見出し画像

2023年7月電子書籍新刊『妻を愛してはいけません』ロイヤルキス ※SS公開中

2023年7月28日より『妻を愛してはいけません』(ロイヤルキス)が配信されます。
※ピッコマ様にて、7月3日から先行配信中です!
美麗なイラストは、森原八鹿先生。
120000~130000程度の(詳しい文字数は忘れてしまいました!)の長編小説になります。

軽薄伯爵が妻を一途に愛すまで。

生まれつき耳が聞こえず、公爵令嬢でありながら孤児院で暮らしていたニーナ。父親の手駒として、王太子の側近で伯爵のルスランに嫁ぐ。かつて憧れた人の妻となり、淡い期待を胸に迎えた初夜。ニーナが読唇術ができると知らないルスランが「君を愛しちゃいけないんだ」と口にするのを見てしまう。仕方がないことと納得したニーナだったが、聞いてはいけないことを聞いてしまい、読唇術のことは言い出せないまま…。「何でもする。だから僕の傍にいて」誰も愛することができないはずの軽薄伯爵が、妻を一途に愛すまで

『妻を愛してはいけません』ロイヤルキス書籍詳細

公式サイト→ https://www.j-publishing.co.jp/tullkiss/book-20616/

書影をドーン!

『妻を愛してはいけません』(ロイヤルキス)イラスト/森原八鹿先生

帯なしを、ドーン!!!

『妻を愛してはいけません』(ロイヤルキス)イラスト/森原八鹿先生

美しい~~です!
ヒロインちゃんの表情や、そんなヒロインちゃんを一途に見上げるヒーローのお顔が素敵。
寒い国のお話なので(しかし雪のシーンなし!!)、デザインも雪的でめっちゃ素敵です。
そして個人的に、差し出されたヒーローの手を取ろうかどうしようか、躊躇っているヒロインちゃんの手が(´;ㅿ;`)
本当に美麗なカバーイラストに、感動です!
森原先生とは『聖王猊下~』でもご一緒させていただいたのですが、あちらはヒロインのせいでコメディになっていたんですけど、こちらはヒーローのせいでコメディに……のお話になっております。
ロイキスさんには挿絵も4枚あるのですが、どれも美しいので(私は3枚目が好き)ぜひお手に取ってご確認していただけたら、と思っております。


簡単なあらすじは、公爵令嬢でありながら、耳が聞こえない(喋れない)ため、父親に家から追い出されたヒロインちゃん。
そんなヒロインちゃんもお年頃に。
美しく成長したヒロインちゃんに、政略結婚の道具として使える(*゚∀゚*)と閃いた父親。
ヒロインちゃんは結婚することになる。その相手は、幼い頃に会ったことのあるヒーローだった――から始まるお話になります。

ロイキスの担当さんからは、シリアスを書いて下さい、と言われておりまして、簡易プロットの段階では切ない系のガチガチシリアスでした!
これでいきましょうになって、詳細プロットを作り始めたのですが、最近わりとまともなヒーローばかり書いてたなと思ってしまい、変なヒーローを書きたくなっちゃって……コメディ成分が高めになってしまいました。
当初の予定と違ってしまい面白く書けるか不安だったんですけど、今までで一番(体感)担当さんの反応がよかったんで、ホッとしました。

Twitter(えっくす?)でも言いましたが、ヒーローが一途ではなく、ヒロインが喋らない。
ヒロインとヒーローのやり取りがほぼ筆談とジェスチャーで、難しい部分がありつつも、挑戦の気持ちで書きました。
終わってみれば、よくも悪くも、すごく私らしいお話になったんじゃないかな~と思っています。

みんな独り言が多い、とか読唇術でそこまで言葉がわかるのか、などツッコミどころもあるかもしれませんが、楽しんでいただけたら嬉しいです。
(耳が聞こえないのに、音に反応しちゃう描写をつい入れてしまっていて、担当さんからのご指摘でかなり救われました!)


