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ママパパにも知ってほしい!第7回「PANS/PANDAS(強迫神経症)③子どもを守る日常的ケアのすべて」

こんにちは。医師の本間龍介です。
子ども運動教室LUMO(ルーモ)」の栄養講習、今回がPANS/PANDASの最終回です。

PANSとは小児急性発症神経精神疾患、PANDASとは小児自己免疫性神経疾患のことです。つまりPANS/PANDASとは、強迫神経症状の総称のことです。感染症にかかったことをきっかけに、精神的不安や発達遅滞やさまざまな困りごとが始まります。昨日できたことが今日できなくなることもあります。

日本では知られていないPANS/PANDASですが、スタンフォード大学には外来があり、さまざまな研究がすすんでいます。

最終回のゴールは、PANS/PANDASの具体的なケアを知っていただくことです。抗生剤や抗ウイルス薬を飲むことは大事ですが、実は、もっと手軽ですぐにでもできることがあります。


PANS/PANDASから子どもを守るには?

PANS/PANDASの治療や、これを防ぐガイドラインとして、感染症の治療は重要です。しかし、抗生剤を使うのと同じくらい大事なことがあるわかってきました。具体的には6項目です。

環境 → 食事 → 整腸 → ミトコンドリアサポート → 解毒 → 免疫

これまで私の栄養講習に参加くださったみなさんはお気づきのはずです。脳をケアして発達を引き出す習慣は、PANS/PANDASのお子さんにも有効なのです。

もちろん、感染すれば抗生剤は必要ですが、そこで見られる強迫症状に対して向精神薬等を使用してもうまくいかない可能性があります。まずは環境を整え、これを土台に手段を積み上げていきます。早速、ピラミッドの内容を詳しくみていきましょう。

1. 環境を整える

まずは有害物質を減らすことです。PANS/PANDASや発達障がいのあるお子さんは、非常に毒素に弱いか、解毒が苦手です。

例えば排気ガスや農薬の影響から住環境をすぐに変えることは難しいでしょう。しかし、日用品の中から毒素を減らすことなら始められるのではないでしょうか。

柔軟剤や洗剤などは重曹やクエン酸などに切り替えるなど、あらかじめ有害物質を減らしましょう。あるいはカビ毒、マイコトキシンへの対策も大事です。基本は湿度管理と換気、さらにエアコンや洗濯機の掃除もしましょう。

また、電磁波を発するWi-Fi、スマートフォン、パソコンなどを避けることは難しいですが、寝室に置くのをやめるとか、さらされない時間や場所をつくりましょう。

口に入れるものについて言うと、フッ素はフライパンの焦げ付きを防ぐので重宝ですし、虫歯予防への有用性が知られていますが、場合によっては毒だと考えられます。脳にトラブルを起こす可能性があるため海外では嫌厭されがちです。とりわけお子さんはデリケートなので注意いただきたいです。

なお、マイクロプラスチックはホルモンバランスを崩すことも報告されています。ペットボトル、プラスチック製品の使用を減らすことも必要です。

このように、生活のさまざまな場面に毒素を含む製品が使われています。便利さを求めるがゆえに、わかっていても使ってしまうものもあるでしょう。しかし、毒素を避けた代替品は存在しますし、飲料ならば購入せずに自宅から水筒に入れて携帯すればいいわけです。全部はできなくても、毒素を含む製品の使用を少しずつ減らしていただきたいと思います。

2. 食事

常々お伝えしている通り、小麦を避けるグルテンフリーと、乳製品を避けるカゼインフリーは試していただきたいです。これだけでもお腹が整って改善することが多いです。

また、オーガニックや遺伝子組み替えでない食品を選びましょう。積極的に旬のものを食べ、保存料やホルモン不使用の食材をとりましょう。

さらに肉ならば牧草飼育の肉がおすすめです。本来、牛は草を食べて育つ動物ですが、和牛はトウモロコシや小麦を食べているので、質が異なります。自然な育ち方をした肉のほうが人間にもいいです。

油なら、カゼインを抜いたインドのギーというバターや、アボカド、オリーブオイル、亜麻仁油などの良質な脂肪をとることです。特に脳は油でできているので、いい油をとりましょう。これに反するのが、お菓子の油、いわゆるショートニングやマーガリンですから避けたいです。

