Dream バイバイ。12話目

ーー山口 梅子(20歳)、山口 桃子(50歳)の場合ーーNo.2ーー(in dream)

私の父は私が5歳の時に交通事故で亡くなった。
父の記憶は、いつも元気で太陽みたいな人だった。
母と私はそんな父に照らされて生きてきた。父が亡くなって、母は明らかに人が変わってしまった。
家でも滅多に話をしなくなり、私と二人の生活を朝から夜まで必死に働いて支えてるようだったが、ふと、所在の分からない目をしながらご飯を食べてる姿を見かけた。
小学一年生の時、夜トイレに起きたらリビングで父の位牌に手を合わせている母親を見た。

桃子「あなた。会いたいよ。寂しいよ。苦しいよ。せめて夢の中でだけでも会いたいよ。もう、疲れた。私に元気を下さい。私に力を下さい。あなたとの大事な子をしっかり守れるように。」

そう言いながら、母は泣き崩れていた。

私はその日、丁度、夕方のテレビで特集をしていた、夢を作る人達の事を思い出していた。
そうだ。母に父の夢を見させてあげよう。私が夢を作る人になればいいんだと思い、その日から私の夢は『夢を作って見せる人になる。』だった。

ところが、中学生直前になり、周りの仲の良かった友達は皆、塾に通いだし中学受験をして、中学受験をしなかった私とは離れ離れになってしまった。
楽しかった小学校生活も終わりを迎え、急に現実を突きつけられた気がして、日々の生活が色褪せた物へと感じた。

中学に入り、『夢を作る人になる』と思っていたところで、何かをできるわけでは無かった私は、ぼんやりとその場をやり過ごして、ただ過ぎ行く時間に身を任せる抜け殻のような日々の学生生活を送っていた。

うちに帰ると、以前よりシワが増え白髪が増えた老け込んだ母親が、仕事から帰ってきて暗い顔でご飯を作り出してはくれたが、一緒に食べる事はなく、会話をする事もほぼ無く、家の中でも外でも生きてるのか死んでるのか分からない顔をしていたと思う。

私がいることで、母に負担を掛けてるのでは無いか。
私がいない方が、母はもっと自由に生きられるのでは無いか。
私は次第にそう思うようになっていった。

思春期特有の自分の存在意義を自分自身に詰問していた頃、私は交通事故に遭った。


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仕事場に病院から梅子の交通事故の連絡が来たのは夕方、私が仕事を上がる直前だった。
下校中の梅子に後ろから来たバイクが突っ込んできたと言うのだ。
幸いにも大きな怪我は無かったが、今、まだ、意識が戻らないでいるという。

私は電話を持ったまま、立っていることができずに、その場にしゃがみ込んでしまった。
主人が亡くなった時の事もフラッシュバックして、心臓の音だけが耳に響き、上手く呼吸が出来なくなって倒れ込んでしまった。
(ああ。神様、どうか、私から、大事な人達を奪わないで下さい。)
薄れゆく意識の中で、そう呪文のように、心の中で何度も唱えた。

ピッピッと、娘の心音が電子音となって鳴り響く部屋で、私はベッドの上でゆっくり呼吸をして眠っている娘の姿を眺めていた。
いや、目は映し出しているだけで、頭の中にはここ最近の無表情の娘の顔を思い浮かべていた。
この子の笑った顔を見た最後の日はいつだろう。
小学生の時に仲の良かった子達は中学受験をするために塾に通うようになり、うちにはそこまでの余裕も時間も無かったから、娘には寂しい思いをさせてしまったのだろうという引け目も感じて、高校、大学ともう少し自分で好きなように選べられるくらいに、選択時には寂しい思いをさせないでできるようにと私は必死に、がむしゃらに働いてきた。それが彼女の為だと必死に思い込んで言い聞かせて。

でも、間違っていたのかもしれない。

娘の為なんかじゃない。主人を亡くしてから、私が生きていく理由づけが欲しかっただけかもしれない。
娘の顔もまともに見る事なく、食事を出して、洗濯掃除。
家の事をすれば、私は彼女が幸せになれるとそう思っていた。
会話もろくにせずに。
もう、小さい子供じゃないんだし、と。
そう、まだ、人として幼い彼女に甘えていたのかもしれない。

この子が目を覚ましたら、沢山話しかけよう。いっぱい、お話ししよう。一緒にお買い物に行ったり、一緒に食事に行ったり、いっぱい、親子の時間を取り戻そう。
だって、二人しかいない親子なんだから。そう期待を持って自分を奮い立たせていた。

私はこの時は娘は数日もすれば目を覚まし、すぐ退院できるだろうと思っていた。
だが、現実は違っていた。一週間、一ヶ月、三ヶ月、半年。そして一年。
娘は目を覚ます事はなく、眠り続けていた。

先生が言うには、脳波の異常もなければ、体の異常もない。ただ、生きたいという思いが彼女の心には足りないのではないかと。

娘は穏やかな顔をして眠り続けていた。
もうすぐ15歳の誕生日がくるという頃、私は、昔、娘が『夢を作って見せる人になる。』と言っていたのを思い出した。

生きる兆し、光、希望、目標、期待、楽しみ、そして夢。
少しでも彼女の中で生まれることがあれば、目を覚ますかもしれない。
私はそうした思いで、夢制作会社『Dream buy bye』に毎年通うようになった。

2年目、3年目、4年目、5年目、回数を重ねるたびに、チップを貼って夢を見ている時の娘は、にこやかに微笑んだり、時には寝ている目尻から涙が伝い落ちる時もあった。
彼女の心を大きく動かしているのは確かだったが、
未だに彼女は目を覚ます事なく、こうして6回目のチップをおでこに貼る事になった。

continue…

Dream バイバイ。13話目に続く。

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ラン丸
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