『妻を愛してはいけません』SS

※完結後のお話になります。エロシーンはありませんが下ネタ多めです。


『ニーナ様に、お訊ねしたいことがあるの』
 いつになく真剣な表情で、王妃がそう口にした。口にしたあと、手話でも同じ言葉を伝えてくる。
〈何でしょう?〉
 ニーナは手話で返す。
『そうね……どう訊けばよいのかしら……あ!』
 手話や読唇での会話より、筆談のほうがよいと思ったのか、王妃はテーブルの上にあった紙を取ると、熱心にペンを走らせ始めた。
(私には荷が重いと思ったけれど……お受けしてよかった)
 ――王妃の、相談役になってはくれないか。
 グレゴリーから打診されたときは驚いた。
 辞退をしたのだが、熱心に頼まれて結局引き受けることになってしまった
 王宮に出入りするのは気が重かったし、相談役など自分に務まるわけがない。
 不安しかなかったのだが……今は引き受けてよかったと心から思っていた。
 そう思えるのは、王妃のおかげだ。
 もうすぐ十八歳になる王妃は、朗らかで明るく、天真爛漫な女性だった。
 ニーナが耳が聞こえないと知っても、嫌がったり、あからさまに憐れんだりもせず、手話を教えてほしい、と無邪気に頼んできた。
 年齢よりも子どもっぽく、隣国の王女だというのに気さくだ。
 屈託なく話しかけてくる王妃に、ニーナはすぐに好意を抱いた。
 今では、妹がいたらこんな風なのかしらと、思うほどに大切な存在になっている。
『これを見てちょうだい』
 王妃が紙を差し出してくる。
 紙には文字ではなく、絵が描かれていた。
(…………これは……)
 ニーナは固まる。
 描かれたそれが、男性の象徴――男性器に見えたからだ。
(いえ……茸かしら……茸ね。間違いない、茸だわ)
 昨夜、夫と性交をした。その際、『触って、お願い、触って、少しでいいから』とあまりにしつこく強請ってくるので、仕方なく夫の男性器に触れた。
 苦しげに眉を寄せ、ビクビクと震える夫に、不本意ながらニーナも少し興奮してしまった。
 ニーナは身体も心も純真ではなくなってしまっていた。そのせいで、茸を男性器と見間違えてしまったのだ。
 おそらく王妃は、散歩中に茸を見つけでもしたのだろう。
 食用の茸もあれば、毒のある茸もある。ニーナには茸の見分けがつかない。
 どうしても茸の種類が気になるならば、庭師か料理人に訊ねたほうがよい。そう答えようと思ったのだが……。
『陛下の、男根なの』
 王妃は真面目な顔で、そう口にした。
(だんこん……だんこん……????)
 唇の動きを見間違えたのかと思った。しかし王妃は手話でも〈男性器〉と伝えてくる。
『先日、陛下の男根を見る機会があったので、遠慮なく見せていただいたわ。それで気づいたのだけれど、閨授業で見た男根と、陛下の男根は形状が違うの。もしかしたら、陛下は男根のご病気なのでは……』
 病気ならば他の者には相談できない。グレゴリーの身内で、信用できるニーナしか訊く相手がいない……と王妃は続けた。
『ご病気だから、わたくしとの閨の行為を拒否されているのでしょうか』
 グレゴリーと王妃が未だ閨をともにしていないのは、ニーナも知っていた。
 王妃が十八歳なるまで待っているのだと思っていたが、本当のところはわからない。
『ニーナ様、ここにルスラン様の男根を描いてください』
 ニーナがどう答えたらよいのか迷っていると、王妃が白紙の紙を差し出してくる。
 ニーナは表情を固まらせ、王妃を見る。
『男根を、比べてみたいのです。どうか、どうかお願いいたしますわ』
 断ろうとすると、強引にペンを握らされた。
 お願いします、と切実な眼差しを向けられ、ニーナは渋々ペンを走らせる。
 完成した絵に、王妃は目を剥いた。
『ニーナ様は絵が下手くそですわね……。でもやはり……違いますわ! ここの、でっぱりが、違います!』
 男性器の先端を人差し指で叩きながら、王妃が言う。
 確かにニーナの描いたルスランの男性器と、王妃の描いたグレゴリーの男性器は形状が違った。
 ――人によって形状が違うだけではないのしら……。
 そう思ったとき、必死な形相で紙を見比べていた王妃が、ぱっと顔を上げて入り口のほうを見る。
 王妃の視線の先を追ったニーナは、慌ててテーブルに置いている紙を回収し、ドレスのポケットに入れた。
 グレゴリーがドアを開け、入ってきたからだ。
 どうやらニーナに、挨拶をしに来てくれたようだ。
『王妃の我が儘に困っているならば、遠慮なく言ってくれ』
『まあ! わたくし、我が儘なんて言いませんわ』
 閨をともにしていなくとも、二人は仲睦まじい。……夫婦というより、兄と妹、という感じではあるけれども。
 グレゴリーから、珍しいお菓子があるので一緒にお茶をしようと誘われる。
 王妃は先ほどの男性器の話はすでに頭から消えているようで『珍しいお菓子!』と目を輝かせている。
 けれども王妃とはうらはらに、ニーナの頭の中には彼女の描いた男性器がある。
 グレゴリーと目を合わせづらかったので、ニーナは誘いを辞退し、いつもより早く帰路についた。