また、そもそも便秘のお子さんは多いのですが、充分な水分と正しいミネラル摂取は不可欠です。大人と違って子どもは塩分不足なこともあります。加えて、マグネシウム不足のお子さんも非常に多いので、にがりを食事に混ぜることもおすすめです。

食べる量をふやすためには、食べやすさも重要です。大人に比べて子どもは噛む力が弱いので、肉なら刻んでひき肉みたいにしてあげたり、野菜ならスープなど食べやすくしてあげます。

さらに、その食材が子どもの体質にあっているかにも注意してください。一般に健康食品だと思われているものでも、食後に痒みが出たり興奮状態になるならば、体質に合わないこともあります。

例えば、一般にいちごはお子さんに好まれますが、アレルギー作用があり、食べるとイライラするお子さんがいます。いちごはビタミンやミネラルが豊富ですが、その子の状態を観察して食べるべきか検討いただきたいです。

意外にも、目の下のクマも寝不足ではなくて食物アレルギーのサインかもしれません。これが普通だとか、こういうものだと決めつけず、より良い状態にすることができないかという目線をもっていただきたいです。

次回の講習で詳しくお伝えしますが、ヒスタミンを減らすことも非常に効果的です。ヒスタミンは、アレルギーやアレルギー様症状を引き起こす原因物質としてよく知られています。

フェノールの影響

「フェノール添加物」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。フェノールは主に、動植物や微生物が、侵入者あるいは殺虫剤や阻害剤のような毒素から身を守るために分泌する成分です。化学フェノール類で最もよく知られているのは、プラスチックに含まれるビスフェノールA(BPA)、トルエン、石油、ベンゼンなどです。

細菌や生物によっては、昆虫や病原菌からの攻撃や傷害といった何らかのストレスに反応し、フェノールを産生することもあります。

人へのフェノールの影響としては、目の下のクマ、顔や耳が赤くなる、蕁麻疹ができてしまうといった症状です。頬が真っ赤になった、いわゆる赤ら顔のお子さんを見る機会があると思いますが、フェノールが原因である可能性があります。

フェノールが分泌される原因は、腸内にクロストリジウムという悪い菌が増えたことです。クロストリジウムとは、広く自然界に存在する菌です。お腹の状態が悪くて便秘や下痢をすると、皆さんイライラする経験をお持ちだと思います。

クロストリジウムが増えると、フェノールが出て酵素機能を阻害します。すると、カテコラミンというアドレナリンが分泌されてイライラするのです。特にお子さんの場合は皮膚にシミなどもなくきれいなので、赤みとのコントラストがはっきり出ることが多いですね。

このように、頬の赤みすら、子どもにとっては調子を伝える兆候になりえます。今日は頬が赤いから調子が悪いのか、何を食べたのか、逆にもし調子がいいなら何が違うのか、…というふうに、顔色や表情から子どもたちの情報を得ていただきたいと思います。

なお、フェノールの影響を防ぐうえでも、お腹の調子を整えてうんちを出し、毒素を入れないことは大事です。

3. お腹を整える

食べ物が合わなければお腹が整わないので、便秘、下痢などの症状もあるでしょう。

以前、うんちカレンダーをおすすめしました。回数、形、お腹の張りが基本で、それに伴う子どものメンタルステイト、睡眠、機嫌まで記録できたら満点です。

日本人ならば、発酵食品や食物繊維を増やしてお腹を整える傾向にあります。しかし実は、それらがお腹の調子を悪くしていることがあります。特にグルテンとカゼインはお伝えした通りです。控えたらどうなるか、一度試してみてください。

お腹を整える4つの“R”

お腹を整える方法はさまざまあります。次に紹介する方法は日常の食事から実践できるものです。それぞれの頭文字がRでわかりやすいですから、ぜひ覚えていただきたいと思います。

REMOVE(除去):抗生剤は、前出のクロストリジウムのような菌を抑えることもできますが、医療機関でなければ入手できません。また、ヘルクスハイマー反応があるために抗生剤を飲みたくないならば、食事で十分対応できます。つまり、抗真菌剤や抗菌剤、抗寄生虫剤や抗ウィルス剤に近しい効果を発揮する食品をとればいいのです。
ニンニク、生姜のような香りの強い野菜、オレガノ、オリーブの葉エキスのようないわゆるハーブ類、レモンなどからビタミン類をとると、お腹の治療効果があります。生姜焼きのような一品はタンパク質もとれておすすめです。レモン汁入りのドリンクを飲む、肉料理のアクセントにオレガノの葉っぱを入れてみるといった方法で、簡単にお腹を整えることができます。

