS/PANDASは、子どものほうが起こりやすいけれども、大人にも起こり得るのです。このあたりが、従来の医療の常識からすればユニークな点です。

特に最近は、アフターコロナで発達の遅滞やトラブルが起きる可能性が高まっています。そして、そういったお子さんは、自閉症、ADHD、学習障害などと捉えられてしまいます。

私自身も危機感を感じて、PANS/PANDASに関する本を製作しました。そういった理解を頭の片隅にお子さんを見ていただければと思いますし、一人でも多くのお子さんを救いたいと考えています。


最後に

日本ではまだ知られていないPANS/PANDASですが、ママはみんな気づいているはずです。ママたちはその変化を知っているし、自然なこととして受け止めていると思います。

大体の子ならば、回復すると元に戻っていきます。しかし、深刻な状態に陥り、自閉症や発達障がいのような症状になるお子さんもいます。そのうえ、大幅に成長が後退することもあります。そういった可能性を頭に入れながら、お子さんに接していただきたいと思います。

次回は、PANS/PANDASを引き起こす意外なトラブルについて紹介します。ぜひ対策まで知っていただきたいと思いますので、どうぞお付き合いください。

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