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今日の三題噺:第三夜「記者会見」「神戸」「デビット・リンチ」

1️⃣
神戸の旧居留地にある歴史あるホールで、映画監督デビッド・リンチが新作『ミステリアス・ハーバー』の記者会見を開催した。この映画は、神戸を舞台にしたサイコスリラーで、夢と現実の曖昧さを描いたもの。会場には国内外の記者が詰めかけ、リンチ監督が登壇すると、一斉にカメラのフラッシュがたかれた。

「私は神戸という街に魅了されました。この街は美しさと不穏さが共存しているんです。その魅力が、この映画を作る上での原動力となりました。」
淡々と語るリンチ監督の言葉に記者たちはメモを取り続ける。監督特有の哲学的な言い回しが会場の緊張感を高めていく中、彼はふと付け加えた。
「神戸の夜の港には、何か得体の知れない力を感じます。それは、この映画を支配するテーマにも深く関わっています。」


2️⃣
会見が中盤に差し掛かり、記者の質問タイムが始まった。ある記者が映画のロケ地について質問すると、リンチ監督は神戸港での不思議なエピソードを語り始めた。
「ある夜、港で撮影していた時、突然海から霧が立ち込めたんです。それがあまりに幻想的で、その場にいた全員が声を失いました。でもその霧がなぜか私たちのカメラだけを覆い尽くし、映像に奇妙なノイズが入り込んだんです。」

記者たちは神妙な表情で聞き入る。
「まるで神戸港が、私たちに何かを語りかけていたようでした。」
リンチ監督の言葉は謎めいていて、映画の宣伝の一環なのか、単なる偶然なのか、誰にも分からない。ただ、その場の空気には彼の語る「神戸の不穏さ」が漂っていた。


3️⃣
会見も終盤に入り、映画のテーマについて話が及ぶ中、司会者が「最後に、リンチ監督から一言お願いします」と促した。リンチ監督は少し考え込み、会場を見渡した後、ゆっくりと口を開いた。

「映画を通じて、神戸の美しさと闇を存分に感じてください。そして、もし時間があるなら、神戸港を歩いてみてほしい。」

ここまでは完璧だった。が、その後、なぜか彼は不敵な笑みを浮かべて、こう言い放った。
「ただ…歩きすぎて**“足がコウベる”**ことがないように気をつけてね!」

……会場は完全に静まり返った。記者たちは一瞬「聞き間違いか?」と互いに目を合わせたが、どうやら間違いではないらしい。誰も笑うどころか、反応すらしない。


4️⃣
しらけた空気を察したリンチ監督は少し焦った様子で、慌てて言葉を付け足す。
「あ、いや、これは日本語のジョークでして……ほら、“神戸”と“凍える”をかけてみたんですよ。ほら、港の夜は寒いでしょう? …あ、ダメですね、説明すると余計に寒いですね。すみません。」

その瞬間、場内に漂うのはさらに気まずい空気だった。司会者は苦笑しながら、「それでは、これで記者会見を終了いたします!」と強引に会を締めくくる。


エピローグ
会場を後にしたリンチ監督は、スタッフにこう呟いた。
「僕の映画が“カルト的”だと言われるのは嬉しいけど、ジョークまでカルト扱いされるとは思わなかったよ……。」

スタッフもどう返すべきか分からず、ただ無言で頷くだけだった――。

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ごりんや
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