![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/22724803/rectangle_large_type_2_65be7c75655a5d0f69a7da52402316a8.jpg?width=1200)
夜さえもあなたは
散歩は気晴らしになる。近所を歩くだけでも。買い物は楽しい。豆腐屋で卯の花を買うだけでも。
鳥たちは調子がよい。雀、鶯、鴉、燕、山鳩、鳶、四十雀、その他よく知らないたくさんの鳥をみかけるし、たくさんの鳴き声が聞こえてくる。
散歩しながら、鳥たちの鳴き声をたくさん録音した。帰宅して部屋の中で再生すると、鳥の鳴き声の他に、がさがさ歩く音や、ぶおおおんと鳴る自動車の走行音が混じっている。部屋にいながら街歩きの気分。
夜、窓を少し開けてみる。ときどき、風に乗った波の音が聞こえるときがある。
住之江の海岸に、波が打ち寄せる、打ち寄せる、
つづいていく、音、音、
夜さえもあなたは、夢の中でさえも、
どうして、あなたは、人目を避けて、
私のところに来てくれないのか
夢で、遭うための道、
歩んでいく、歩んでいく、
どこまでもあなたの影はない、
夜さえも、夢さえも。波の音、音、音。
清川あさみ+最果タヒ『千年後の百人一首』リトル・モア,p.18
窓の外に顔を出したら、土砂降りの雨が降ってきた。
ベッドで半睡状態の妻に「もう眠いから、鳥の鳴き声の音、再生止めてくれない?」と言われる。とっくに止めているのに。彼女の頭の中だけで鳴きつづける鳥たち。