今日の三題噺:第一夜「ミタゾノ」「貸金庫」「ウルフムーン」
1️⃣
ある夜、家政夫のミタゾノがとある資産家の豪邸に派遣されることになった。その資産家、田辺氏はとても疑り深い性格で、家政婦にまで監視カメラを設置するほどだった。
ミタゾノが掃除をしていると、ふと田辺氏が地下にある貸金庫室に何度も通う姿を目にする。「ここは何の部屋ですか?」と聞くと、田辺氏は「他言無用。大事な家宝が眠っている」と答える。
2️⃣
その晩、ミタゾノは夜空を見上げ、きれいな満月を眺めていた。「今日はウルフムーンというらしいです」と田辺氏に話しかけると、彼は少し動揺した様子で貸金庫室へ急いで行った。
不審に思ったミタゾノは、例の貸金庫を調べることにした。掃除用具に見せかけたピッキング道具で扉を開けると、中には大量の現金、宝石、そして一枚の古い狼の絵が描かれた掛け軸があった。
3️⃣
その瞬間、屋敷中から不気味な狼の遠吠えが響いた。驚いたミタゾノが振り返ると、田辺氏が血相を変えて現れ、「触れてはならん! その掛け軸には呪いがある!」と叫んだ。
聞けば、その掛け軸は代々の田辺家の呪われた家宝で、満月の夜に触れると「家族に災いが降りかかる」という言い伝えがあるらしい。
4️⃣
ミタゾノは冷静にその掛け軸を手に取り、家の外に出ると、焚火を起こして静かに燃やしてしまった。そして言った。
「満月の夜だからといって、物の呪いを信じるのはナンセンス。問題は、その呪いを信じる人の心ですよ」
田辺氏は呆然としながらも、肩の荷が下りたような表情を浮かべた。そして、翌日には貸金庫を閉鎖し、寄付を始めることにしたという。
そして…
だが、その後、どこからともなく狼の遠吠えが聞こえるたびに、田辺氏の寄付額が倍増しているという噂が広がった――「呪い」ではなく、どうやらミタゾノの仕業らしい。
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