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【解説】少数株主にはTOB、親会社には自社株買い(自己株取得)を行うスキームについて
TOBが流行りはじめて久しい。
昨今は日本の資本市場も徐々に成長してきており、いわゆる同意なきTOBを目にする機会が増えてきた気がする。
先日投資銀行のMA担当者と面談する機会があったが、「unsolicited案件の相談が増えている」とのことだった。
やはり。
というか、何だよunsolicitedって笑。
発音】ʌ̀nsəlísitəd、【@】アンソリスィティド、【分節】un・so・lic・it・ed
〔助言・電話・電子メールなどが頼んでもいないのに〕勝手に[一方的に]押し付けてくる、押し付けがましい、おせっかいな
・I am totally fed up with unsolicited e-mails. : 私は、迷惑メールに完全にうんざりしている。
https://eow.alc.co.jp/search?q=unsolicited#google_vignette
なるほど。要は敵対的とまでは言わないが、勝手にしかけられるTOB。と言う様な意味合いで捉えておけば間違いはないだろう。
いずれにせよ今後もM&Aの一つの手法としてunsolicited TOBがより一般的になっていくのは間違いなさそうである。
ところで、少しTOB案件の事例を勉強していたところ、最近いくつかの事例で少数株主をTOBもしくはスクイーズアウトでイグジットさせてから親会社の持分を対象会社が自社株買いするケースが見られた。
最近の案件でその様な事例がパッと浮かぶのは以下2件だ。
パソナ(売り手)-ベネフィットワン(対象会社)-第一生命(買い手)
古河電工(売り手)-古河電池(対象会社)-アドバンテッジパートナーズ(買い手)
何故この様な二段階とも言える方式を取るのか。
ベネワン案件を例にとって考えてみたい。
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これは売り手/親会社(パソナ)のメリット・狙いを考えると分かりやすい。
親会社がイグジットを目論んでいるTOBは大抵の場合、売却益の最大化が第一優先事項だ。
そして通常は、上図で赤点線が結ばれている通り、買い手が売り手の持分を買取る為、売り手からすると、株式売却益が立つ。
しかし当たり前だが、売却益には税金が発生してしまう(所得税:15.315%、住民税:5%の計20.315%)。
そこで、「みなし配当の益金不算入」制度を活用した節税スキームを活用することで、合法的に売却益の大部分が非課税となるメリットを享受しようとして、自社株買いスキームを介在させていると思われる。
みなし配当の益金不算入制度とは
法人が受け取る配当は一定の条件下で益金不算入となる。一例は以下の通り。
完全子法人株式等(100%保有):
受取配当等の全額(100%)が益金不算入となる
関連法人株式等(3分の1超100%未満保有):
受取配当等の全額(100%)が益金不算入となるが、負債利子がある場合は一定の調整が必要
非支配目的株式等(5%以下保有):
受取配当等の20%が益金不算入となる
その他の株式等(5%超3分の1以下保有):
受取配当等の50%が益金不算入となる
証券投資信託の収益分配金:
特定株式投資信託以外の証券投資信託の収益分配額の20%が益金不算入となる
何故益金不算入となるのか?
いくつかの理由があるが、早い話がグループ会社間の二重課税回避だ。
どう言うことか。
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例えば僕が100%所有するラーメン屋、A社を経営していたとする。
そのA社の100%子会社B社はカフェを経営していたとする
B社は人気カフェで、しっかりと利益を生み出し、税金を国に納めた上で当期利益も黒字を確保している優良子会社
加えてB社はその黒字から親会社であるA社に毎年配当を支払っている
正に親孝行な会社だ。
ここででだ。
B社が納税した後の残余利益から払い出したA社に対する配当に国が課税をしたら、どう感じるだろうか?
