大谷翔平のドジャースとの契約から学ぶ貨幣の現在価値とNPV
みなさまこんにちは。
八重洲リーマンです。
CF理論を学び、日々日常的に投資判断を行っている身として、やや今更感がありますが、日本が誇るスターの大谷翔平がドジャースと交わした巨額の契約を、年俸を支払うドジャースがどの様な投資判断を通じて決定したのか、ふと気になったのでさくっと調べてみました!
1. はじめに
コーポレートファイナンス理論(以下、CF理論)をかじると、
CF理論を活用する目的として、理論に基づいた意思決定を通じて「企業価値の最大化」を図るものと学びます。
そして、企業価値を高めるためには投資が必要であり、その投資を行うことにより得られるキャッシュフローの現在価値(年度毎CFの合計)が、投資金額のCFの現在価値を上回れば、
その投資が成功、即ち企業価値を高める投資だとも学びます。
専門用語で言うと、
NPV>0ということですね。
それでは大谷翔平の巨額契約はどの様な投資判断がなされたのでしょうか。
スポーツビジネスがビジネスとしてしっかりと成り立っているMLB随一の人気球団であるドジャースであればしっかりとした投資判断を行っているのではないか?
当然にNPVはプラスになっているのではないか?
早速エクセルを叩いてみました。
2. ドジャース目線で見た大谷翔平案件キャッシュフロー
まず、大谷選手の契約に関して参考にした記事は以下の記事になります。
3. エクセル解説
1. Shohei収入:
大谷翔平の加入により、純増すると思われる収益を切り出してみました。
契約料金:
年間72億円と試算しています。2024年5月1日現在、ドジャースは計6社の日本企業とスポンサー契約を結びました(ANA、TOYO TIRES、DAISO、いなば食品、興和、日本管財センター)。
1社あたりの契約料は12億円で計算しております(以下サイトより)。
広告料金:
年間41億円と試算しています。 上述の契約料金とは別に、球場のバックネット下や外野に企業広告が掲載されているのを見かけますが、そちらに関して計算を行いました。1回あたり10百万円の広告収入で、ホームゲーム81試合中、毎試合5回分日系企業の広告が流される前提で試算しました。正直な所、金額はかなり保守的に計算しています。
チケット収入:
年間4億円と試算しています。 ホームゲーム81試合中、1試合あたり大谷効果で300人観客動員数が増加する前提で試算しました。チケット代は100ドル=15,000円で計算。これに関しても、(感覚的ではありますが)観客動員数増加もチケット単価もかなり保守的に見ています。
その他:
グッズ収入(主にはユニホーム代金やトレーディングカード、サインボール等)も含みたかったのですが、収入の太宗を占めると思われるユニホームに関しては、恐らくサプライヤーからドジャースがスポンサー収入を受け取っている手前、大谷効果により売上が増えた分が直接ドジャースの収入増にならない収益構造になっていると推察しています(恐らくサプライヤーが総取りした収益の内何%かのキックバックを受けているものと思われます)。他収入源と比べても相対的に小さい金額でもあることが予想される為、今回の計算には含めませんでした。
2. 支払い:
ドジャースから見た「支払い」は大谷翔平選手の年俸になります。報道にある通り、選手としての契約期間中は年間$2mnに抑えられ、10年後以降10年間で毎年$68mnを受け取る契約になっています。よって、3.支払いの合計金額が$700mnとなり、この数値が大谷翔平の契約金=$700mn=1050億円になります。
3. NPV(項番2. 4. 6. )
各項目のNPVの算出を行いました。
例えば、大谷選手が今受け取る$2mnの年俸は2mnです。ですが、大谷選手が10年後(2034年)に受け取る$68mnは本当に$68mnと言えるのでしょうか?
世の中に、「金利収入」が存在する限り、答えはNoになります。
なぜなら、仮に10年後に大谷選手に支払う68mnをドジャースが2024年現在大切に保管していたとして、そのお金をドル国債として運用していたとします。
銀行口座に入れておくのが最もリスクは少ないかもしれませんが、ドル国債10年モノの利回りは4%を超えています(ですし仮にドル国債がデフォルトする時はドルの口座を提供している銀行も危なくなっているでしょう)。
つまり、保管している68mnは毎年4%の利回りがついて複利で運用されていくことになります。
計算すると10年後に凡そ$100mnになります。
つまり、無リスク資産と呼ばれている「国債」に預け入れることにより、今の$68mnのキャッシュは10年後の$100mnである。
と言えることになります。
逆も然りで10年後の$68mnは、運用利回りが4%だとした場合、今の金額で言うと$42mnになります(今回使用している割引率は4.43%です)。
つまり、ドジャースは10年後に大谷選手に支払う$68mnの原資を現在$42mn用意して、国債に10年間預けておけば良いとも言えます。
説明が長くなりましたが、要するにドジャースが10年後に払わないといけない$68mnは今の貨幣価値で言うと$42mnということになり、2034年以降10年間、各年の$68mnという支払額を金利を加味した今の価値として計算すると(いわゆる現在価値ですね)、大谷翔平との契約金額は$366mn(549億円)になります。
これに対して、ドジャースが大谷翔平関連で得られる収入合計の現在価値は$615mnになりますので、差し引いたNPVは$249mnになり、ドジャースにとってボロ儲けの案件ということになります。
4. 終わりに
多くの選手は、この運用利回りやインフレ率を加味したレートを用いて、自身の長期契約の受け取り金額が目減りしてしまうリスクをヘッジするそうですが、
大谷選手はこのヘッジも行っていないそうです。
よって、大谷選手の$700mnの契約の現在価値を様々な記事で出てくる割引率4.43%で算出すると、$366mnが現在価値になります。
太っ腹というか、ファイナンスの世界で言うともはや非常識です。
大谷銀行がドジャースさんに無利息で$680mnを貸し付けていると表現するのが一番分かり易いかもしれません。
後に続く日本人選手が舐められない様に、金融リテラシーがあると思われる様に、しっかりとしたアドバザーが就くことを願うばかりです。