私たちは適応することができる
シリアンハムスターの変身
シリアンハムスターは寒いと体をブルブルとふるわせる。人間も同じだが、なぜブルブルとふるえるのだろう。
結論から言えば、これは熱を生み出すためだ。
体が冷えてしまうと命が危うい。体温を維持しなければならないので体内で熱を作ろうとする。
熱を作る装置は筋肉。筋肉を使うと熱が発生する。
運動すると体がじんわり暖かくなる感覚があると思う。筋肉によって熱が発生しているせいだ。
シリアンハムスターも寒冷地では筋肉を小きざみにブルブル動かすことで熱を作ろうとする。
ブルブルふるえているのは、あの小さな体で一生懸命生きようとしている証拠である。
ところがしばらく日数がたつとシリアンハムスターにある変化が起きる。
ブルブルふるえなくなるのだ。
死を覚悟したのか?いや、そうではない。
ふるえなくても熱を作ることに成功したためだ。
つまりシリアンハムスターの中で何かが起こっている。いったいなんだろうか?
この時、シリアンハムスターの体内では筋肉以外に熱を生み出す新たな装置を出現させている。
この装置はベージュ細胞と呼ばれる。
ベージュ細胞が出現したおかげでふるえて熱を作る必要がなくなった。シリアンハムスターの体は寒い環境に合わせて変身したのだ。
適応とは
このように環境に合わせて体質を変身させることを適応(アダプテーション)と言う。
適応という能力は生命にとって重要な意味を持っている。変化する環境では適応できるものが有利だからだ。
環境が変わるということは、今までと違ったストレスがかかるようになるということ。今までストレスAだったのに、明日からストレスBがやってくるということだ。
ストレスBとお付き合いできなければ自然に淘汰されるだろう。しかし適応に成功してお付き合い可能となれば生き残ることができる。
シリアンハムスターはベージュ細胞を発生させることで寒さというストレスとお付き合い可能になった。
また夏になるとベージュ細胞を消すことで熱中症を避けられる。暑さにも適応しているようだ。
冬にも夏にも適応できるからこそ生存できる。
もちろん全ての環境に適応できるわけではない。シリアンハムスターがいくらベージュ細胞を発現させてもマイナス50℃の環境はかなわない。
適応できる幅があり、それは個体によって差がある。
生命誕生から今まで、適応できる生物が有利に繁殖できた。
生存環境は一定ではなく、必ず変化が起きる。私たち人類の先祖も災害、異常気象、飢饉、疫病、戦争など激動の環境変化と共に生き延びてきた。
このような環境に適応できた人達が生き残る、そして子孫を残す。その子孫も環境に適応できた人だけが生き残って子孫を残す、ということを何万世代も繰り返している。
だから人間に限らないが、今いる生き物は適応能力が高いと言える。
そうでなければもうとっくに自然淘汰されているはずだから。
人間は、自分に合わせて環境を変化させることだけに必死なる傾向がある。しかし環境に合わせて自分を変化させるポテンシャル、つまり適応力をもっている。
冬の空気の冷たさ、陽射しのまぶしさ、あらゆる刺激を五感で受け取って、巧妙に自分をその環境の中に馴染ませていくことができるのだ。
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