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五億円がもたらした運命の転機 6話


第6話「破産の序章」


Yの五億円がもたらした華やかな生活は、時間とともに確実に崩れ始めていた。数ヶ月間、彼は高級マンションでの贅沢な暮らしを続け、無尽蔵に見えた資産に頼りきっていたが、気づけばその大金は少しずつ目減りしていた。友人との関係が崩壊し、信じられる者も失い、彼は孤独と不安の中で金銭を消費することでしか心を慰められなくなっていた。

Yは最初こそ「大金があるから」と支出に無頓着だった。しかし、そのうちに贅沢な暮らしは「当然」となり、さらに「もっと満たされたい」と願うようになった。高級品を購入し続け、夜な夜なクラブで散財し、最初は爽快感を感じていたが、次第にそれすらも虚しさで満たされていった。

「これで、あとどれだけ持つんだ…?」
Yは久しぶりに口座の残高を確認した。数字は確実に減少しており、かつての安定した資産にはすでに陰りが見えていた。焦りと不安がYの心を押しつぶしていく。「五億円もあったはずなのに…どうして?」と自問しても、答えは見つからなかった。

その時、彼のスマートフォンに一通のメッセージが届いた。メッセージを送ってきたのはSだった。彼とはすでに疎遠になっていたが、何かの要件で再び連絡してきたのだろう。Sのメッセージには「もう一度会って話がしたい」とだけ書かれていた。Yは一瞬迷ったが、破産の危機が現実味を帯びる中で、Sの提案が気になり、彼の誘いに応じることにした。

数日後、Yは高級レストランの個室でSと再会した。Sは満面の笑みでYを迎え、「また昔のように一緒にやろうぜ」と話しかけてきた。Sの言葉は親しげで魅力的に響いたが、Yの心にはまだ不信感が残っていた。

「お前、本当に俺のために動いてくれてるのか?」と、Yは慎重に問いかけた。
Sは、真剣な表情で「もちろんだ。お前が苦しい時こそ助け合うのが友達だろ?」と返してきた。その言葉に一瞬ほっとしたが、Yはすぐに疑念が蘇った。彼は再び心を硬く閉ざそうとしたが、資産が減少していく焦りと不安が彼の決断力を鈍らせた。

Sはビジネスプランを改めて提示し、「今回こそ大きなリターンを約束する」と強調した。Yは心の中で葛藤しつつも、追い詰められた状況から逃れるため、そして再び裕福な暮らしを取り戻すために、Sの話にかける決断を下した。

「分かった。もう一度だけ信じてみるよ」
そう言ってYはSに一部の資金を預け、彼が提案したビジネスに出資することを決めた。Yの心には「これでまた状況が好転するはずだ」という淡い期待が生まれたが、その裏には「もしこれが失敗したら…」という不安もつきまとっていた。

投資から数週間が経ち、Yは結果を待ちわびていた。しかし、Sからの連絡はなかなか来ず、Yは次第に苛立ちを感じ始めた。何度か電話をかけても応答がなく、メッセージにも返信がなかった。心の中で警鐘が鳴り響く中、Yは急いでSの事務所を訪れたが、そこはもぬけの殻だった。

呆然と立ち尽くすYの頭の中には、あの疑念が再び浮かんでいた。「やはり、裏切られたのか…」と。彼の投資は、五億円の残りを大きく減らす決定打となり、今や彼は破産への道をまっしぐらに進んでいた。

その瞬間、Yは自分の選択が大きな過ちだったことを痛感した。しかし、もう後戻りはできない。財産を失い、信じていたはずの人々にも裏切られたYは、これまで築き上げたすべてを崩壊させる結果となったのだ。

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