耳抜きはしっかりしましょうというハナシ
こんにちは、ユウキです。
久しぶりの投稿です。
最近、僕の周りでも素潜りをする人がちょこちょこ増えてきたのですが、その人たちの為に少しでも参考になればと思い、今回僕の身に起きた事件と、そこからの僕なりの学びを書くことにしました。
事件は突然起こった。
数日前のことです。
10月の末とはいえ、まだまだ水温は20度を超え、潜り日和が続く五島列島。
島外からアマチュア寿司職人の友人も訪れ、「じゃあいっちょ寿司ネタでも取りに行きますか」と元気よく海に繰り出しました。
この日のコンディションは、ベタ凪で透明度も高く、海底もはっきりと見えるほど。
気づいた頃にはだいぶ長い距離を泳いでおり、疲れも溜まっていたのですが、この日の狙いの魚はまだゲット出来ていませんでした。
この時点で友人は諦めて帰還。
陽も傾き、僕もそろそろ諦めて帰るか、と思ったその時、岩の下からあれよあれよと、この日の狙いの魚が湧いてきました。
その狙いの魚とは、ずばりクエ。
一匹何万円なんて値がつく、超高級魚です。
さらに、同じく高級魚のアカハタなんかもチラホラ。
「これは、最後にいっちょ獲って帰るしかない。」
そんな思いで、水深10m強を潜り、手銛を放ちました。
見事、いい感じのサイズのアカハタに命中。
ハタ系の魚は銛で突かれると、岩の下に潜って逃げようとします。
その岩の下に手を入れ、魚を引きずり出したその瞬間。
「ぷヒュ〜〜〜〜〜ッ!!!」
という、風船を針でつついた時のような音が右耳の奥の方で響き渡りました。
「あ、ヤバイ。鼓膜やっちまった。」
そう思った直後、今度は激しいめまいが襲いました。
平衡感覚を失い、水平線が右へ左へと、激しく45度位ずつグラングラン傾いて見えます。
よく、スイカ割りなんかでバットを頭につけてグルグル回ったあとのような、あの感覚です。
とりあえず銛先に魚を刺したまま、水面まで浮上します。
あとで分かったことですが、海中で平衡感覚を失うと「本人は水面に上っているつもりでも、実際には潜行してしまっている」なんていう恐ろしい現象も起きうるらしいのです。
僕の場合はたまたま既に着底していたため、1方向しか行き先がなかったことと、めまい(専門的には「回転性めまい」と言われる)が45度以内の中で起こっていたため、かろうじて方向感覚があり、水面まではスムーズに帰還できました。
もし、360度グルグル状態だったら、それも難しかったかもしれません。
その後、たまたま様子を見にSUPに乗ってやってきた妻に助けられ、無事に陸に戻ることが出来ました。
自己判断では、「破れた」と思った
今まで、一度も鼓膜を破ったり、耳の怪我をしたことがない僕でしたが、感覚的に「鼓膜が破れた」と思いました。
本来ならすぐに病院に行きたい所ですが、この日は土曜日。
耳鼻科が開く月曜までに激痛があれば急患で総合病院に行くことも考えましたが、とりあえず耳に痛みはありませんでした。
耳に水が詰まったような感覚はあるものの、聞こえないわけでもない。
とりあえず、ネットで色々調べてみると、「潜水医学」という分野があり、その道のお医者さんが書いている記事を発見しました。
その結果、
1.鼓膜が破れているか、いないか
→破れてないなら1週間くらい放置して治ることが大半
2.鼓膜が破れているなら、どのくらい破れているか
→小規模なら、同じく1週間程度放置すれば治る
3.鼓膜より奥の器官(中耳や三半規管など)を損傷しているか
→2週間以内に手術をしないと最悪の場合、難聴になる
というようなことがわかりました。
なお、三半規管にダメージがある場合の典型的な症状として、前述した「回転性めまい」があるということで、僕の不安はピークに達しました。
本来ならこの時点で、気持ち的には急患行き確定なのですが、ここは田舎の離島。
総合病院に行ったからといって、専門医が必ずいるわけでもなく、「後日、専門の先生が何曜日にいますから、また来てください。」と言われることもしばしば。
なので、とりあえず月曜まで様子を見ることに。
幸い、月曜までの2日間、痛みはありませんでした。
しかし、これは嵐の前の静けさに過ぎなかったのです。
意外な診察の結果
さて、月曜になりました。
耳鼻科が開くのは朝の9時ですが、ここは田舎の離島。
ルールはあってないようなもので、オープン30分前には午前中の予約が埋まるなんてこともしばしば。
一応、8:30に電話してみると、「今はまだそんなに人はいません」との回答。
「そんなに」って何だ。