REPLACE(代替・補充):消化吸収のサポートのために、乳酸菌をとることはあまりおすすめしません。その多くが牛乳、ヨーグルトなど、乳製品からできているのでカゼインを摂取してしまいます。それよりは消化酵素を入れてほしいと思います。例えば、パイナップル、生姜、いちじく、玉ねぎのほか、アレルギーでなければパパイヤでもかまいません。日本人に親しみのある大根おろしにはアミラーゼが豊富です。焼き魚の横に大根おろしや生姜が添えてあることには、お腹の消化酵素を増やして消化を助ける意味があるのです。

REINOCULATE(植菌):健康な腸内には、正常細菌がたくさん存在します。これを増やして微生物のバランスを再構築することが植菌です。乳製品由来のもの以外にも、お腹の調子を整える菌を増やす食材はあります。例えば、食物繊維の豊富な海藻や野菜。ブロッコリーや人参には、アミラーゼも含まれています。ペクチンも食物繊維の一種ですが、バナナやリンゴ、柑橘類に含まれています。

REPAIR(修復):腸の粘膜をサポートして腸を健全な状態へ導くことが修復です。これによって免疫力も高まります。グルタミンの豊富な生魚もいいですし、オクラやアロエには腸管バリアの修復効果があります。また、ビタミンAやB群は修復に必要な成分なので、積極的に摂取したいですね。

4. ミトコンドリアサポート

おさらいになりますが、ミトコンドリアは体の10%相当を占めます。体内でエネルギーをつくる細胞内小器官ですから積極的に整えましょう。なお、ミトコンドリアが嫌う三大要因は、発熱、感染、脱水です。

ミトコンドリアサポートのために私のクリニックではサプリメントを処方しますが、基本は体が熱くなりすぎないようにすることです。具体的には、温度管理や衣類の調整などで放熱したり、熱中症予防をしたりします。運動中の適切な休憩も大事です。

また、風邪をひくと脱水しやすいですが、脱水は大敵です。ミトコンドリアが働くには水が必要です。水分摂取によって働きを高めることができるので、こまめな水分摂取を心がけてください。

しかし、ミトコンドリアの数を増やすなら、特に有酸素運動が効果的です。子どもなら追いかけっこや鬼ごっこなど、楽しくて夢中になるほど長く運動できます。

ミトコンドリア機能の歯車

また、ミトコンドリアのサポートにはいろんな栄養素が必要です。ビタミンやミネラルは、ミトコンドリアのクエン酸回路、PCA回路のサイクルに必須ですが、前提として、炭水化物、タンパク質、脂肪(脂肪酸)を適切に摂取していなくてはなりません。つまり、どんな栄養素も満遍なくとれていなくてはならないのです。

それと同時に、偏った栄養素があってもビタミンやミネラルが不足すると、エネルギーはつくられないというわけです。まるで水車のように、各栄養素が歯車一つひとつになって回っているのだとお考えください。

5. 解毒

デトックスといえば、最近の流行はサウナですが、発汗や利尿作用のあるものを食べるといっそう効果が高まります。おなじみのニンニク、生姜はもちろん、パクチーもいいです。肝機能を高めるなら、アメリカではタンポポ由来のお茶やコーヒーを飲んだりすることもあります。

カレーを食べたいのは疲れのサイン?

またスパイスといえば、昔からカレーは日本人にとっても人気のメニューです。特に近年はインド、タイ、パキスタンなど、スパイシーなカレーが流行しています。僕はその理由を、日本人が潜在的に解毒したいというサインだと考えています。つまり、それだけストレスを感じているということです。

インドはご存じのように50度に迫る日があるほど暑い気候なので、食材がいたみやすいです。すると意図せず毒素が入ってしまうので、スパイスで解毒する文化が根付いているのでしょう。日本人がカレーを欲するのは、体が疲れているからだと思います。事実、汗からも毒素は出てくるのですから。

ハーブやスパイスは香りや風味が独特なので好き嫌いもあるでしょう。シナモン、サフラン、クローブ、ターメリックなど、どれでなくてはならないことはないので好みのものをとってください。自分にとって心地いいと感じるハーブは、体が欲しているものです。自分らしい解毒方法だと思って摂取いただければいいですね。

