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心温まるお土産

 日本からある取引先の方が当社を訪問された。その方は我々駐在員の生活を思いやって、なんと「南魚沼産コシヒカリ」を10キロお土産に持ってきて下さった。戦後(?)の食料不足の頃ならいざ知らず、現在において会社同士の取引関係のお土産で「米」ってあり得ないと思うかもしれないが、その方のお気持ちが心に染み入る。飛行機のチェックイン荷物の重量はエコノミーで20キロ+航空会社担当者の度量の大きさ。ビジネスでも30キロ。手荷物でもがんばって10キロくらいだろう。その方は業種から言って、今回の出張で当社のみを訪問しているはずはなく、多分、自分の荷物は手荷物程度におさめ、スーツケースの中をすべて「米」にしていらっしゃったに違いない。ありがたく、「頂きます」。南魚沼産。

 ここから先は頂きものに対して「あ~だ、こ~だ」言ってしまう話なのでそのあたりはご容赦願いたい。
 個人的な好みもあるが、意外と頂いてうれしいのが「日本ブランドの洋菓子」。カステラ(分けるのが大変だから「巻」が良い)、ヨックモック、バームクーヘン。日本の甘すぎず絶妙な感じのバターの香りのお菓子は、通常仕事中に間食するものがない中でありがたい。駐在員で山分けし、そして、二つはカバンに入れて家族に持ち帰る。でも、2回に一回はナショナル社員に配るようにしている。「いいか!!うまいだろう!甘さ控えめっていうデリカシーの利いたおいしさを覚えろ!!」と心で叫びながら。

 そして、よく頂くのが、つくだ煮詰め合わせセット、高級料亭監修 お茶漬けセット、錦松梅といったごはんのお供系のおみやげ。駐在当初はありがたく頂いていたが、最近飽きてしまい、実はこれら、家であまりがちだ。申し訳ありません。ごはんのお供系で言えば、辛子明太子。これはありがたい。結局、体は本能的に「日持ちしない生的なもの」を欲してしまうようだ。
 次がお酒系。焼酎、日本酒はうれしい。すごいブランドの瓶モノを頂く場合もあるが、むしろ、パック詰めされるようなブランドで我々十分満足なので「量」で勝負頂きたい。
 次が、「お子さんは元気にやっていますか系」。ぼくの家族構成を知った方が、「小さなお子さんが何を喜ばれるのかわかりませんが、、、」とおっしゃりながら下さる、コンビニで売っているようなキャラクターもののおまけがついたお菓子。これ、娘は大喜び。

 そして、「やはり旅慣れているなぁ」と感心させられるのが商社系の方からの、「前線への物資補給」系。カップみそ汁、レトルトカレー、中華丼、食べるラー油、小分けされた気の利いたスパゲッティー、柿の種、佐藤のごはん、乾麺(うどん)、するめなどの乾きもの、スープ春雨、青汁パウダー、さばの味噌煮缶、カロリーハーフのマヨネーズ、和風ドレッシングなどなど。そして、圧巻は「サランラップ」。いい、仕事するなぁ。とびっくりする。そういったものを紙袋一杯にして持ってきてくださる。そして、別の紙袋に一日遅れの日経新聞と日刊スポーツ。文藝春秋。パーゴルフにゴルフダイジェスト、ワッグル。週刊新潮に文春、朝日、ポスト。そして、我々の「下」まで配慮頂いているのか、「『総力特集 この夏のハリキリ女子大生(湘南編)』とか表紙に書いてある写真週刊誌。(中綴じがすでに破られてしまっている場合もあり)。まれに「お言葉ですが、これはもう、いわゆるエロ本ですよね」って領域に踏み込んでくる強者もいる(税関で見つかったらヤバいですよ。)。いずれも、出張前の忙しい時に買い出しをして下さっていると思うと、ありがたい限り。そして、思う。あ~、この人、海外駐在で苦労した経験があるんだろうなぁ。そうじゃなきゃ、ここまでの想像力は働くはずがない。「サランラップ」なんて、普通だったら「こちらは、我々で頂いてよろしいんでしょうか?何かの間違いでしょうか。」ってお土産だけど、当地の人間にとっては、もらってみれば「納得の一品」。ぼくら自身ニーズを自覚しないものを提供してくる。さすが「商社マン」と思う。もしくは商社には秘伝の地域別お土産マニュアルでもあるのか・・・。