「朝9時から」という表記の意味って何だ。
という矛盾を感じつつ、耳鼻科に急ぎます。
診察まではスムーズに行き、聴力テストやら、顕微鏡検査やら、かなり丁寧に診察してもらいました。
結果から言うと、
「鼓膜は破れていない」
とのことでした。
ただし、鼓膜が充血して腫れているとのこと。
原因は、2つありました。
ひとつは、「耳抜き不良」。
ふたつめは、予想だにしなかった、「鼻詰まり」。
どう言うことかと言うと、
鼻が詰まる
→鼻の奥の空気が換気されない
→バイキンが増える
→耳抜きの際に、そのバイキンを多く含んだ空気を耳の方へ送り出す
通常時なら、この程度のバイキンなら免疫が勝つようなのですが、ここに「耳抜き不良」が関わってくると、状況が一変します。
僕の場合、前々から右の耳の方が抜けやすい、裏を返せば左の耳の方が抜けにくい、というのは感じていました。
今回に関しては、
いつも通り、右が先に抜ける(この時の右耳にかかる空気圧を10と仮定)
→左が抜けないので、さらに空気の圧を強める
→20くらいの空気圧で左耳が抜ける
→その際に既に抜けている右耳にも20の圧がかかり、勢いよく空気が飛び出す (僕が耳の中で聞いた爆音)
→その際の爆風で三半規管が揺れる (回転性めまい)
→一連の流れでダメージを負った右耳では、免疫による回復力が下がり、前述したバイキンによって化膿したり腫れ上がる
という流れでした。
つまり、通常ならなんてことないダメージでも、免疫が著しく下がるととんでもないことになる、ということです。
実際、この診察の直後から体調が急変しました。
真の戦いが始まった
「鼓膜は破れていない」
その事実は、多少、気持ちを楽にしましたが、今度は間髪入れずに体に異変が起こり出しました。
まず、この2日間何もなかった痛みが待ってましたとばかりに登場。
痛みの種類としては、耳の奥にたんこぶがある感じ。
常に耐えきれないほどの痛みがあるわけではないものの、ランダムな周期で「ドクッ」という音とともに痛みがやってくる。
辛いというよりウザい痛み。
痛みの次は、高熱。
なんと、38.8度まで上がりました。
昨日まで何もなかったのに。
さらに、イヤホンで誰かの心臓の音を音量MAXで再生されているような「ドクッドクッ」という音が常に聞こえる。
その音に連動して、何かふわふわしたものを耳元でこすりつけられているような、「ガサガサっ」という音も常に聞こえる。
「ドクッ」と「ガサッ」は連動して0.1秒差くらい。
これが、とにかくうるさい。
安静にして寝ていようと思っても、全く寝れない。
それでも、高熱でダルさMAXの体では動くこともできず、寝れているんだか寝れていないんだかわからない状態で、数時間が過ぎました。
次に待っていたのは、耳から黄色い汁がとめどなく出るという症状。
これも、出るならいっそボタボタ出てくれればまだ良いのですが、点滴を10倍スローにしたような速度で、1~2分に一滴、小さなしずくが出てくる程度。
その間、ゆ〜っくりと耳の中を伝ってくるのがなんともくすぐったい。
ティッシュやらなんやら駆使しても、液体の発生源が耳の奥なので、かなり手前にこないと吸い込めない。
結局、1~2分の間、耳の中を伝ってくるストレスからは逃げられませんでした。
この気持ち悪い液体の症状は丸一日続きました。
(1日で終わって本当によかった)
ちなみに、熱は2日間続きました。
時代はコロナということもあり、数日以内に高熱になった人は色んな意味で警戒される今日この頃。
予定していたスケジュールも大幅に変更せざるを得ませんでしたが、高熱の中でそういう電話のやりとりをしたりするのもかなりしんどかったです。
実はまだ完治していない
そんな事件があってから、今日でまだ4日目。
熱は下がり、散歩できるくらいには回復したものの、耳の詰まり感はまだ抜けていません。
お医者さんからは、「1週間くらいで治ると思うから、そしたらまた潜って大丈夫」と言われましたが、あと3日で本当にそのレベルまで回復するのか、期待と不安が入り混じる今日この頃です。
ピーク時の高熱やら、痛みやら、謎の液体やらを考えると、順調に回復はしているのでしょうが、慎重に経過を見ていきたいと思います。
怪我の功名
今回のような事故があったことで、「耳抜き」の大切さを再確認すると共に、「出来てるつもりで、実は出来ていなかった」ということがわかりました。
そして、今回決心したことは、これから自分の「耳抜き」を一から見直し、ちゃんと出来るようになるまでのプロセスをまとめて、同じような人にシェアしようと思ったことです。
