恋はあせらず
小学生の頃、織田裕二主演の恋はあせらずというドラマにハマっていた。
簡単なあらすじとしては、沖縄から上京してきた織田裕二扮する、喜屋武(きゃん)アキラがビッグな男になるため、銀座のバーテンダーとして様々な苦難を乗り越えていく、というもの。
毎週楽しみに観ていて、次の日には誰かに話したくてうずうずしていた。しかし、当時小学五年生でトレンディドラマをみている友達がおらず、歯痒い思いをしていたのだった。
ある日、あまりに話したかった少年は隣の席の当時好きだった子に、我慢できずに話してみたのだった。知ってるはずもないのに。
恋はあせらずってドラマ知ってる?
…どうだ?どうなんだ?
彼女は少し驚いた表情を見せた後、
知ってるよ。面白いよね、あれ!
まさかの出来事だった。よりによって一番話したい相手が知っていたのだ。ホームルーム中だったが、思わず教室を走り回りたいくらい嬉しかった。
そして今まで溜まっていたうっぷんを晴らすかのように話を続ける。マシンガン過ぎてオタクの早口みたいになってなかったか心配である。
グッモーーーニン東京!!という川平慈英のものまねで笑いもとる。完璧だ。恋はここから始まるのだ。
少し調子に乗った少年は、クライマックスでの喜屋武アキラの恒例の決めゼリフをかます。
オレって、イケてる?
キメ顔で。キマッた。ここまで広げられるヤツいるか?ちょうどホームルームが終わる時間に合わせてきっちり決めてきやがった。
漫才でいうところの、どうもありがとうございました~のところだ。これで彼女は爆笑して、また明日~になるはずだった。
しかし悲劇が訪れる。
えーっ!イケてない。
へっ?
…いやいやいや、違う違う!!違わないんだけど、違う!!
喜屋武アキラがさ!いつも言うじゃん!!
あっ、あれか~!そうだよね~、あはは~。
キーン コーン カーン コーン。
空しく響き渡る放課後のチャイム。
試合終了のホイッスル。
うそみたいだろ?死んでるんだぜ、それで。
あんなに順調な試合運びだったのに。
少し点を取りにあせったばかりに墓穴を掘った。
笑顔と引き換えに、イケてない事実がそこに残った。実質フラ…まぁそうあせるなよ。
また明日~という声が左の耳から右の耳へと突き抜けていった。
Fin.
恋はあせらず
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