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『素直になれなくて』

「あれ?君、新しいシカゴの事、嫌いだって言ってなかったっけ?」

不覚だった。

よりによって学年イチの秀才かつ、カッコ付け野郎の譲治に揚げ足を取られるなんて。

折角、学年ナンバーワン可愛い子ちゃん『玲羅』ちゃんにシカゴのレコードを貸してお近づきになれる筈だったのに!

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「大体さ、硬派なロック好きの君がさ、こんなTOP40ヒットに興味を持つ訳ないじゃん?」


いやいや。ブラスロック期のシカゴは間違いなく硬派なロックバンドだったよ。
確かにリーダー格だったテリー・キャスの死後は混迷していたさ。
でも後任のドニー・デイカスも良かったし、
何より今回は、あのエアプレイのデビッド・フォスターがプロデュースなので、サウンドが凝ってる!!洗練されているんだよ!


「君さ、トトって好きじゃないんだろ?だって次のアルバムは絶対ポップな曲ばかりの売れ筋狙いになるって言ってたじゃん?
『俺はブラックサバスとかトライアンフとか売れなくても良いのが好きだ』ってさ。
だからさ玲羅さん、コイツ新しいシカゴのレコード持ってないってさ!!」


いやいやいやいやーーーーっ!!
持ってますケドーーーーーーーーーーっ!
昨日買ってきたばかりのホヤホヤ新譜さんですよっ!!
玲羅さん!アナタの為に買ってきたんです!

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『あぁ、シカゴの新譜でしょ?あれさ、シカゴじゃなくてロサンゼルスって名前にした方がイイよ。なんかホーンセクションもシンセサイザーに負けてるし。
曲もシカゴのメンバーより、デビッド・フォスターとかトトのメンバーの曲の方が多いしさ。
やっぱりロックはハードでギンギンじゃなきゃダメだよね!!』

違う!違う!違ーーーーーーーーーーう!!
何言ってんだよ僕は?!

本当はカバンの中に入っているシカゴのニューシングルを、貴方に!アナタに!玲羅さんだけにお渡ししたいのにぃーーーーっ!!

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あっ?!
譲治と僕の会話を近くで聞いていたのか、玲羅さんがこっちに来たよ!!


「あっ。玲羅ちゃんさ、シカゴの新譜聴くかい?え?コイツから借りる約束してるって?
アハハハ!コイツはシカゴ好きじゃないから、絶対にレコード持ってないって!
じゃ、コレ貸したげるよ。本当にいい曲だよね・・・」


ああ。分かってるよ。僕だってシカゴ好きだよ。
ギターがハードに活躍してなくたって良いものは良いんだよ・・・

ああ・・・ついつい・・・

素直になれない僕なのだ・・・



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シングル『素直になれなくて』の大ヒットにより、更にポップフィールドでの存在感を増していく新生シカゴ。

ビル・チャンプリンの本領発揮は次作に譲るが、何より驚いたのは外部ライターの本格導入だ。

個人的には、ジョセフ・ウィリアムズとマクサスのジェイ・グルスカ作による、一曲目のハードポップ・ナンバーの衝撃度が物凄かった。

だがそれも時代のニーズに応えての事。

シカゴ、80年代の黄金期のスタートだ。




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