Hedigan‘s体験
最近のお気に入りといえば、やっぱHedigan‘sがダントツだ。
なのに、Hedigan‘s、最初に名前を聞いた時、髭男のメンバーとバンドを組んだのかと思ってしまった(失礼)。
Hedigan‘sは、Sachimosのリードヴォーカル、河西”YONCE”洋介、グライダーの栗田兄弟(キーボードに祐輔、ギターに将治)、ベースにゆうらん船の本村拓磨、そしてドラムはアコガレやズボンズでやっている大内岳の5人組。もう一人6人目のHedigan‘sと呼ばれるテリーこと伊藤広起、彼がハウスエンジニアを務めるさいたまの本庄にあるStudio DIGが彼らのホームと言っていい。面白いのはYONCEは茅ヶ崎、本村くんも岳ちゃんも神奈川方面だと言うことで、東京を飛び越えた郊外な連中だと言う点。
僕は東京在住だが、出身がさいたまと言うこともあり、グライダーの前身「でいとりっぱー」に出会ったときはその音楽嗜好の自分との近似性もさることながら、ローカルな親近感を抱いたものだ。そんな彼らが、本家のグライダーをずっと発進しないままHeadigan‘sを始めたと言うから、おいおい、それはいいからグライダーを頼むぜ〜なんていう目で見ていたのだが、Hedigan‘sのリリースは出るたびチェックしていたし、そこに「衛星アムートゥ」の香りをみたりしていたが、昨年暮れにアルバムに先駆けて出た「カーテンコール」が引き金となり、続いて出たアルバム「CHANCE」を聴くに至って、すっかりHedigan‘sに魅せられてしまった。
もっと素直にファンになってライヴを観に行けばよかったものをぐずぐずしていたから、彼らを生で体験したのは今年1月9日クラブクワトロが初となった。その日、YONCE以外のメンバーは他のバンドですでに見ていたから、僕の興味はYONCEに集中した。Sachimosにはほとんど接点を感じられずにいたので、噂に聞いていた彼のパフォーマンスを目の当たりにしたとき、先生に怒られても後ろを向いて舌を出す悪戯好きの子供のような態度だったかと思うと、突然牙をむいて獲物に襲いかかる獅子のようであったり、あるいは気安い友人のようだったり、いろんな表情を魅せるのだが、どれも自然体で、こりゃすごい、と思ったものだ。歌声は所謂ロックフィールドから来た荒くれ感はなく、基本、スムーズで優しいのだが、アクセルを踏んだ時のスピード感とパワーが持ち味とみた。
さて、2月9日、Chanceツアーの3日目、熊谷のHeaven‘s Rockでやると言うので、観に行った。3月2日に新宿でやるので、それまで待ってもよかったのだが、熊谷といえば、DIGのある本庄には高崎線でさらに30分行かなくてはならないが、栗田兄弟がバンドやソロ、デュオで頻繁に出ているモルタルレコードがあり、まぁ地元と言えるので、ここで観ておきたいと思ったのだ。
会場に着くと、建物の外に寒い中(そう、熊谷は暑くて寒いと言われている)多くの人が並んでいる。見たところ、近所の普通の若い人たちが多く、なんとなく東京とは雰囲気が違う。Heaven’s Rockはホールの中程に出入り口があるので、前を向いてぎっちり並んでいる観客の横から入ることになり、まるで満員電車だと思いながら、ドリンクを受け取り、ステージに目を凝らす。これだけぎっちりでもキャパは350だから後ろでも臨場感がある。
ステージはアルバム「CHANCE」の曲順に「地球(仮)」からスタートし、「マンション」「その後」「グレー」と来て、これはこのままアルバム通りにやって途中でファーストを挟む趣向かと思ったが、「グレー」のあとは扇動的なロックンロールナンバー「But It Goes On」が続いた。「弱い奴らから喰われてく問答無用で・・・」と始まる「But It Goes On」は「罵詈雑言」と掛けていて、僕には戦後のアメリカと日本の関係がテーマかと穿った見方をさせ、さらに桑田佳祐のソロアルバムに収録の「ロックンロール・ヒーロー」を思い出させる。これをソウルのハンドクラップで始めるもんだからあまりのかっこよさに思わず大笑いしてしてしまった。僕がHedigan‘sに魅せられているのは音楽性の面白さや曲の巧みさに加え、歌詞にある。言葉の音から類似語を持ってきて組み合わせてみたり、意外な語句を並べて僕の想像力を刺激したり、リスニングの楽しみを十分与えてくれるからだ。ホールいっぱいの観客、ほとんどが若い世代、僕とは聞き方がまるで違うはずだが、日本語で歌われている以上、歌詞カードを読めばわかるのは改めてJ-POPの利点だと思う。
そこからは発表している曲からあれこれ組み合わせて進んで行き、やらなかったのはアルバムラストの「不思議」だけ、アンコール含めて約一時間半強のステージだった。途中、栗田兄弟が高校生の頃、このHeaven‘s Rockに毎日出ていた話やYONCEと岳ちゃんの最初のバンドOld Joeもここに出て、次回ブッキングをオファーされたが、実はそれが彼らのラストツアーで再出演が叶わなかった話など、それがこんな満員のライヴとなり、地元に錦を飾るというか、嬉しさ相当なファンもいただろうと想像した。そうそう、お茶目なYONCEは将治くんを紹介する際「紹介します、ギブソン・レスポール!名前だけでも覚えて帰ってください!」とやってのけたのがとても諧謔的でそういうセンスを僕はとても面白いと思うし、ツアー最終日のZepp新宿のステージがどんな風になるかとても楽しみだ。
アルバム「CHANCE」についてはまた別の機会に。
ゴトー