6. 免疫

体内に侵入した細菌やウイルスと戦うために、免疫に働いてもらわなくてはなりません。この免疫が働くためには、たくさんのエネルギーが使われます。日常で最もエネルギーを使うのが脳や心臓、肺といった内臓ですが、風邪をひいたりすると、このエネルギーは免疫系に使われるわけです。

理想の体温

免疫が最も働く体温は37度以上です。体温を上げるため筋肉にエネルギーを使うのですが、病気になるとエネルギーが足りなくなります。子どもの頃、風邪をひきそうなときに「もう1枚着なさい」と言われませんでしたか?外から温めることで、免疫系が働きやすくなるお手伝いをする意味があることを、人は経験的に知っているのです。

ところで、人の体温の理想は平時で37度前後、最低でも36度5分以上が望ましいです。35度台では免疫が働きづらいため、風邪のようなウイルスにかかりやすく、もっといえば、癌にもなりやすいです。体温を高めるには、筋肉量をつけて健康的な生活をすること。徐々に36度5分以上に高めることができます。

ビタミンで免疫アップ

免疫力アップに非常に重要な成分は、ビタミンB、C、Dです。特にビタミンDが不足すると免疫力が下がることがわかっています。さらには、メンタルが落ち込みやすいので、鬱になりやすいことがわかっています。

どうしたらビタミンDがつくられるのかというと、太陽に当たることです。太陽に当たらなければ、活性型のビタミンDはつくられません。

個人的には、コロナ禍の自宅待機がビタミンD不足を引き起こしてコロナ感染者数を増やした可能性があると思っています。

そもそもここ30年近く、美白の流行で日焼け止めを塗り、帽子をかぶり、日傘をさす方が増えました。これでは、ビタミンDをつくることができません。もちろん、日焼けによる皮膚がんの懸念もありますし、シミやシワを嫌がる方もいらっしゃいます。

しかし、皮膚がんになるほどの日焼けは相当なものです。私も医師の妻も50歳台ですが日焼けをします。シミやシワのケアに忙しくするよりも、免疫力が高くて、精神的にも幸せを感じるほうがよっぽど人生に必要だからです。

決して長い時間浴びる必要はありません。5分からでも効果が出ますし、15〜30分ほど浴びれば十分なのです。昼休みにちょっと浴びるだけでビタミンDは補充できます。 ぜひ免疫力アップのために実践してください。

さらに、免疫力を高めるためにはよく眠ることです。もちろん、充分な睡眠は発育発達も促します。最近は、睡眠時間の短いお子さんが多いですね。子どもの睡眠時間の理想は10時間、最低でも8時間は必要です。

ポジティブワードで心を守る

また、心と免疫は切っても切り離せません。現代は子どもですらいろんなストレスにさらされています。子どもにとってどんなことがストレスなのかを知ることは大人のつとめです。

また、ネガティブなワードで体調が落ちた経験はありませんか?例えば、スポーツの試合に勝った翌日は気分が上がって免疫力も高く、体調がいいものです。しかし試合に負けたあとは体調が落ちるし、風邪をひいたりもします。

そのうえ日本では、試合に負けると監督やコーチが非常にネガティブなワードを言います。子どもを弱気にする言葉が、体調を崩す要因でもあるのです。「なぜできないの?」と言わずに「練習中だね」と言い換えてあげるなど、ぜひ、ポジティブな言葉がけをしていただきたいと思います。

最後に

ここまで長くお付き合いいただきありがとうございました。

症状が疑われる場合には、真っ先に環境を整えることです。そして、PANS/PANDASを発症しないためには、トラブルを感じる前から6項目のケアを日常に取り入れることです。その積み重ねこそが予防になります。

さらにスタンフォード大学では、このピラミッドを実践しながらの運動プログラムが有効だとアドバイスしています。

また、すべてやろうとするのではなく、できることから少しずつとりいれてください。悪いものを1〜2つ減らしたら、その分できることを増やすのです。忙しいママパパが実行可能でなくては意味がありません。

特にお子さんは、不調を言葉にすることができていないことが多いです。態度や学習やスポーツや遊ぶ様子にあらわれます。いつもと違うように思ったら、責めたりせず理由があるかもしれないという視点で見てあげてください。薬以上にお子さんを元気にするものがきっと見つかると思います。

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