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備忘録 | 23年10月

(できれば毎月)残していきたい備忘メモ。基本は月々の振り返りになるけれど、詳しく記すというより、あくまでメモのようなものとして。


劇場鑑賞 映画

『イコライザー THE FINAL』

監督:アントワーン・フークア

序盤の5分で惹きつけられる。ワンカット長回しで、マッコール(デンゼル・ワシントン)にイコライズされた農園内の惨状を徐々に見せていく。通常のガンアクション映画は主人公が敵陣に乗り込んでいくか、敵が自陣に乗り込んでくる様子を見せる。最近、上映された『ジョン・ウィック』シリーズもそうだ。
『イコライザー THE FINAL』は冒頭もクライマックスも、敵の視点から描かれる。冒頭は「ヤバいやつ(=マッコール)に荒らされた」。終盤は「ヤバいやつ(=マッコール)が乗り込んできた」という視点。これはアクション映画というより、被害者側から見るスラッシャー映画のスタイルに近い。
観客はマッコールに襲われる側の視点が共有されるため、マッコールの怪物性が増幅する。また観客の安易な感情移入を許さない。「マッコールと同じ視点を共有してやるものか」「お前ら観客とマッコールは違うのだ」。そんなフークア監督の強い意思を感じられる。そう、私たちはマッコールと違う。だから暴力による復讐なんてバカげたことに手を染めず、シチリア市民のように「記録による抵抗」をこそ考えるべきだ。

『裸足になって』

監督:ムニア・メドゥール

前作『パピチャ』に続き、アルジェリアにおける問題点を突きつける作品。リナ・クードリ演じる主人公を襲ったテロリスト。警察に相談すれば当然、捕まえてくれると思いきや、一度、恩赦された人物についてはアルジェリア警察はなかなか対応しようとしないらしい。そんな国家としての恐ろしい課題が垣間見える。
手持ちカメラによる短いカットを積み上げていく映像スタイルは、1つ1つの艶も相まってウォン・カーウァイ作品を見ているときの感覚に近い。ただしウォン・カーウァイよりもドキュメンタリックなのでその点は異なるか。

『ザ・クリエイター 創造者』

監督:ギャレス・エドワーズ

「AI vs 人類」「アメリカ vs アジア」といった構図のステレオタイプを奪胎させている点はおもしろい。本作ではAIより人類のほうがよっぽど脅威であると描かれるし、アメリカの恐ろしさが強調されている。アジアを侵略してくるアメリカの描写はベトナム戦争を想起させる。
力作ではある。つくり手たちが自分たちのやりたいことを本気で詰め込んだのだなと伝わってくる。しかし、どうしても「めちゃめちゃよくできた二次創作」という印象は拭えない。

『ファルコン・レイク』

監督:シャルロット・ルボン

正直、見る前はあまり期待していなかった。映像に凝ったボーイ・ミーツ・ガールもので、内容は大したことないかもなーと。しかし、これが意外にも傑作だった。
「ボーイ・ミーツ・ガールものと、心霊ホラーが実は似たジャンルである」ということを明らかにした、批評性あふれる野心作。しかもそれは物語としてだけでなく、「フレームイン」というアクションによって示される。これに関してはいずれ詳しくどこかで書きたい。

『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』

監督:マーティン・スコセッシ

『グッドフェローズ』『カジノ』『アイリッシュマン』など優れたマフィア映画を生んできたスコセッシ。本作も、白人がネイティブアメリカンに行ってきた仕打ちはマフィアみたいなものだと感じられる。
個人的にスコセッシは『タクシードライバー』『キング・オブ・コメディ』のように人物のメンタルが背景にある暴力よりも、本作のように資本がきっかけで起きる暴力を描く作品のほうが好きだ。
同一フレームの中で「銃を1発撃つ・撃たれて死ぬ」が描かれているのもよい。

『こいびとのみつけかた』

監督:前田弘二

「メロドラマである」という冒頭の堂々たる宣言に、胸が熱くなる。主演のトワ(倉悠貴)と園子(芋生悠)が『リコリス・ピザ』のように、よく走る映画だった。友人含めて6人でごはんを食べていたが、2人がそこから抜け出して画面内を左から右へ駆けるシーンはデヴィッド・ボウイ"Modern Love"がかかっているのではないかと錯覚する。
庭師として、伸びてしまう植物を管理する役割の主人公トワは、終盤の重要な場面で友人の床屋に髪を切ってもらう。植物・髪の剪定。本作における「剪定」の意味についてはもう少し考えたい。

『トップボーイ』シリーズ(ドラマ)

Netflixで配信されているドラマ。ロンドンを舞台に、ドラッグディーラーとしてのしあがろうとするダシェンとサリーの物語。麻薬ビジネスに関わる若者たちの姿を通じて、イギリスの格差問題・移民問題などが浮き上がってくる。特に移民の子どもたち(まだ少年少女たち!)がなぜ麻薬ビジネスに巻き込まれていってしまうのかを、セリフに頼らないスマートな形で映像化している。
またこのドラマの見どころの1つはキャスティング。KanoDaveLittle Simzなど、UKのラッパーたちが数多く出演している。そうした豪華出演陣たちの中で、劇中アカペラのラップを披露していたのがCristal。『トップボーイ』では女性のラッパーがフィーチャーされる傾向にある点はユニークに感じた。
最も魅力的に映ったキャラクターはジャスミン・ジョブソン演じるジャック! とにかくストリートウェアの着こなしがかっこいい。ダシェンお気に入りの部下でありながら、トップボーイを目指すダシェンやサリーよりもカリスマ性・存在感があるように感じられた。
ちなみにサントラはブライアン・イーノ

プレイリスト

今年6月にソロアルバムをリリースしたばかりのP Moneyが、Whineyと出したアルバムがよい。
Samphaの影に隠れてしまった印象もあるけれど、Jorja Smithのアルバムは今までより音楽性の幅が広がり、豊かな音楽体験に誘ってくれた。

仕事

今泉力哉監督インタビュー - NiEW

取材執筆:羽佐田瑤子さん 撮影:黒羽政士さん

コナー・ディーガン3世(Fontaines D.C.)インタビュー - TURN TV

動画撮影・動画編集:久野剛士

映画『あずきと雨』コメント

11/4(土)公開の映画『あずきと雨』にコメントを寄せました。描かれているものは日常なのに、ファンタジー性が感じられる作品。

その他

バストリオ『一匹のモンタージュ リクリエーション』

とても衝撃的な作品で、刺激を受けた。
複数の人物の出来事が、同時並行で舞台上で起きる。1つの物語があるのではなく、それぞれの出来事。
今回のような作品は映画でそのまま表現するのは難しいだろう。群像劇が近いのかもしれないが、映画では各パートごとに結局カットを割るしかない。その点で、映像的というよりもやはり「演劇的」。もちろん一般的に想像される「演劇」とは異なるだろうけど、「ある特定の空間内で演じること」という点には、とても意識的なのだと思う。
またそれぞれの出来事ではあるものの、「水を撒き散らす」「靴(そして靴下)を脱ぐ」というさまざまな人物の行為が反復する点が気になった。



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