 次にこの人「できるなぁ」って感じ入るお土産が『ヨード卵 ひかり』とかの生卵。卵一つ一つをプチプチに包んだ上でパックに入れて、そして手荷物の中に大事に持ってきてくれた方。日本からのサポートを頼んだシステム系の女性エンジニアの方だった。「よかった。一つも割れてなかった。大成功♪」と独り言ともつかないつぶやきを発しながら渡してくれた時には、ぼくは惚れそうになりました。許されるなら、あなたを強く抱きしめたかった。それらは駐在員で山分けして持ち帰る。まさか、火を入れる人はいないだろうから皆家で「卵かけごはん」を楽しんだに違いない。もちろん、ぼくも。ごはんを少し冷まして、卵が固まらず、ドロドロのまま「飲む」感覚で行くのがぼくの流儀だ。

 そして、ここまで来ると、もう、お土産の域を超えてイベントにしてしまう豪快な方もいた。
 日本海側から出張されてきた取引先ガッハッハ系社長。タイ、ヒラメなどの刺身をコブ〆めにして2キロくらい持ち込んで下さった。なんでも、地元でひいきにしている寿司屋に事前に頼んで作らせておいたとのこと。一部は冷凍ではなく、保冷剤にて冷蔵のまま持ち込み。深夜便で到着して、空港ピックアップの後ホテル(セミスイート)に送り届けたが、「君、ちょっと部屋に来い」とおっしゃり、そのまま凍ってない分の刺身で酒盛りの開始。コブ〆の刺身をつまみに、これまた持ってきて下さった地元の高級日本酒を常温でグイっとやりながら、すごい時間まで続いた。ぼくは翌日仕事にならなかったが、その社長はケロッとした顔で仕事のミーティングに臨んでいた。パワフルだ。

イベント持込み系の圧巻は「すき焼き」デリバリー。

出張前に「おい、ついた日の翌日の夜はアパートに鉄なべを用意しとけ」とお達しがあったので、何かあるとは思っていたが、到着日に空港で出迎えると、大事そうにクーラーバックを持っている。「急ごう!!保冷剤がそろそろ限界だ。」。「あなたはドナー肝でももってきたんですか?」って状況だが、アパートにもどり、そのクーラーボックスを開けるとすき焼き用神戸牛、しらたき、ねぎ、しめじ、白菜、春菊、焼き豆腐、そして生卵も元気な状態で入っている。すき焼き用割り下までも。野菜類はすでに鍋用にカットされて、それぞれでジップロックで分けられている。前日奥様が訳も分からず買い出しをして、用意くださったのだろう。ぼくは翌日のために急いで冷蔵庫にしまった。
イベント当日「こんなすばらしい素材は妥協なく自分お流儀でおいしく作って食べたい」という思惑が駐在員間に渦巻く中、関西 vs、関東 の不毛な争いを避ける意味でも、「割り下」まで持ち込んで下さったのは大変ありがたかった。そして、おいしかった。そのおいしさを表現できる言葉はない。

 最初の「南魚沼産コシヒカリ」の話にもどろう。お米はうれしい。すばらしい。ありがたい。ただ、本当においしい米を食べるにあたって、邪道なのかもしれないが、「無洗米」であったならさらにありがたかった。おいしい米を炊くにはすくなくとも、まともな水で研ぐことが必須だ。こちらの水道水で研ごうものなら「南魚沼産」ブランドの香りなど吹っ飛ぶ。
しばらく、うちのミネラルウォータの使用量は激増するだろう。

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