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家族の形(離婚しようよ、を見た)

「手に入ったものに自分を合わせるより、手に入らないものを眺めている方が楽しいんじゃない?」

『大豆田とわ子と3人の元夫』第9話より

 小さい頃、ラムネ瓶のビー玉を取ろうと思ったことはないだろうか。これがなかなか取り出せない。ああでもない、こうでもないと、試行錯誤を繰り返す。ついに瓶を割る。だが、瓶から取り出せばそれはもうただの、なんの変哲もないビー玉なのだ。その価値はたちまち下がってしまう。

 Netflix「離婚しようよ」を観た。最終話まで見た時、脳裏によぎったのは坂本裕二脚本「大豆田とわ子と三人の元夫」で見た家族像だった。
 坂本裕二といえば、近年は「カルテット」「anone」「大豆田とわ子と三人の元夫」に代表され、型にはまらない家族像を描く作家で知られている。「大豆田とわ子と三人の元夫」の主人公・大豆田とわ子は3回結婚し、3回離婚した。物語の後半、とわ子と元夫・田中八作はこんな会話をする。

とわ子「私もね、あなたを好きになって、あなたと結婚してよかったよ。それだし、今でも好きだよ」
八作「両思いだ」
とわ子「両思いだね。…だからあなたを選んだ。あなたを選んで、1人で生きてくことにした」

『大豆田とわ子と三人の元夫』第9話より

とわ子は若い頃、八作の心に自分以外の好きな人がいると疑い、それがきっかけで最終的に2人は離婚してしまう。そんな2人が十数年たった後、お互い本当の気持ちに気がつき、新しい関係が生まれる。とわ子は気がついている。再婚はもう今となっては2人にとって良い選択ではない。八作を選び、1人で生きることにしたのだ。再婚はしないが、時々なんでもない話をしたり、家に呼んで一緒にご飯を食べたり、相談をしたりする関係。
 「離婚しようよ」の最終話で、ゆいと大志はまさに、とわ子たちのような関係に帰着する。再婚せず、今の関係を続けるのが1番いい関係でいられる。お互いを好きでいられる。離婚しなければよかったと後悔し続けることでお互い惹かれあり、1番いい関係を保てるのだ。手に入ってしまう関係ではうまくいかない。手に入ってしまえば、その関係は2人にとってたちまち価値がないものになってしまう。ラムネ瓶のビー玉のように、手に入らないことで価値が生まれ、お互いを好きでいることができる。元夫の親に子供を見てもらい、元夫も週4日、育児をする。みんなが幸せに暮らせる、新しい家族像にも思える。
 「離婚しようよ」は大きな人気があると聞く。新しい家族像が多くの人にも受け入れられている、と思っていいのかもしれない。いやそう信じたい。結婚制度からはみだした、新たな家族の形がドラマで描かれることはとても嬉しい。家族というものはもっと自由でいいはずだし、誰かと生きるという選択は家族という形でなくてもいいはずだからだ。今のとわ子に結婚相手はいないが、周りにはたくさんの人がいる。元夫たちや、母の元恋人や、死んだ親友や、娘や、たまたまラジオ体操で会った人や、これから出会う人たち。これでも1人と言えるのか?私たちはもっと、たくさんの誰かと、生きていけるはずだ。寂しさを抱えながらも結婚という制度に疑問がある人たちに、生き方に悩む人たちに、新たな生きる形を提示するようなドラマが、「離婚しようよ」の後に続いていくことを願う。


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