ドサクサ日記 11/18-24 2024
18日。
ようやく寒い日が来て、環境的には正しいし待望という感じなのに、寒いのは身体にとっては酷なので、心の底から寒いのは嫌だと思ってしまう。というか、暖かいのは別に個人的には良くて、夏が死ぬほど暑いのが地球的かつ個人的に問題なのだけれど。物質にはとんでもないエネルギーが秘められているのだという。将来的に核融合などによる取り出しが始まった場合、この欲望のスピードのままだと、使いきれないエネルギーが熱ゴミみたいに破棄されるというか未回収になって、それにより再現なく温められ続けて、人類はいずれ蒸発するのか干からびるのか、絶滅する日が来るのだと思う。そうなった場合、次の地球の生態系ピラミッドの頂点に立つのは烏賊の仲間であるというような映像を観たことがある。もっとも、多様な価値観の一角から眺めれば、現在でも烏賊以下の存在である可能性は否定できない。
19日。
取材など。トム・ヨークのライブに行って、すっかりRadioheadモードになってしまったので、プレイリストを更新。「12songs」は自分が好きな数字の12にちなんで、気分で12曲縛りで選曲しているプレイリスト。Radioheadで一番好きなアルバムは『IN RAINBOWS』。当時は価格が選択制で、発表からLPが届くまでの、そのラディカルな姿勢に痺れっ放しだった。「House Of Cards」のスネアのリムにかけられたスプリングリバーブの残響は、ステレオスピーカーの右奥に落ちていく感じがして本当に美しい。ルームアコースティックがしっかりしているスタジオだと、手で触れそうなくらいリアルに感じられる。ゆえに、音響の状況を確かめるためのレファレンスにしている。自分の作業場の環境がやっと整ったとき、彼らが2008年にこの音響を獲得していただろうことにショックを受けてしまった。端的に、世界のトップと自分の差を感じた。プレイリストの後半は蛇足かなと感じる。ブレイクビーツ的なビートセクションに美しいアルペジオやノイズが絡んでいるような、ナイジェル・ゴドリッチとの実験を感じる曲に興味があるのだけれど、出会った頃の青い記憶には勝てないなと思う。「High And Dry』は泣ける。『The Bends』を待てずに間違えて買った日本盤の『Itch』は、運命的な誤配だった。
20日。
味園ユニバース。トイレの下水の匂いが湧き上がってきて、ステージと楽屋が臭い。意外においては文化的価値の非常に高いホール。昔はキャバレーだったらしく、その時代のポスターやチラシがたくさん貼ってある。こんな素敵なホールも、資本主義の荒波には抗えず。確かに、ホテルをドカンと建てたほうが儲かるだろう。心斎橋や難波を巡る観光客には堪らない立地。でも、潰すには惜しいと思う。
21日。
早めに会場入りして、インパルス・レスポンスの収録。PAからSweepを出してもらって、Protoolsで収録。楽屋のデータもモノラルで記録した。建物はなくなってしまうが、音響をキャプチャーできて、それを別の音源に使えるのだからテクノロジーの進歩は恐ろしい。味園ユニバースのホールの残響はふくよかで温かい感じだった。ここでいろいろなShowやコンサートやライブが行われ、みんなが飲んだり食ったり騒いだりして、ときには誰かが涙したのかもしれないけれど、ありとあらゆる音が四六時中壁にぶつかっては跳ね返って、そうしてこの場所の音響は今日のようになった。出来立てのライブハウスの、妙に落ち着かない音響とは違う。残したいと言って残るほど甘いものではないだろう。けれども、我々が惜しむことで、別の古い何かが守られる機運に繋がったらと願う。日本中、潰されるものだらけ。
22日。
AVMSのクラファンが5000万円に到達。本当に感謝の気持ちしかない。土蔵をスタジオにして多くの人に開こうと決めたとき、正直に言えば不安だった。はてさて、どうやって資金を工面して運営すればいいのだろうかと胃が痛くなった。多くの方の応援によって建設費に目処がつきつつある。もう片方の車輪である運営について皆と固めてゆけば、曲がりくねったりするかもしれないが、進むことはできる。安堵はできないが、ある一定の安堵のなかにいる。「オンライン交流会」なるリターンを作ったけれど、反響が少なくて、それはそれで素敵なことだと思った。価格が高いリターンで、支援してくれる人たちが無用に苦しまないといいなと願っている。交流会は90分、参加者の質問に答えたり(アジカンの話や相撲のとかも)、ゆるく雑談できたらなと考えている。説明会はきっちり行うけれども。
23日。
京都磔磔。磔磔には不思議なマジックがある。音や言葉に自然とピントが合うような鳴りというか、集中力が高まるような環境を与えてくれる。相性が良いだけかもしれないけれど、味園ユニバースと同じく、いやまた別の文脈で、建物の歴史がそうさせるのだと思う。かつての酒蔵の壁や柱や床や天井を、ミュージシャンと酔っ払いたちが鳴らした音が揺らして、その振動が材と空間を馴染ませている。
23日。
満身創痍で神戸。さすがに5日間で4公演はアラフィフの体には激しい鞭という感じがする。楽屋には関西の甘いもの美味しいものが準備されていて、そうした慮り、飴によって精神は完全回復するけれど、歌うのに使った背筋とか、首周りの緊張とかは体を固める方向に進んで戻ってこない。魂だけは食事によってピチピチなので、そうしたギャップを利用して跳躍し、毎夜を温めている。音楽は最高。