   ◆ ◇ ◆

「ニーナは? もう寝ちゃってる?」
 仕事が立て込んでいて、帰りが遅くなってしまった。
 普段ならばニーナも起きている時間だが、今日は王宮へ行く日であった。
 王女に振り回され、疲れてもう休んでいるのかもしれない。
 寝ているなら寝顔だけ見ておこうと、ルスランは家令に訊ねた。
「入浴されておいでです」
 家令の言葉に、ルスランは微笑む。
「ルスラン様、どちらに行かれるのです」
「どちらって、浴室だよ。僕も、汗をかいちゃったし」
「先日、奥様に怒られたばかりでしょう。奥様が上がるまでお待ちください」
 一緒に入ろうと誘ってもいつも断られる。なので先日、ニーナの入浴中に浴室に侵入した。
 身体を洗ってあげただけだ。浴室で交合はしなかったというのに、ニーナは酷く怒った。それから一週間、筆談や手話は無視され、目すら合わせてくれなかった。
 覗くくらいなら大丈夫かな……と思ったが、また無視されるのはキツい。
 ルスランは諦め、ニーナの部屋で湯上がりの彼女を待つことにした。

 疲れていないようだったら、妻の身体を堪能したい。
 口づけしながら豊かな胸を揉みし抱き、張りのある尻を吸いたい。
 身体を洗ったばかりだから、いつもは嫌がる秘処の口淫もさせてくれるかもしれない――などと思いながら、ルスランはベッドに腰掛け、ニーナが戻ってくるのを待つ。
 結婚しずいぶん経つし、交合も数え切れないほどしていた。
 だんだんと一緒にいるのが普通になり、交合も減っていき、恋愛的な感情が、家族愛に変わっていく。そんな風に二人の関係も変化していくのだろうと思っていた。
 けれど昨日交わったのに、今日も交わいたい。明日も、明後日もニーナと交わいたいと思う。
 日に日に妻への想いは深く、濃くなっている。
「昨日は、擦ってくれたからなあ……今日は舐めちゃったり……してくれるかも」
 自身の股間に顔を埋めるニーナを想像すると、ムラムラしてきた。
「ニーナ、遅いなぁ」
 呟いたとき、ふとテーブルの下に何か白いものが落ちているのに気づいた。
 筆談用の紙のようだ。
 ルスランは立ち上がり、紙を拾った。何の気なしに、折り畳まれていた紙を広げて、息を呑んだ。
「……っ!」
 紙には絵が描かれていた。
 ルスランは目を疑う。なぜなら、その絵が男性器にしか見えなかったからだ。
 紙は二枚重なっている。
 そこにも、一枚目よりも拙い筆致ではあったが、男性器が描かれていた。
「なんで、男性器の絵が描かれているんだ……」
 ルスランはテーブルの上に二枚の紙を置き、見比べる。
 一枚目と二枚目の男性器は、同じ人物の男性器ではなさそうだ。
 一枚目は包茎気味の男性器で、二枚目は先端部が張り出した、いわゆるずる剥け状態の男性器だったからである。
「いや……違う……こ、これは!?」
 ルスランは一枚目の紙の上下を入れ替える。
「勃起したから、皮が剥けたんだ!」
 どうやらこの絵は、萎えた状態の男性器と、勃起状態の男性器を描いたものらしい。
「……でも、明らかに二つの絵は、別の人物が描いている感じだけど……っていうか、何でこんな絵が、ニーナの部屋に……」
 部屋に出入りする侍女が落としたのか。
 ニーナのものであるならば……ニーナが描いたのだろうか。それとも、誰かが描いたものを譲り受けたのか。
 ルスランは顎に手をやり、思案する。
(……もしかして……)
 自慰をするのは男性だけではない。自慰のためのものなのか。
 それとも――と嫌な予感がし、ルスランはぎゅっと胸を押さえる。
 ニーナは浮気をしているのかもしれない。
 これは愛人の男性器なのだ。夫がいるためなかなか会えないので、愛人の男性器の絵で心と身体を慰めているのだとしたら……。
(嫌だ……別れたくないっ……!)
 ニーナに捨てられる。想像しただけで、死にたくなった。
 彼女のいない人生など、考えられなかった。
 ガチャ、という音がし、ルスランは顔をあげる。
 ニーナだ。湯上がりなので髪を下ろしていた。可愛い。水の妖精よりも、百倍可愛いと思う。
 ルスランに気づき、ニーナは微笑む。しかしその微笑みはすぐに消え、目を剥き、驚いた表情に変わった。
 もう、自分に微笑んでもくれないのか……。
 悲しみで、絶望で、涙がさらに溢れだし、頬を伝った。
「ニーナ……僕を、捨てないでっ……」
