「1984年、友人宅で体験した怪異の事。」
これは、まだ私が高校生だった1984年の春頃の話です。
当時、私にはとても仲の良かった友人Nがおりました。
Nは家庭での色々な問題のせいで少しグレていて、不良の先輩達とトラブルを起こしては、何度も警察沙汰になる様な、言わば問題児。
でも私とは映画や音楽、漫画など共通の趣味が多い為か、極々普通に遊んでいました。
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その日も、いつもの様に学校帰りにNの家に寄り、夜遅くまで楽しく遊んだ私が帰ろうとすると・・・
「泊まっていけよ」
Nが私を引き止めます。
「明日用事があるから帰るよ。」
と私が断ろうとすると・・・
「お願いだから泊まっていって!」
と、Nが涙目で懇願してきたのです。
強気で喧嘩っ早いNとは思えないその姿に違和感を感じた私は、その理由を聞いてみました。
「実は夜中に祖父ちゃんのお化けがでるんだよ・・・それが怖くて怖くて・・・」
Nの部屋と襖一枚隔てた隣の部屋・・・
仏間より毎晩の様に、亡くなったお祖父ちゃんが来るというのです。
Nは目に涙を浮かべ、身体は少し震えていました。
その夜、私は仕方無くNの家に泊まる事になったのです。
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夜も更け時計が零時を指す頃・・・
私達は布団を二組敷き、電気を点けたまま横になりました。
Nは私の手を握り、怖さを紛らわす為に映画や漫画、好きなアイドルの話をしていましたが、私が隣に居る事で安心したのでしょうか・・・
いつしか寝息をたて始めました。
私は一人、緊張感のせいか中々眠りにつく事が出来ません。
それでもなんとか目を瞑り、ようやくウトウトし始めると・・・
「トッ、トッ、トッ。」
隣の部屋から聞こえる物音で目が覚めてしまいました。
それは何かが畳の上を歩いている様な音です。
「トッ、トッ、トッ。」
その音は隣の部屋から廊下へ出ると、この部屋の入り口の前で止まりました。
[きっとNのお母さんが様子を見に来たんだ!]
と私は自分に言い聞かせ、更に固く目を瞑りました。
「すーーーーーーっ」
静かに引き戸が開かれ、何かが部屋に入って来る気配を感じます。
その瞬間!私の身体は動かなくなりました。
[金縛りだっ!]
私は怖さで悲鳴を上げそうになりましたが、声が出ません!
その[何か]は「トッ、トッ、トッ。」と、私達を伺うように布団の周りを歩いています。
音が私の足元に来たと思った瞬間、その[何か]が私の足に乗ってきました!
「ズン。 ズン。 ズン。 」
ソレはゆっくり、ゆっくりと、足の上をやって来ます。
あまりの怖さに逃げたくても、身体は金縛りで一向に動きません。
『もう終わりだ!』
と諦めたその瞬間!
ソレはのお腹の上で止まりました。
少しズシリとした重さを感じますが、決して嫌な感じではなく、仄かな暖かさを感じる・・・そんな気がした事を今も覚えております。
『なんだ。猫じゃないか!』
以前、猫を飼っていた私は、よく一緒に寝ていて似た様な経験をしていた事を思い出しました。
すっかり恐怖心消えた私は、そのまま安心して眠りについたのでした。
翌朝、グッスリ眠れたNに[お化けは出なかった事、そして猫が寝に来た事]を伝えました。
Nは少し困った顔をしました。
「ウチに猫は居ないんだけど・・・。」
あの夜、私の上に乗って来た[何か]は、一体何だったのでしょう・・・。
その後、Nは部屋を別室に移してから、数ヵ月後には家を出ました。