耳抜きについての誤解と新事実
実は、初めてスキューバダイビングをしたころから耳抜きが苦手でした。
それだけに、海の近くに住んでからはあれこれ試行錯誤を繰り返し、10mくらいまではストレスなく潜行出来るようになりました。
しかし、10mを超えるあたりから耳抜きがうまくできず、大物の姿を目撃してはすぐに浮上、ということを繰り返していたのです。
素潜り仲間にも色々助言を求めたりしても、「10mまでいけるなら、その先も基本的には同じ。行けないなんてことはない。」という意見が大半でしたが、今思うと、「抜けた」と思っていたあの感覚自体、実は完璧に抜けきってなかったのではないかと思うのです。
というのは、10m以上でも以下でも、これまでは、
耳に違和感を感じる
→耳抜きを試みる(その間も潜行 : ウェイトの重みで自然落下)
→多少、違和感が緩和されるが、すぐにまた違和感が発生
→次第に、違和感増加のスピードが、耳抜きによる緩和のスピードを上回り、弱い痛みに変わり始める
→痛みに変わり出したくらいで着底(10m弱の場合)、もしくは浮上(10m強、まだ底まで距離がある場合)
→着底してから何度か耳抜きして、完全に抜き切る (痛みは消えるが、違和感は多少残る)
というプロセスを繰り返していました。
しかし、今回、偶然このようなきっかけで「潜水医学」なるものに出会い、その記事を読んだ所、「違和感を感じている時点で、耳抜きのタイミングが遅すぎる」とのことでした。
いわく、正しい耳抜きとは「違和感すら一切感じる前に、しておくべき処理」だそうです。
この点において、僕は決定的に認識の違いがありました。
さらに、「耳抜きは一瞬でするもの」「その際に「プスッ」という音がするらしい」という認識でしたが、実際には数秒かけてゆっくり抜かないと抜けない人もいるし、音がしない人もいるようです。
抜ききれてないと、その圧がどんどん積み重なり、「耳抜きをしているはずなのに違和感は増して行く」という状況が生まれたのだと思います。
ちなみに、この耳抜きの際の秒数(?)は、前述した鼻詰まりなどのコンディションによっても異なるため、単純な秒数などを基準にすることは出来ません。
いつもと同じ長さの耳抜きをしたからといって、鼻詰まりなどで空気の通り道が閉じてしまっていては、そもそも空気が届いていないのです。
「鼻詰まり」は思っている以上に天敵なんだと再確認しました。
僕の場合、花粉症やらアレルギー性の鼻炎やらで、年中、鼻詰まりになっているので、潜っていない時のケアもこれを機に徹底しようと思います。
例えば、部屋の掃除をこまめにするとか、鼻詰まりを解消する食事やハーブティーなどを普段から摂取するとか、当たり前ですが風邪引かないように体温調整するとか、それと、今回耳鼻科で処方してもらった、「一時的に鼻詰まりを解消する薬」を常備しとくとか。
まぁ、薬は必ず副作用があるので、出来るだけ使いたくはないですけどね。
こんな人は、自分でももう一度見直した方が良い
僕と同じように、
・耳抜きで違和感や痛みがある
・鼻詰まりでも関係なく潜っている
このような人は、一度立ち止まって、正しい耳抜きを会得した方がいいと思います。
それと、僕自信は経験がありませんが、
・無理して潜って鼻血が出る
・頭痛がする
・体が冷え切っている (耳付近の筋肉がこわばってうまく抜けなくなるらしい)
というのも危険のサインだそうです。
他にもいくつかの危険な症状があるみたいなので、「潜行医学」「耳抜き」で検索すると色々と知識を得られます。
最終的には、「潜行医学」に詳しい耳鼻科のアドバイスに従うと良いとのことです。
命はなにものにも釣り合わない
今回の事故で、僕はかなり意識の変化がありました。
やはり、海のスポーツは楽しいけど、一歩間違えば命に関わる。
だから、慎重すぎるということはないくらい、慎重になるべきだ、と。
一匹何万円でも何十万円でも、命の代償としてはとても釣り合いません。
それどころか、耳だって、体のどこだって、怪我をしてまでやる価値があるのかといえば、僕はそうは思いません。
とはいえ、海のスポーツは、他にはない魅力があります。
僕は今回の怪我で素潜りを辞めるというわけではなく、むしろより一層長く付き合うために、新たな発見があったと思います。
みなさんにもぜひ、素晴らしい海の魅力を、安全第一で味わって欲しいと思います。
今後、耳抜きや潜りの記事を更新していくので楽しみにしていて下さいね。