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今日の三題噺:第十六夜「インスタ映え」「LUUP」「湯たんぽ」
1️⃣
東京郊外のとある街。冬の空は澄んでいるが、冷たい北風が頬を刺すようだった。大学生の理央と友人の健介は、ふらりと出かけた街中で、新しい「インスタ映えスポット」を探していた。
「さすがに今時、『インスタ映え』とかダサいかな?」
「いや、そんなことないよ。まだまだみんなやってるし、いい場所見つけたらリール回してみようぜ。」
そんな会話を交わしながら歩いていると、小さな公園の隅にある噴水が目に留まった。冬の日差しが噴水の水に反射してキラキラ輝いている。
「おお、これ意外といいじゃん!」
「確かに……ちょっとスマホ貸して。俺が撮るから。」
健介がしゃがみ込んで理央を撮ろうとしたその時、ふいに滑って雪混じりの地面に尻もちをついた。
「あっぶね!って、冷たっ!なんだよここ、危ないじゃん!」
「ははは、お前、全然映えないって。」
二人は顔を見合わせて笑った。
2️⃣
公園を出た後、二人はその辺りをぶらぶらしていると、「LUUP」のポートを見つけた。電動キックボードのレンタルサービスで、最近は東京のいろいろな街で見かけるようになっている。
「これ乗ってみたくね?LUUP、最近よく見るけど、まだ試したことないんだよな。」
「でもさ、免許いるんじゃなかったっけ?」
「原付と同じ扱いだけど、俺、ちゃんと持ってるし平気だろ。」
早速アプリをダウンロードして、二人でLUUPを借りた。健介が先に乗り、慣れた様子で街中を滑走していく。
「おいおい、結構速いじゃん!」
「やばい、これ楽しいぞ!お前も乗ってみろよ!」
理央も試してみたが、スピードに慣れず、数メートルで横道の植え込みに突っ込んでしまった。
「いてっ……やっぱこれ、都会っぽくて俺らには似合わねえな。」
「そうかもな。やっぱ田舎育ちにはチャリが一番だわ。」
二人は大笑いしながらLUUPを返却した。
3️⃣
散歩を終えた二人は、街中の商店街にある古びた雑貨屋に立ち寄った。店内は冬らしく湯たんぽやこたつ用のブランケットが並んでいる。
「懐かしいな、湯たんぽなんて。ばあちゃんちで使ってたわ。」
「俺んちも。冬になると布団の中に入っててさ、冷えた足で触るとめっちゃあったかいんだよな。」
理央は何気なく棚から湯たんぽを手に取り、健介を振り返った。
「今、こういうの使う奴いるのかな?」
「いや、案外アリなんじゃね?エコだし、こういう昭和レトロっぽいのって映えるだろ。」
思い立ったように、理央は湯たんぽを一つ買った。
「家帰ったら写真撮って、これで一杯いいね稼いでやるよ。」
「湯たんぽでかよ!でもお前、意外とウケるかもな。」
雑貨屋を出た二人は、冬の夕方の澄んだ空気を吸いながら、地元の商店街を抜けて帰路についた。
4️⃣
4️⃣
その夜、理央は湯たんぽを布団に入れて眠った。ひんやり冷たい足がじんわりと温まる感覚が懐かしく、どこか心が落ち着いた。
翌朝、湯たんぽを撮った写真をインスタにアップしてみると、意外にも友達からの反応が多かった。
「懐かしい!」「こういうのほっこりする!」
そして、コメント欄にはこんな一言も。
「湯たんぽ、普通に今も使ってるけど?」
理央はそれを見て思わず吹き出した。
「映えとかじゃなくて、結局みんなあったかいのが好きってことかよ。」
冬の朝の陽ざしが差し込む部屋の中、理央は湯たんぽを抱えながら、久々に心まで温まったような気がした。
―おしまい。―
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