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登山道整備に行ってきた(石割山登山道補修プロジェクト)
縁あって、山梨県山中湖村で12/1から4日間開催された、石割山登山道補修プロジェクトに二日間、参加させていただいた。
石割山登山道補修プロジェクトとは
主催は、NPO法人富士トレイルランナーズ倶楽部。元々は富士山をぐるっと一周160kmを走るウルトラトレイルマウントフジ(UTMF)を開催した団体が元になっている。
大勢が走るトレイルマラソンは、登山道が踏圧で荒れてしまう。それがきっかけで、2022年7月から、石割山での登山道修復がはじまった。
このプロジェクトは、「近自然工法」の技術者の指導のもと、地元住民や地元自治体、外部からのボランティア、管轄の環境省と共に登山道補修を進め、継続的に環境保全がなされるよう技術の習得とシステム作りの構築を行い、地域の観光資源の有効活用につながつよう、有意義な社会貢献の活動を目指しています。
そこで初回から技術指導を担当しているのが、大雪山・山守隊代表の岡崎哲三さん。高校生のころに大雪山の山小屋でアルバイトをして以来、大雪山の自然を見つめ続けてきた方だ。荒れゆく登山道をなんとかしたいと、長年登山道整備に取り組み、全国の登山道修復の指導で飛び回っている。
石割山の荒れた登山道
修復した石割山の道は、どういった状況だったかをみてみたい。
年間利用者は、2万5000人くらい。入り口にカウンターが設けられていて、調べている。人気の理由は山からの眺め。山頂ではドーンと大きな富士山を山中湖とともに眺めることができる。上り口には駐車場があり、1時間程度でぐるっと周回できる、手頃な距離感、高低差のルートだ。
途中には石割神社という巨岩を祀った神社があるのも、登山のアクセントになっている。
関東はどこもそうだが、このあたりも積雪がないので、冬でも軽装備で楽しむことができる。空気が澄むので、富士山を眺めるならむしろ冬の方がいいのかもしれない。
年間に訪れる人が多いため、踏圧による道のダメージが大きい。加えて、冬は霜柱ができて、さらに道を荒らす原因となっている。
今回補修した場所
今回は石割山山頂からちょっと外れて、東海道自然歩道の一部を整備した。
東海自然歩道は環境省が定めた道。東京の「明治の森高尾国定公園」から大阪の「明治の森箕面国定公園」まで、11都府県、延長は1,748kmのロングトレイルだ。
今年は制定50周年ということもあり、石割山のトレイルから入ったコースの一部を直すことにしたそうだ。
道の状態
道は、「ガリー」と呼ばれる、水の流れによって土砂が削られている状態。
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場所にもよるが、だいたい幅1メートルくらいで深く掘れている。たくさんのひとが歩いて踏みかたまったところに水が流れて、雨のたびに粒子の細かい土砂が削られていく。
さらに真ん中に細い溝がある区間もある。流量が少ない時期は道の中央だけが削られるので、細い溝ができるのだろう。
冬の河川ではこういった地形になりやすい。少ない流量が続くと、常に水が流れている本流付近だけ、細く掘れていくのに似ている。
つねに細かな粒子の泥が流れているので、道の表面はツルツルして滑りやすい。細かな粒子の泥が上部から供給されるので、目のつまった表面になっていく。足がかりになるものがないため、とても歩きにくい。
斜面が急などころは、削れが激しい。
特に斜面の角度が変化している段差付近は、深く掘れている。
どんな補修をしたのか
近自然工法
スイス、ドイツで考えられた近自然学が元になっている。登山道整備では、その中でも「近自然河川工法」の流れを汲んでいる。
めざすのは、登山道として歩きやすいだけではなく、環境の保全・回復が促される状態。
深く掘れた道を埋め戻して、登山道がなかった(掘削される以前)の山の状態に近づける。
法面を安定させて、下層植物が生きられる環境をつくる。
作業が終わった段階が完成ではなく、時間経過とともに土砂がゆっくりと動き、植物が生えて地表を覆うところまでを考える。
具体的には
急角度の荒れた部分は、大きな丸太を組む。
掘れた道を元の位置に近いところまで埋め戻すために、路面を上げたい高さで組む。
組んだ丸太の下の空間に、、木っ端、木の枝、落ち葉、土の順で埋めていく。埋める材料は、周辺の材料によって変わる。
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掘れて道幅が広くなったところは、道を狭める。自然環境が戻る面積をできるだけ増やすため。狭くしたところは、木組み、土嚢などを用いてすき間を埋めて、法面をつくる。
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空気と水があたって削られた法面は、土嚢ですき間を埋めて安定させる。
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どんなことをやったのか
やった作業
丸太を切って組む作業は、知識と技術のあるひとが担当する。登山道は、道を整備したものが安全の管理責任をもつため。
ボランティアの参加者は、主に、資材を集める、運ぶ作業を担当した。
丸太を引き上げる、運ぶ
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枝や細めの木、落ち葉を集める
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土嚢を作る、運ぶ
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役割分担
ひとによって体力、筋力が違う。それぞれができることを役割分担して、作業が進められた。
おしらせ係 登山者が来た時に作業者にしらせる。作業を中断して安全に通ってもらう。登山者に登山道整備のチラシをわたして、活動を説明する。
進行係 作業の進み具合にあわせて、必要な部材をその都度修復現場に届くようにする係。材料を切り替えるタイミングや量などを判断、指示する。
主要な作業を担当するひと 大きな丸太を組むなどの実作業を担当するひと。知識と技術とセンスが必要。
資材を集める・運ぶ 材料を周りから集める、適当な大きさに切り分ける、運ぶひと。もっとも時間も手間もかかる作業。ボランティアで集まったほとんどは、この作業をする。
参加者はトレランをやっているひとが中心。山の中を長距離走っているだけあって、とても体力があるひとばかり。
重い丸太を引き上げる、土嚢を背負子で運ぶ、などを率先してやっていた。ヘトヘトになるくらいに力を使うのが心地いいと感じて、参加しているひとが多いようだ。
オーガナイズがすばらしい
今回はワークショップではなく、登山道整備を目的とした活動。とはいえ、はじめて参加するひとに対しては、半日のツアーを開催している。内容は、山と地域の歴史の説明、登山道によってどんな環境の変化が起きたのかを観察、今までやった登山道整備の説明(ビフォー&アフター)など。この団体がなぜ登山道整備をしているのか、どんなことをやってきたのかを知ることができる。
作業に入ると、あえて整備について説明する時間は設けられていない。それでも参加者の満足度が高く、募集をするとたちまち人数が埋まるくらいに人気だ。
何より、オーガナイズがすばらしい。さすが2000人規模のトレラン大会を主催しているチームだけあって、当日の進行はとても滑らか。大勢の参加者がいるにもかかわらず、混乱することはなかった。
安全管理、事前の班分け、担当すること、車や宿泊、内容(初めての人に対して観察と説明)、終了後の写真共有などなど、準備や段取りが完璧だった。
実は、登山道整備は整備する以前の調整がものすっごく大変。道の管理者、周辺の土地所有者、そのひとたちの信頼を得るための事前のやりとり。
作業終了後に、富士トレイルランナーズ倶楽部代表の三浦さんによる座学では、そのあたりのことについても知ることができた。
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石割山登山道整備は、登山道を直す実作業以外の部分で、とても学びの多い時間となった。