子宮摘出と仙骨のゆがみの関係
特に驚いた様子は無い。
たいてい仙骨の歪みが子宮と関係していると聞けば、意外な顔をしたり、驚いたりするが、この女性は淡々と話を聞いている。
仙骨の歪みが治らない
仙骨は骨盤の真ん中に位置している骨だ。この骨の歪みは頻繁に腰痛を引き起こす。
この女性も仙骨に歪みがある。
突然、背中から腰にかけて調子が悪くなったらしい。
通常なら仙骨は30度ほど前に傾いているのだが、傾きがおかしい。
むしろ体育座りしているかのように、後ろへ傾いている。(実際にはごくわずかな差だが)
後ろに傾いている仙骨は、矯正してしまえばわりとあっさり楽になるはずだ。
さっそくうつ伏せに寝てもらい、矯正のテクニックを施す。しかし思いのほか、治らない。1度テクニックを中止して、仰向けに体勢を変える。
女性は腰が重そうにゆっくり寝返りしていた。そんなところを見ると、やはりまだ痛いのだろう。
「お腹を触診しますね、大きく呼吸していて下さい。」
そう言って呼吸とともに膨らんだり、しぼんだりする腹部に手を当てる。これで内臓の動きを確認することができる。
どうやら骨盤内の臓器が動きが悪い。強力な粘着のりがくっ付いているかのように動かなくなっている。
実際には筋膜の硬さだ。全ての臓器は筋膜というタンパク質のシートにおおわれている。臓器とっての皮ふのようなものだ。
硬くなった「臓器の皮ふ」を伸ばして柔らかくする施術を行う。そしてもう一度、うつ伏せに寝てもらい仙骨を観た。
今度は軽やかに寝返りしているのがわかる。
仙骨は正しい位置にいる。
仙骨と子宮
仙骨の歪んでしまうのは、姿勢の悪さだけとは限らない。
仙骨の歪みは内臓から来ることがある。なかでも子宮によるものは比較的多い。
仙骨と子宮はヒモのような構造物でつなげられているからだ。この構造物は仙骨子宮靭帯(せんこつしきゅうじんたい)と呼ばれている。
インテグラル理論から考える女性の骨盤底疾患
Perter Papa Petros 丸善出版
子宮が前にいて、仙骨は後ろから両手を回し子宮を支える。映画タイタニックで「私、飛んでるわ」のような状態だ。
子宮や卵巣の手術をすると、術後に多かれ少なかれ癒着が起きる。仙骨子宮靭帯がその癒着に引っ張られて仙骨が傾く。
つまり、子宮や卵巣の摘出をした人は仙骨の歪みが起こりやすい傾向がある。
今回、来院した女性は子宮と卵巣を全摘している。だから、仙骨の歪みが内臓から来ているという説明を聞いても全く驚いていなかった。
本人も薄々気づいていた。下腹部は張るし、硬くなる。痛くなったりすることもある。違和感は十分あったのだ。
検査を受けても異常はなく、術後は順調だと言われている。それを聞いている家族も安心している。
この人は弱音をはかない。パワフルに働き、子供たちや夫の前でも元気に笑ったり、怒ったりしているのだろう。そんな感じだから誰もが手術に成功し「治った」と思っている。
しかし本人は気づいている。命が与えられた時からお付き合いしてきた子宮と卵巣はもういない。今までの自分の体とは明らかに違う。
しかし今までと「違う」ということを悲観していないようだ。
「適応能力が高いですね」
そう伝えたら、ちょっと得意げな顔をした気がした。
セルフメンテナンス
手術したことがない人でも、子宮内膜症や子宮筋腫などがある人は仙骨子宮靭帯の引っ張りによって仙骨の歪みを起こしやすい。
仙骨子宮靭帯の引っ張りを防ぐにはお腹の中で内臓をよく動かし柔らかくしておく必要がある。しかしどうやって動かせばよいのか???
実際、私たちは自分の内臓を1日2万回ほど上下に動かしている。この動きは呼吸によって行われる。
したがって、深い呼吸を伴うヨガやピラティス、太極拳などが有効だ。
癒着があるところは呼吸をしても動きが小さいが、くり返しやっていくことで少しずつ動きの幅が広がるだろう。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?