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五億円がもたらした運命の転機 3話


第3話「疑心暗鬼の芽生え」


Yの生活は、五億円を手にしてから、完全に変貌を遂げた。新しいマンションでの豪華な生活、贅沢な出費、そして夜な夜な通う高級クラブ。そこでは自分を「成功者」として認識し、自信に満ちた態度で過ごしていた。

しかし、その生活が続くにつれ、Yの心には少しずつ暗い影が差し始めていた。かつての仲間や友人たちに対する見方が変わり始めていたのだ。彼は、何かにつけて自分の周囲の人々が五億円を狙っているのではないかという疑念を抱くようになった。

ある日、KがYのマンションを訪れた。いつも通り軽いノリで話しかけてくるKだったが、Yの心にはある種の違和感が芽生えていた。Kの視線が、彼の高級時計や贅沢なインテリアに向けられるたび、Yは心の中で不安を抱き始めた。

「Kは、俺の金に興味があるのかもしれない…」
心の中で疑念がふつふつと湧き上がる。Kはただの友人で、Yのことを心配しているのかもしれない。しかし、Yはその疑念を払拭することができなかった。

Kが帰った後も、Yの心は重苦しい不安に包まれていた。彼は高級なシャンパンを開け、グラスに注いでみたが、その泡立ちさえも彼の不安を紛らわすことはできなかった。豪華な生活がもたらす安心感や満足感は、五億円という大金に対する恐れや不安に飲み込まれ始めていたのだ。

それから数日後、Yは新しい友人であるSに誘われてクラブへと向かった。SはYが五億円を持っていることを知っている数少ない人間の一人で、Yにとっては数少ない信頼できる相手のように思えた。Sは派手な服装と人懐っこい笑顔でYをもてなしてくれ、Yは彼との時間に一時の安らぎを感じていた。

しかし、その夜もまた、Yの心には新たな疑念が芽生えた。Sが「もっと楽しいことしようぜ」と持ちかけてきたビジネスの話だった。Sは新しい事業への投資を持ちかけてきたのだが、その額は決して少なくない。Yは、Sの真剣な表情と共に提示された計画書に一瞬惹かれたが、同時に何かが引っかかった。

「本当に信頼できるのか…?」
Sの言葉は真実なのか、あるいはYの財産を目当てにしているだけなのか。その疑念が一度芽生えると、Yの心からはその不安が離れなくなった。豪華なクラブで楽しむはずの夜も、Yの心は別の闇に飲み込まれていった。

その夜、Yはいつものように眠りにつこうとベッドに横たわったが、頭の中にはさまざまな思いが駆け巡った。五億円という大金が彼の周囲の人々の目を変えてしまったのではないか。そして、彼がかつて信頼していた人々もまた、彼の金を狙っているのではないかという疑念が次第に膨らんでいった。

眠れないまま夜が更け、Yは部屋の窓から外を見つめた。かつては美しく感じた都会の夜景も、今やどこか薄暗く、孤独を感じさせるものになっていた。

「この金を手にしてから、俺は一体どうなってしまったんだ…」
五億円がもたらしたのは、想像以上の贅沢な生活であると同時に、心の奥底に潜む疑心暗鬼の芽でもあった。Yはその夜、初めて「金を手に入れたことで失ったもの」があるのだと感じ始めていたのだ。

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