君のほころびを見てみたい。
先生はなんでも知っていると思っていた。
連立方程式の解の求め方や織田信長が明智光秀に殺された夜のこと。夏目漱石という作者の気持ちも、なんで「カップ」は「Kap」なのに「Cup」なのかということも教えてくれると思っていた。
昭和の末尾に生まれ、あと2日で2018年を通り過ぎようとしている僕は、あの頃の先生よりもずっと年上になってしまった。
「それなんだっけ?」
連立方程式なんて単語を久々に聞いた僕は会話相手にたずねる。
30歳になっても何も賢くなんてなっていないし、「人としてあたりまえ」とか言われる難しいことは相変わらずできない。むしろあの頃の方が幾分か何かを掴みかけていたような気がする。
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"子どもの頃にわかりかけてたことが
大人になってわからないまま"
THE HIGH-LOWSの"胸がドキドキ"は"アニメ 名探偵コナン"の最初のオープニング曲だった。1996年1月8日から始まってもうすぐ23年。「体は子ども、頭脳は大人」なんて謳い文句で子どもにされた天才高校生探偵は、僕がこの歌詞の意味を理解するようになった今もずっと子どものままだ。
大人なんてものはどこにも存在しないのかもしれない。
あの頃なんでも知っているはずだった先生は大人だったけど、本当はきっと何も知らなかったし何者でもなかった。
朝起きるのが苦手であと5分を繰り返したり、給食は残さずと言いながら自分も苦手なものがあって残したかったり、定時に帰れずに病んだり、テストの問題にわざと意地悪なものを出してみたり、飲みに行って愚痴ったり、酔った勢いで社会科の肥塚先生と体を重ねてしまい二日酔いと後悔と彼の匂いを香水でごまかしながら教壇に立っていたのかもしれない。
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完璧だと思っていたものにほころびを見つける瞬間が好きだ。
髪もきれいにして化粧も欠かさない。気づかいもできるし人望もある。ちゃんと大人をやっているあの人。だけどよく見るとスカートにいつもシワが寄っていたり、意外と時間にルーズで約束にはいつも汗だくで登場する。
頑張ってるけど実はだらしないのかもしれないなんて思えた瞬間に、突然その人の存在が愛おしく思えてくる。
無邪気に見えてコンプレックスに悩んでいるあの子や、ツイッターのいいねが増えてきたけど、やっぱり不安と承認欲求から逃れられずにいいねの数をわざわざアピールするあいつが、"よく知らないから完璧に見える美人やイケメンで性格のいい芸能人たち"よりもずっと好きだ。
僕自身不完全の最たるだ。自分のことを最たるとか言ってしまうところがもう自意識過剰。不完全だ。みんなそんなに変わらないんだな。と話を聞いていたら思う。
自分のことが死ぬほど嫌になるときも、どこかで自分が好きだという気持ちを感じるのはそのせいなのかもしれない。もし完璧な存在だったら自分さえ愛せないのかもしれない。完璧だから愛せるのかもしれないけど。
完璧の「璧」が「壁」ではなく「璧」だということさえも知らなかったりする僕らには完璧なんてありえないのだろう。
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地球上で僕だけが不幸だと思う夜。そんなことはないと頭でもわかっていて「みんな苦しいよ」なんてぼんやりとしたセリフを言われるほど孤独になる夜。
せっかくの休日、ウジウジしてる間に朝焼けは太陽として昇り、夕日になって沈んで月と交代していく。自分で作り出した布団の世界に潜り込んでスマホのブルーライトとツイッターで無料でもらえるハートだけを頼りに出口を探すこともせず居心地のいい世界を欲しがる。
職員室にいた先生たち、テレビの向こうの芸能人たち、最近上手くいっているように見える同期の仲間たち、みんなそんな夜があるのかもしれない。
「みんな苦しいよ」なんてどうでもいい言葉なんかより、「俺もここがダメだわ、お互いバカだな。」って一緒に笑ってくれる瞬間が欲しい。
完璧ばかりが美しく見えるこの世界では、だれも夏目漱石の気持ちどころか自分の気持ちの解を求める方程式さえ知らなかった。
君のほころびを見てみたい。
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後藤大シンガーソングライター/作曲家
『それでもがんばりたい』と思いながら生きています。
MUSIC VIDEO https://goo.gl/E1ebEPjlVG
提供曲視聴 https://bit.ly/2EmR6sk
Next Live→1/6 グランフロント大阪 SHIP HALL
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