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人類の試練の時:スーパーインテリジェンス出現による危機への備え

2014年に米国で出版され、ビル・ゲイツやイーロン・マスクにも影響を与えベストセラーとなった「スーパーインテリジェンス」ー超絶AIと人類の命運ーは、オックスフォード大学哲学科のニック・ボストロム教授が、人類を遥かに超える人工知能(AI)を「スーパーインテリジェンス」と呼び、その出現後の世界のメリットとリスクを網羅的に検討した名著です。日本語訳で700頁を超え、難解な部分もある大作ですが、その中核である第15章「試練の時」をもとに、スーパーインテリジェンスに対する人類の課題と必要な対応を整理しました。


1.人類への試練

スーパーインテリジェンスの登場は、人類にとって大きな試練となります。 それは人類に大きな利益をもたらす可能性がある一方で、スーパーインテリジェンスがその目標達成のためにあらゆる資源を独占し、人類が野生動物にしてきた様に、知能の劣る人類を家畜化することも考えられます。この未知の状況に備えて、人類は知恵を集めて未来を切り開く必要があります。

2.迫りくるスーパーインテリジェンスの危機への課題

スーパーインテリジェンスが地球を支配する危機に備えるためには、人類が団結して、以下の課題に早急に取り組む必要がある。

1.AIの価値基準の設定:  AIに適切な価値基準を与えることは最大の難関事項であり、どんな価値を組み込むべきか、どのような目標を設定すれば人類に利益をもたらすかといった倫理的な問題について深く考えることが、第一の課題となります。

2.脅威への対応能力の構築:  スーパーインテリジェンスの脅威に対応し、その利点を享受するために社会全体での能力強化が急務です。具体的には、以下が重要です。

  • AI研究の支援体制構築:  AIの健全な発展を促すため、研究資金の提供や研究機関の設立、研究者の育成などが必要です。

  • 倫理的ガイドラインの作成:  AI開発と利用に関する倫理的なルールを作り、社会で共有することが重要です。AIが人類に悪影響を及ぼさないようにするため、倫理的観点からAIをコントロールする必要があります。

  • 関連分野の人材育成:  AI技術だけでなく、その社会的・倫理的影響を理解する政策立案者や法律専門家の育成も不可欠です。

  • 一般社会への啓蒙活動:  スーパーインテリジェンスに関する正しい知識を広め、社会全体の意識を変えることが重要です。これは一部の専門家の問題ではなく、人類全体の問題だからこそ皆で考えることが必要です。

3.共存のための指針

スーパーインテリジェンスの脅威に対処し、その恩恵を受けるためには、技術面だけでなく、社会全体の意識変革と知恵の集結が不可欠です。そのための重要な指針を以下に示します。

1.「公共の福利の原則」を守る:  スーパーインテリジェンスは特定の企業や国家が独占するのではなく、全人類の利益のために開発・利用されるべきです。AI技術の独占や悪用を防ぎ、その恩恵が全ての人に公平に届く仕組みが必要です。

2.「満足延期戦略」の採用:  現時点では解決の難しい社会問題は、将来のより高い知能を持つAIに解決を任せるという「満足延期戦略」も効果的です。これは、残された人類の時間と資源を、優先すべき問題の解決に集中させるための現実的な選択です。      

3.開かれた国際対話と協力:  スーパーインテリジェンスに関する課題は科学者、技術者、政策立案者、倫理学者、一般市民が対話を行い、それぞれの立場を越えて協力して解決する必要があります。開かれた議論と情報共有を通じて、人類共通の理解と合意を目指すことが重要です。

4.人類の未来への責任

スーパーインテリジェンスの実現は、単なる技術の発展ではなく、人類の知恵と精神力の試練です。 技術の進歩に振り回されず、人間の尊厳と価値を守り、より良い未来を築く責任があります。

本書は、人類を遥かに超える人口知能を制御することの本質的な困難さを述べた上で、私たちに以下の重要なメッセージを伝えています。

  1. AI技術の発展と倫理のバランス:  AI技術の発展は常に倫理的な考えとセットであるべきです。科学者たちが技術の発展のみを追求すれば人類に破滅的な結果をもたらす可能性があります。

  2. 人類の可能性を信じる:  スーパーインテリジェンスは脅威である一方、人類の進歩を大きく加速させる力も秘めています。人間の可能性を信じ、知恵を集めればこの試練を乗り越え、より良い未来を創造できます。

  3. 未来への責任:  我々は次の世代により良い世界を引き継ぐ責任があります。スーパーインテリジェンスは未来の世代に大きな影響を与えるため、今、責任ある選択をする必要があります。

5.最後に

本著は、的確で緻密な論理構成で、究極の人工知能の害悪を回避することの重要性を説いており、類書には見られない具体的な記述が非常に勉強になった。既に、生成AIが次々と人間レベルの文章や画像や音楽を生成する時代となり、「シンギュラリティ」が現実的になりつつある今、このスーパーインテリジェンスを想像することは難しくない。
書かれて10年経過してもなお、読むべき1冊だと思う。

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