ストーンズを聴こう!その7 “Let’s Spend the Night Together”
「夜をぶっとばせ!」と言えば、僕には映画「パイレーツ・ロック」のこの場面が忘れられない。
主人公の一人であるDJザ・カウント(演じるはフィリップ・シーモア・ホフマン)が、行く年来る年よろしく大晦日にしおらしくトークしてエスタブリッシュメントのお歴々に厳かに乾杯の機会を与えたかと思いきや、ストーンズのこの曲を高らかに鳴り響かせ、さぁ、ROCKだぜ!とシャウトすると、待ってました!とばかり若者たちが満面の笑みを浮かべ、踊り狂う。まさに笑っちゃうほどカッコいい瞬間で、これじゃなきゃな!という感じだ。
1967年のファースト・シングルとして、英国では第3位まで上がったが、「夜を一緒に過ごそうぜ!」(邦題「夜をぶっとばせ!」もよくわからない意味ながらも当時の若者風俗的でなかなかの傑作)というタイトルおよび歌詞がセックスすることをほのめかすとして当時ラジオでは敬遠され、反対面である「ルビー・チューズデイ」のほうが多くオンエアされた結果、USビルボードHot 100では、「ルビー・チューズデイ」がNo.1になったのに、この曲自体は55位止まりの結果となった。またエド・サリヴァン・ショーに出演した際には、”Night”を”Some time”に入れ替えて歌わせかられたとか話題には事欠かないナンバーだ。
Now don't you worry 'bout what's on your mind, oh no
I'm in no hurry, I could take my time, oh no
I'm going red and my tongue's gettin' tied
(Tongue's gettin' tied)
I'm off my head and my mouth's gettin' dry
I'm high but I try try try
いまどんなことを考えていても、気にしないでいいよ、ねぇ
急いじゃいないし、ゆっくりしてもいいんだよ
なんかほてってきたぞ
ろれつもあやしい
ぼうっとしちゃって
口も渇いてきた
まいあがっちゃってるけどうまくやるってうまく、うまくね
これはどう考えたってセックスを連想するし、もしかしたらクスリのことをほのめかしているのかもしれない。当然、ストーンズは確信犯だったろうし、「黒い帽子」をかぶるように仕組んだアンドリューの仕業かも知れない。このシングルの前が「マザー・イン・ザ・シャドウ」でこの曲のあとが「この世界に愛を」だから、麻薬捜査や投獄といった具体的に身に危険が迫る時代に突入する前の最後のシングルだと言えるだろう。音楽的にも「この世界に愛を」のあとは「ジャンピン・ジャック・フラッシュ」から始まる新しいカタチのロックンロールになっていくから、この曲がポップス的な曲調のシングルの最後のものでもあると言える。
この曲はとてもよく構成されていてキーはGなのだが、冒頭のスキャットのフレーズがDのチャック・ベリー流ボトムリフで7thまでを含めたちょうど「サティスファクション」のリフと同じメロディに乗せているものだから、一見、「キーはD」であるかのような錯覚に陥り、歌い出しのG部分がDをキーとした楽曲の4度から始まる粋な展開に感じられる。この効果は同じくDで”Let's spend the night together~♪”とテーマが繰り返されることにより助長される。実態はAメロはG⇒Bm⇒D7という普通の展開なのだが、曲全体として「普通じゃない感」をかもし出しているところが実にうまい、と思うのである。この展開はほかの例で言うとニューヨーク・ドールズの「人格の危機」がそうである。しかし、「夜をぶっとばせ!」は「人格の危機」が単純にキーに対して4度で始まっているという以上の面白さを提供していると思う。
キーに対して4度や5度から始まるのは結構あって、ストーンズで言えば、たとえば「フライト505」などは後者であり、4度からではないものの、時代が近いところからぼくには「フライト505」がひょっとしたら「夜をぶっとばせ!」の元歌であったのかなと思うのである。脱線するが、5度で始まる、といえば有名な曲としてチャック・ベリーの「スウィート・リトル・シックスティーン」がある。そして、ポール・マッカートニー&ウィングスの「ハイ・ハイ・ハイ」は「フライト505」以上にこの曲を見事に換骨奪胎したものとして特筆に価すると僕は思っている。
ごとう
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