イグアナの娘はわたしだった

母親は私には冷たく、９歳下の弟には優しかった。２歳下の妹にはどうだったのか分からない。でも今でもベッタリの母と妹を見ると私よりは優しくしてもらったのだろうと思う。

母は私を子供扱いしなかったし我が子だと認識していなかったと思う。まるで友達のような、ライバルのような、そんな関わり方だった。

弟に対しては「可愛くてたまらない」という感じが子供の私にも分かるくらい滲み出ていた。

母は私には黄色や黒の服を着せて、妹にはピンクを着せた。

とにかく母にとって私は「可愛い女の子」からは程遠い存在だったようだ。

「男の子は本当に可愛い！」
「女の子は口が立つ」「女の子は難しい」
などとこぼしているのを何度も聞いたことがある。

私が妊娠した時、「どうか男の子でありますように。母が言うように女の子というのがそんなに育てにくいものならば、私には到底育てられない。」本気でそう思っていた。（実際には生まれた娘は私にとって信じられないくらい可愛かった）

私は母にとってイグアナの娘だった。
私のことがイグアナに見えてしまってどうしたって可愛いと思えない。生理的に無理。なぜなら本当は母親自身がイグアナであるから。そしてそれを必死に隠したくて本人さえも自分がイグアナだということを忘れてしまっている。それなのに現実を見せつけてくる娘が目障りで仕方ない。母にとって私はそんな存在だった。

自分の嫌いな自分を見せつけてくる存在。自分でも気付きたくない、忘れてしまっている自分を思いださせてくる存在。邪魔な存在。目障りな存在。それが私だった。

私は母を恨んでいる。と同時に激しく求めている。

おそらく私が求めているのは「母親なる者」であって、あの母親ではない。
私が求める「優しくて思いやりがあって、私のことを子供として愛してくれる母親」と言うものはこの世のどこにも存在しない。これから現れることもない。私の母親は暗くて冷たくて人の気持ちが分からない、私のことを子供だと認識できないあの人である。あの人はこれまでもこれからもあの人であって、これから突然変異して私の望む母親になることは絶対にない。だとしたら私はどうする？いつまでも幻想の母親を求め続けて傷付き続けるのか、それとも理想を諦め現実を受け入れて現実の暗くて冷たい母親と折り合いを付けるのか。私は選べるとしたら。

それを全て受け入れて、それでも私が望むことって何だろう？
母親とどう付き合っていきたいだろう？
これからゆっくり考えてみようと思う。