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どうすれば数学の授業で歌えるか
中1の3学期クラス全員から無視されていた。
原因は私の態度がでかいとか、他人に対して意見を押し通しすぎることだった気がするが、無視されだすと静かな世界になるから、そんなことはどうでもよくなる。
昼休みや移動教室の時に話し相手がいないというだけで、中学生は真っ暗な孤独に突き落とされた気持ちになる。私はひたすら吉本ばななの『ハネムーン』とバリ島に行ったエッセイ『バリ夢日記』を読むことでなんとかクラスに留まっていた。自分の辛さは親や先生に相談しても、解決できなことはわかりきっている。だからひたすら本を読んだ。
本を読んでいたら、新しい学年になってクラスが変わった。
出席番号順に並んだ席の後ろに小松がいた。どういう自己紹介をしたのか、どう仲良くなったのか全然覚えていない。ただ、私の発言を全部おもしろがってくれる人だった。私たちは互いを「小松」「後藤」と苗字呼び捨てで呼びあう関係になっていた。
当時は言語化できていなかったけど、中学校という場所はとにかく同調圧力がすごい。小学生のころにはなかった厳しい校則が助長しているのか、その年齢の人たちを塊として扱うからなのか。女子と男子がくっきり分かれて、ちょっとでも異性と仲良くしたら「好きなの?」と噂が立つ。みんな他人に興味がありすぎて、でも自分に自信がなくて、放っておくことができない。
これをどう打破するかが私と小松のテーマだった。
我々が住んでいた田舎において、はみ出すというのは不良になるということだ。でも不良はかっこよくない。わかりやすく「やってはいけない事」をやるなんてそんなの全然楽しくないのだ。
先生に怒られずに自由に好きなことをやる。
服装や学習態度など真面目な表層さえ保っておけば、意外と好き勝手に動ける余地があることを、小松と私はつかみつつあった。
まずは共通して好きなことを挙げていった。私は吹奏楽部に所属していて音楽が好きだった。小松もピアノが弾ける。気づけば彼女も吹奏楽部員になっていて、練習に明け暮れた。合唱コンクールの季節になると、全クラスのハモりが歌えると楽しいよねと、他のクラスの部員からアルトパートを教えてもらって、自在にハモれるようにした。校則で音楽プレイヤーの持ち込みは禁止されている。でも、アカペラで歌うのは禁止されていない。聴けなかったら自分がプレイヤーになればいいんだよという発想で、我々は歌いまくった。1組が中庭で練習していればそれを窓から見下ろしつつハモり、4組が歌っているそばを通り抜けながら小声でハミングしてクスクス笑う。各クラスのアルトパートを覚えるだけでものすごい自由を得た気持ちになった。
数学の授業中にも歌ったことがある。
公式を説明した後に問題集をやるのが基本の流れで、問題集が早く終われば時間が余る。小松は数学が得意だったので余った時間に英語の宿題をやったり、寝たり、好きに時間をつかっていた。そこに歌が挟めないかと思いついたのである。
「お勉強感を出さないと先生のOKは出にくいだろうから、選曲は合唱コンクールの課題曲一択だよね」
「うるさいのが問題だよなあ、授業妨害にならない歌い方ってあるのかな?」
「ベランダに出て歌うとか?」
そのような打ち合わせを経て、問題集を早く終わらせ、先生に恐る恐る打診するとなんとOKが出たのである。
拒否したらより面倒臭いことになりそうな二人だと思われたのか、小松の優等生ブランドが効いたのか、先生の優しさなのか、理由はよくわからない。でも我々は数学の時間に歌うことに成功した。授業をサボって屋上でトランジスタラジオを聴くのもいいけど、問題を解いてからベランダで歌うことも気持ちがいい。小松がソプラノで私がアルト。考えて動いて新しい何かを始める。
歌い終えた後「これはもういいな」という気分に二人ともなって、それ以後数学では歌わなくなった。
【以下制作の裏話、読みたい人だけ読んでね】
このエッセイはもともと、漫画「瀬戸内の後藤さん」の第2話を想定したものでした。文字ネームまでは早いのですが、漫画として絵におこすことにめっちゃ時間がかかる。だから試しに、文章のエッセイにしたらどのぐらいなのかなと、PCに向かったら1時間半で終わったんです!!
ぐわー!
文章だったらするする書ける〜なにこれ〜!!
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私は何をどう伝えていけばよいのか……
やはり漫画なのか……色々考えています。