ストーンズを聴こう!その11 “19th Nervous Breakdown”
1966年2月シングルリリース。”(I Can’t Get No) Satisfaction”, “Get Off Of My Cloud”に次ぐ、ジャガー=リチャードによる強力なストーンズのシングルである。このあとが”Paint It Black”だから、この一連のヒットはストーンズが上昇する勢いに乗っていた時期に次々と放たれた正真正銘のビッグ・ヒッツだといえる。
英国では2月5日に、B面に”As Tears Go By”をカップリングしてリリースされたが、米国ではこの”As Tears Go By”はすでに前年の12月にシングルA面として出されていたので、B面に”Sad Day”を収録して約1週間遅れの2月12日に発売された。”Sad Day”は”19th…”と同じセッションでの録音であるが、英国では長いこと手に入らなかったナンバーである。
“19th…”は、アルバム”Afternath”セッションで録音されながらアルバムには収録されてない。英国盤ではアルバムはシングル・ヒットを含まない編集が普通だったので収録されていなくても不思議はないが、シングルを収録しながら中身の濃いアルバムをリリースしていた米国でも“19th…” は”Big Hits - High Tide And Green Grass”というベスト盤にしか収録されていない。”Paint It Black”でさえ、米国で米国編集の”Aftermath”が発売された時に収録されているので、合間に落っこちちゃったのか、まさか、この曲だけNo.1にならなかった所為なのか、特筆すべき現象だ。その代わり、”Big Hits”の米盤ではB面トップに配置されている。ちょっとストーンズの裏歴史に詳しいファンなら、当時計画されていたけど、タイトルがちょっとマズイとお蔵入りになったアルバム”Could You Walk On The Water?”が発売されていれば、そのA面一曲目に収録されたのだと言うことは知識として知っていることと思う。
当時としては4分近くある長尺曲であったが、スリーコード&基本的なブルース進行のナンバーで、意外にもストーンズのオリジナルでこの手の展開はこの曲以前には見当たらない。ツアー中に疲弊して、タイトルが先に出来たというが、おそらくエディ・コクランの”Nervous Breakdown”が頭のどこかにあったのだろう。
タイトルから歌詞を作っていったそうだが、”Satisfaction”や”Get Off Of My Cloud”が自分の内面世界を歌ったものであるのに対して、この曲では第3者を歌っている。この感じは同じ頃録音された”Mother’s Little Helper”にも共通して追い詰められて精神的におかしくなっている人物を突き放すように歌っている。そしてその背後には精神安定剤などの薬物が見え隠れする。
イントロのキースが弾くSus4を交えたリフに対してブライアンと思われる”Diddley Daddy”のリフが印象的だ。しかし今でこそ、「これって”Diddley Daddy”だよね」という会話が出来るが、発売当時それを話題に出来たファンはどのくらいいるのだろう。ボ自身がそのため彼らを訴えたという話は聞いたことがないので見て見ぬ振りをしていたに違いない。しかし、曲全体が”Diddley Daddy”からの引用もしくはそれをベースにして書かれたか、というとあまりその形跡はない。ブルース進行に物語を乗せるという点ではチャック・ベリー的だが、チャック・ベリーのサウンドともまた違う。
インスピレーションを得たと思われる曲は、そのブギウギ調シビレ感から案外エルヴィスあたりにあるかと思い、探したがこれというのは特定できなかった。エルヴィスから一歩踏み込んでリーバー&ストーラーあたりを目指したんじゃないか、それならコースターズあたり、たとえば”Poison Ivy”などの物語調の曲をヒントにしたのではないかとなんとなく思える。また、この曲との関係が明らかになった訳ではないが、同年6月にリリースされたビートルズの”Paperback Writer”はこの曲にインスパイアされた部分があるのではないか、と感じている。
3分50秒ほどの長尺曲の構成は、
イントロ
1番
コーラス
リフ
2番
コーラス
サビ
3番
コーラス
リフ/イントロ
サビ
2番
リフ/イントロ
アウトロ
・・・となっておりサビが2回出て、2番も2回出てくる。そのあとアウトロへ突入していくがここでビルのグリッサンドがフィーチャーされ、タイトルを連呼しながらフェイドアウトしていくというもので最後は主人公に暗示を掛けるかのような仕組みになっている。
ビルといえば、たぶんガムを噛みながら、おっ立てた構えのベースからデケデケデケ・・・をクールに繰り出していると思われるが、この曲を演奏している動画では、冒頭、実に不思議な手の動きを見せている。ハイ・ポジションで弾いてかと思うとローに行って、この繰り返しをしている。その動きがどういうフレーズに呼応しているのかはっきりしないが実にユニークである。
https://m.youtube.com/watch?v=FoNSFFhyEi8
またこの曲にはヴォーカルが英国風発音を強調したテイクがあり、米国市場を考慮するとリリーステイクで正解だったと思うが、そっちで出していたらキンクスに先駆けた英国調ヒットになったのではないだろうかと妄想した。
https://m.youtube.com/watch?v=cc6_3TpDRkU
この曲も”No Filter Tour 2021”で、チョイスされて、オリジナルに近いスタイルで演奏されているが、66年当時の風俗を垣間見ることの出来る当時の”Top Of The Pops”の映像があるので、参考に貼っておこう。
https://m.youtube.com/watch?v=k-hiYV6JRMs
ごとう
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