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ストーンズを聴こう!その9 “Far Away Eyes”

アルバム”Some Girls”が出たのは1978年6月、社会人になってちょっと経った頃だった。まだ実家から通っていたので、給料はかなりの率でレコードに変わった。

1978年は、パンクロックの登場以降、僕にとって聴き応えのあるレコードがどんどん出ていた。”Some Girls”と並行してその頃よく聴いたアルバムは、「闇に吠える街」(ブルース・スプリングスティーン)、「イースター」(パティ・スミス・グループ)そして「アドヴェンチャー」(テレヴィジョン)だった。

“Some Girls”も、パンクに影響されたとか、パンクへの返答だとか言われたけれど、久々、オリジナルの5人によるオリジナルの楽器担当ポジションでの演奏が基本で、渋谷陽一が「まるで新人バンドのようだ」というようなキャッチコピーを書いていたと思うが、その頃はまだ渋谷氏にヤな印象は持ってなかったので、上手いことを言うなぁと思ったものだ。

実際にはパンク・ロック的な仕上がりは”Lies”、”Respectable”くらいで、あとは”Shattered”のぶっ壊れたようなサウンドがそういう印象を強調していたと思う。

それにしてもまず1曲目の”Miss You”、驚いたとは言うものの、”It's Only Rock'n'roll”での”Fingerprint File”を次の”Hot Stuff”が引き継いだようなファンキーなダンス・ミュージックの流れもあり、Discoナンバーでの幕開けはそれほど違和感はなかった。Discoとは言ってもビートがそうなだけで重たくてちょっとくぐもった曲の色はやっぱストーンズじゃないかと思った。

むしろ、B面の、”Far Away Eyes”こそ、パンク・ロックの洗礼とも無縁であの時点ではそうとう異色だ。それでもストーンズがやっている以上ストーンズであるという感じですべて受け入れていた僕は、オトボケなプロモーション・ヴィデオの印象もあって、好きなナンバーだった。

ストーンズがカントリー風の曲をやったからといって珍しい訳ではないだろうが、この曲の特徴は、この曲が「カントリー風」なのではなく、「カントリー」そのものである点だと思う。そういう意味では”Country Honk”もカントリーそのものであると言えるが、”Far Away Eyes”は、わざわざパロディをやるためにカントリーそのものを演奏したという感じだ。

そのスタイルは歌詞にも出てくる”Bakersfield country”と言われるので調べてみると、この”Bakersfield”サウンドは、洗練されたナッシュヴィル・サウンドに比べ、もっと粗野で荒っぽさを特徴としているらしい。代表的なアーティストはマール・ハガードとバック・オウエンズだという。マール・ハガードはキースもカバーした”Sing Me Back Home”のオリジネーターとして知られるし、バック・オウエンズはリンゴ・スターが好きなカントリー歌手として僕の知識庫に入っている。

“Bakersfield country”なるものを聴いてみる。まずは自分で持っているマールのヒット集。1曲目に入っている”Swingin' Doors”がまず、これだ!と感じる。”Far Away Eyes”の楽器編成、ノリ、歌い方・・・これがルーツなのか? 参考動画: バックに大きく「ナッシュビル」とあるが… https://m.youtube.com/watch?v=MMw7gJr07wo

ほかにも、バック・オウエンズや、キースが好きなジョージ・ジョーンズにも同様のビートとアレンジを聴くことができる。これらのナンバーでは、ペダル・スチール・ギターが大きくフィーチャーされているが、”Far Away Eyes”ではロン・ウッドがその楽器を担当している。”Some Girls”はロン・ウッドが正式メンバーとして初めてクレジットされたアルバムで、デラックス版でも未発表曲が12曲も陽の目を見ているが、77年から始まったセッションでは実に多くの曲が録音されていて、その中には、”Far Away Eyes”と同じ傾向として”No Spare Parts”や”You Win Again”を聴くことが出来、これらにもやはりロン・ウッドのペダル・スティールがフィーチャーされている。

とくに”No Spare Parts”は公式版はミックが歌っているが、もとはキースが自作自演しており、曲調も”Far Away Eyes”に似ていて、オリジナル・アルバムに入らなかったのはその所為ではないかと言われている。ロンが加入しなかったらこんなにペダル・スチールをフィーチャーした曲はありえなかっただろうし、”Some Girls”で言えば”When The Whip Comes Down”, “Shattered”, “Before They Make Me Run”などでも活躍している。

ところで、”Far Away Eyes”は歌詞が、「いかにもBakersfieldローカル・パロディ」な内容であるが、待ち合わせに遅刻している所為で会うことになっている娘がその辺のトラック運転手とどこかによろしくずらかってしまったかもしれないというくだり、”The Rolling Stones' Some Girls” (著者: Cyrus R.K. Patell)によると、この頃ミックはジェリーホールと親交を深めつつあり、ジェリーはテキサスのトラックドライヴァーの娘であることからこの「待ち合わせの娘」もジェリーのパロディになっているのではないか、という説が紹介されていて、それには気がつかなかったし、そういう説を初めて知った。
https://books.google.co.jp/books?id=3P6oAwAAQBAJ&pg=PT51&lpg=PT51&dq=bakersfield+country+far+away+eyes+country+honk&source=bl&ots=ssHIw27Wb6&sig=KydCvv5a2-oNhXct3vjZFYnhji8&hl=ja&sa=X&ei=4dxlVeHENovh8AWvk4HoAQ&ved=0CCUQ6AEwAQ#v=onepage&q=bakersfield%20country%20far%20away%20eyes%20country%20honk&f=false

ごとう


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