〈どうかしたのですか?〉
 ニーナが首を傾げ、手話で訊いていくる。
「何でもする……僕は、どうしたらいい?」
 逆に問い返すと、ニーナが訝しげな表情を浮かべ近づいてきた。
 彼女を抱き寄せ、どこにも行かないように抱きしめたくなる。
 王妃の世話係になんてなるから、王宮になんて行くから、ニーナは自分を捨てるのだ。
 部屋の中に閉じ込めて、誰にも会わせないようにしたい。
 ニーナが見つめるのは、ルスランだけ。微笑みかけるのも、触れるのも、彼女の心の中にいるのは自分だけでいい――と思い、ルスランは唇を噛む。
(違う……)
 ニーナを独占したい気持ちはある。けれどそれと同じくらい、ルスランは周りの人たちから慕われている彼女を見るのが好きだった。
 家の者たちと仲良くしているニーナを見ると、幸せな気持ちになる。慰問先でニーナが褒められると、ルスランも誇らしい気持ちになった。
 王妃に対し〈不敬ですけど、妹がいたらこんな風なのかなって〉とはにかむニーナが、愛おしくてたまらなかった。
「ニーナ、僕はまた君に愛してもらえるよう頑張るよ……。正直、男性器で劣っているとは思わない」
 絵に描かれていた男性器は、取り立てて優れたところなどない、どこにでもありそうな普通の男性器だった。
「僕のほうが長いし、太い。張り出し具合も僕のほうが素晴らしい。君は、真新しい男性器に目移りしているだけだ。すぐに僕のよさに気づくよ」
 ルスランの唇を見るニーナの眉間が、どんどん険しくなってくる。
 不倫がバレたと、気づいたからであろう。
 そして……ニーナの視線がテーブルの上に向けられる。
 ニーナは慌てた様子で、紙を掴んだ。
「隠さなくていいよ。僕は全部、許す……いや、許してほしいのは僕だ。悪いところは直すから……だから、この男性器の相手とは縁を切ってほしい」
〈違います〉
 ニーナは顔を真っ赤にし否定をする。
「これは君の不倫相手の男性器でしょう? 名前は訊かない。言わなくていいからね。嫉妬で、どうにかなってしまうから……」
〈違います!〉
 もう一度、先ほどよりも早く手を動かし、ニーナは否定した。
「不倫相手の男性器ではないの? なら誰の男性器? 誰かから悪戯でもらったの?」
 ニーナに邪な想いを抱いている者が、このような卑猥な絵を送りつけていたのならば……それ相応の罰を与えねばならない。
 ニーナは勃起前の絵が描かれた紙をルスランに渡す。
〈こちらは、陛下の……絵です〉
「え? 陛下って……陛下が、こんな絵を君に送りつけてきたの! 臣下の妻に手を出そうなんて……許されない!」
 ニーナは手を二回叩き、首を横に振った。
「違うの?」
〈最後まで訊いてください〉
 ルスランは主君殺しをせずにすんだと、胸を撫でおろした。
 ニーナは、一枚目の絵が王妃が描いたグレゴリーの男性器であること。グレゴリーの男性器が閨の本で見たものと形状が違うので、病気だと心配していたこと。王妃が、他の殿方の男性器のかたちを知りたがったことを説明した。
「他の殿方の男性器……」
 ルスランが呟くと、ニーナは唇を尖らせて〈もう一枚は……あなたのです〉と答えた。
「僕の? 僕の男性器なの?」
 ニーナは頷く。
「ニーナが描いたの?」
 ニーナは恥ずかしげに視線を彷徨わせたあと、小さく頷いた。
 ルスランは『王妃が描いたグレゴリーの男性器』の紙をぽいっとテーブルに投げ捨てて、ニーナの手にしている紙を取る。
「ニーナが! 描いた! 僕の! 男性器!」
 よく見ると、張り出し具合も素晴らしいし、なかなかの逞しさである。
「額に入れて飾って置こう!」
 ルスランが満面の笑みでそう言うと、ニーナがすごい勢いで手を伸ばしてきた。
 紙を取り上げたかと思うと、ビリビリに破った。
「ああああああああ!」
〈うるさい!〉
 ニーナは耳が聞こえない。
 絶叫など聞こえていないというのに、ルスランを睨み上げながら、そう叱った。

 その後――。
 包茎と仮性包茎について、ルスランはニーナに説明した。
 それを王妃に話したかは……定かではない。
 グレゴリーにこの一件を話すと『迷惑をかけたな……すまなかった』と引き攣った顔で謝罪を口にした。
 ルスランに男性器の形状を知られたからか、王妃に病気だと疑われていたからか、ひどく憔悴し切った様子で、少しだけ、少しだけだけれども、可哀想になった。