
『iamthemorning』
凍てつく空気はまるで尖っているかの様に、呼吸する度、肺に突き刺さってくる。
暗闇の中、目を凝らしてみるが、眼差しさえも凍らせる様な冷たさに、僕は思わず眼を瞑ってしまうのだった。
見上げた空には感情さえをも奪っていきそうな、満天の星々。
メランコリックな気分に浸ろうものならば、直ぐに憐憫に変わってしまいそうな恐怖感に囚われる。
不意に風が吹き始めたのか、木々がざわつきだした。
それはまるで僕の中に生まれた恐怖を見透かした、何者かの所業に違いない。
しかし、ここで怯えてしまっては元も子もない。
僕は強く歯を噛み締め、生まれた恐怖を心の深層へと沈み込ませようとする。
つい数分前まで穏やかだった筈の森は、眠りから目を覚ましてしまったのか、一斉に何かを話し始めた。
誰だ?お前は?
お前は誰だ?
喰ってやろうか?
帰れないぞ。
帰さないぞ。
起こさないぞ・・・
そう木々は騒めく。
焦燥感に駆られた僕は、何とか平常心を保とうと深呼吸するが、その行為はかえって喉と肺を凍てつく冷気で傷つけてしまうだけだった。
その痛みに目尻から涙を生み出そうものならば、直ぐに凍ってしまいそうな程の夜。
極北の地。
凍てつく世界。
逃げ出しては駄目だ。
あの音を捕まえるまでは・・・
あの音を捕まえるまでは・・・
僕は争わず、この世界の全てをこの身に受け入れる覚悟を決めた。
すると、木々達がヒソヒソ話を続ける中、美しい歌声が微かに・・・そう。
本当に微かに聞こえてきた。
それはまるで伝説の女神の歌声の様であり、哀しみに満ちた鬼女の泣き声の様であり、この地球という存在が、誰かの声を借りて訴えてかけてくる様な・・・
そんな美しい歌声だった。
僕はもっと歌声を聴くべく、凍てつく大地に耳を当てた。
地面はとても冷たく、耳を千切らんばかりに凍りつかせる。
「嗚呼、何と美しいのだろう」
大地に体温を奪われて、意識が遠退きつつある最中・・・
僕の身体を暖かい光が照らし始めた。
朝がやって来たのだ。
生命満ち足りた朝が。
『iamthemorning』
そう。
僕は朝に生まれ変わったのだ。
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ロシアのチェンバーロック・デュオ
『iamthemorning』の通算4作目のオリジナルアルバム、冒頭を飾るこの一曲を。
今年はメンバーによるソロアルバムの発表や、ロシアよりイギリスへと活動拠点を移し、更なる躍進を遂げる予定だったのだが、この世界的危機の中で残念ながら計画は頓挫・・・
近く再起をかけた活動の一つとして、クリスマスアルバムを出す予定だ。
未だに日本では作品がプレスされていないので、来年こそは日本盤として発表して欲しいものだ。