何か不公平感、もしくは違和感を感じないだろうか。
その違和感の正体は、 二重で税金を吸い取られている様な感覚ではないかと思う。
「B社からA社への配当は、言うなればグループ会社間の資金移動なんだから、課税しないでくれ。もうB社の最終利益ベースで課税してるんだから」そう思わないだろうか。
これが正に二重課税の問題である。
同一の課税原因(取引や事実関係)に対して同種の租税が2回以上課される状態を指しており、税負担の公平性が損なわれてしまう為、法律や租税条約等によって配当ベースで回避・調整措置が取られることが多い。
つまり、言葉を変えれば、「グループ会社への配当」の様な形を取れば、資金移動時に税金がかからないとも言える。
このロジックが今回の案件でも取られていると思われる。 ベネワンの例に戻る。
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このスキームのポイントは、表面上はあくまでもベネワンがパソナの保有株を市場から買い戻す自社株取得のオペレーションの建付けを取っている点だ(裏では第一生命がベネワンに資金注入をしている)。
一般的なTOBであればパソナは第一生命に対してベネワン持分を売却し、売却益が立つが、 今回はベネワンの自社株買いに応じて保有株を放出している為、この自社株買いに応じて、株式を放出した対価を得る行為が「みなし配当」を受けていると見做されるのだ。
一見分かり辛いかもしれないが、そこまで複雑な話ではない。
細かな解説は以下サイトに譲りたいが、何点か重要なポイントを抜粋したい。
1. 譲渡損益と受取配当金の認識
税務上、自己株式の取得は株主に対する「資本の払い戻し」として規定されています。株主に対する資本の払い戻しは、みなし配当事由(注)として、法人税法24条1項5号の規定の適用を受けます。
すなわち、自己株式を取得した発行法人は①資本金等の額の減算を認識しますが、これは払戻しを受ける株主の側からみると「出資の返還」とみるため、株主において株式の譲渡対価として取り扱います。
また、②交付金銭の額(払戻額)が①の額を上回る場合には、自己株式を取得した発行法人はその超過額について「利益積立金額の減算」として処理するとされています。この額はみなし配当であり、株主の側においては受取配当金として取り扱います。
この受取配当金については、受取配当等の益金不算入規定の適用を受けることができます。要すれば、株主においては、株式の譲渡対価と譲渡原価(譲渡した株式の帳簿価額)との差額を株式の譲渡損益として認識し、みなし配当の額については受取配当金として認識します。株式の譲渡損益と受取配当金を両方認識することが重要なポイントとなります。
(注)みなし配当事由とは、自己株式の取得、資本剰余金の減少に伴う剰余金の配当、残余財産の分配など、株主が発行法人から金銭等の交付を受ける場合に、みなし配当(配当とみなされる額)が生じる事由です。
以上の様に規定されている。
かいつまむと、
自己株取得は株主に対する(ベネワンからパソナに対する)資本の返還である
パソナが払い込んでいたベネワンに対する資本の額以上に、資本の返還がなされた場合、それはベネワンからすると利益剰余金額から払い出していることになるので、実質的には配当金支払いと一緒である
実質的に配当金と一緒である部分は「みなし配当」扱いとなり(上述の説明の通り)、税務上益金不算入となる。
具体的な数字を使って考えてみましょう。
パソナがベネワンを立ち上げた時に1株100円で100株払い込んだとする(1万円の払い込み)
足許の株価が1株1000円で、ベネワンがパソナから自社株買いをした場合、ベネワンからパソナへの自社株取得にかかる払出金額は10万円
即ち、1万円は資本の払い戻し、9万円が利益積立金額の払い戻し(みなし配当部分)に該当するということになる
よってみなし配当は非課税となる
このスキームのミソは、第一段階でベネワンの49%株主に対して第一生命は既にTOB乃至スクイーズアウトを実施済みの為、
パソナに対してベネワンが自社株買いを実行する際の株主はパソナ(51%)と第一生命HD(49%)の2社のみの状況が作りだされているという点だ。
通常上場企業が「自社株買い」をする際には、主に3つの選択肢が存在する。
市場取引(市場内立会内取引と市場内立会外取引
自社株公開買付け(金融商品取引法27条の22の2)
特定の株主からの相対取得(会社法160条1項)
今回は「3.特定の株主からの相対取得」が採用された形だが、株主総会の特別決議事項(利害関係者であるパソナは議決権無し)ということで、実質的に第一生命1社で承諾される決議事項となる。
これによりスムーズにパソナからの自株取得が達成されたわけだ。
パソナの株式売却益に税金がほぼかからないということは、その浮く税金分、自社株取得のプライスを下げることが出来る(以下の例で言うと、1000-817=183の引き下げ効果)。
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そしてパソナに対する自社株取得価格を引き下げた分、少数株主へのTOB価格を高めることが出来るというからくりになる。
正に三方良しのスキームが構築されるのだ。
個人的には、このスキームはあまりにもテクニカルな気がしている。
即ち、税金の回避姿勢がありありと見えている為、近い内に国税から指摘や注意・規制が入るのではないかと思っている。
はてさて、このスキームの全盛がいつまで続くのだろうか。