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【二次創作】深月縹の猫屋敷【ユキまゆ】
※こちらは「わんだふるぷりきゅあ!」第18話(6/2放送分)までを見た筆者による、二次創作です。
アニメでの数少ない描写やまゆちゃんの普段の言動などから、まだ現時点で言及されていないまゆちゃんの転校前を思い切り捏造しております。というか、主にそれが本編の9割を占めております。そういった捏造設定が苦手な方は、閲覧をお控えください。
ご了承いただけた方は、下記よりどうぞ!
↓↓↓
まゆがどんな女の子かと聞かれたら、私はまず優しいという答えが浮かぶ。
私を拾ってくれた時もそうだった。
一番古い記憶、まだ幼かった私は雪の中にいた。
親やきょうだいの顔なんて覚えていない。
物心ついた頃にはもう家族はいなかったし、ひとりだった。
飼い主らしい人間も記憶にない。
だから、初めは自分が捨てられたという自覚すらなかったと思う。
そんな私を見つけてくれたのが、まゆだった。
雪の中で薄汚れていた私を見つけて、それからずっと一緒にいてくれている。名も無い猫だった私に「ユキ」という名前も与えてくれた。
まゆと一緒にいると、心から安心できた。
そんな人がこの世界にいるなんて、初めて知った。
まゆが抱きしめてくれると、ふんわりといい匂いがして暖かい。
人と触れ合うことが心地よいと感じられる日が来るなんて、思ってもみなかった。
私はまゆのことが大好きだ。心から、そう言える。
まゆが笑うだけで幸せな気分になるし、まゆの為ならなんだって出来る気がする。
……気がする、だけだ。
わかっている。
私は猫で、まゆは人間。猫の私は、あの子の生きている世界には入れない。その証拠に、私はまゆが通っている「学校」には行けないのだ。
学校がどういう場所なのか、詳しくは知らない。だけど人間の子どもはそこへ行って「勉強」というのをしないといけないらしい。まゆだけではなくて、まゆと同じ年頃の子どもたちも同じようにしているそうだ。
そこではみんな同じような服を着て、同じことをする。 勉強だけではなく、友達と遊んだり、部活をしたりすることもあると聞いたけど、行ったことがないからいまいち想像がつかない。
とにかく人間の子どもは、学校で一日の大半を共に過ごすことになるらしい。
まゆも例外ではなく、 一週間のほとんどはその学校に行っている。学校のある日、私がまゆといられる時間は朝の僅かな時間と、夕方と夜だけ。明るい時間は、ほとんど一緒には居られない。
なんて煩わしいんだろうと思うけれど、でも悪い事ばかりではない。
まゆは学校から帰ってくると、その日あった事をなんでも私に話してくれた。
学校で新しく教わったこと、友達のこと。好きな本の話、ちょっとした愚痴とか、色々。
パパやママにも話していない秘密の話も、私にはしてくれる。それを聞いてあげるのが私の役目であり、特権だ。
まゆの話を聞くのは好き。まゆが笑っているのを見ると、私も嬉しくなる。
幸せそうなまゆを見ていると、私も温かい気持ちになる。
この笑顔を守りたい。
私がまゆにしてあげられることは少ない。
だけど、だからこそまゆの為に出来ることは全部したい。
私にとって、世界でたった一人の大切なひと。それがまゆだ。
***
最近、まゆは少し元気が無い。
毎日一緒にいて、何となくわかる。きっと学校で何かがあったのだろう。前はあんなに楽しそうに学校の話をしてくれたのに、ここ数日は何も話してくれない。
溜め息をついたり、上の空だったり、ぼーっとしていたりすることが多くなった。心配だけれど、猫の私には「どうしたの?」と聞くことすら出来ない。
「ユキはいいなぁ。猫は学校に行かなくてもよくて、自由でいいよね……」
どうしてそんなことを言い出すのだろう。前はあんなに、楽しそうに学校に通っていたのに。
友達はどうしたのだろう。前は毎日のように名前を聞いたのに、今はその名前さえ口に出さない。
気になって仕方無いけれど、人の言葉を話すことの出来ない私には「にゃあ」と鳴くことしか出来なかった。
それを嗜められているとでも受け取ったのだろうか。まゆは眉を下げて申し訳なさそうな顔をする。
「ごめんね。ユキだって、わたしが知らないだけできっと色々あるんだよね。猫は自由でいいなんて、言っちゃダメだよね」
ああ、違うのに。そんなこと思ってないのに。
ねえ、まゆ。何があったのか話してよ。力にはなれないかもしれないけれど、それでもまゆの為に私に出来ることがあるなら、何だってしてあげる。
そう思っていたことが伝わったのか、伝わっていないのか。
まゆはポツリと呟くように口を開いた。
「……わたしね、学校でちょっと仲間外れにされちゃって」
仲間外れ?どうして、まゆがそんな事されてるの?
友達は、どうしたの?まゆの事を助けてくれないの?
「ママには内緒にしてね。心配しちゃうから」
内緒も何も、言葉を話せない私にはどうしようもない。そんなこと、まゆだってわかっているはずなのに。
「クラスの子がね、無視したり陰口言ったりしてて……わたし、みんなに嫌われちゃったみたいなんだ」
みんなって、まゆが友達だと思っていた人たちのこと?
理解出来ない、と思った。まゆを嫌うだなんて、信じられない。こんなに優しくて、お人好しで、頑張り屋なのに。
そんなまゆのどこに、嫌いになるところがあるというの。
どうしてまゆに、そんな酷いことが出来るの。
許せないと思うと同時に、ひどく悲しい気持ちになった。
「……こんな話されても困っちゃうよね、ユキ」
困ったりなんかしない。だからもっと、話してほしい。
一人で抱え込まないで。辛いことは分けてほしい。
少しでもいいから頼ってほしい。
ねぇ、まゆ。どうしてあなたがこんな目に遭わないといけないの?そんなに苦しいのなら、学校なんて無理に行かなくても良いじゃない。
人の言葉を話せない自分の口が、心の底からもどかしい。
私は無力だ。猫だから仕方ないのだけれど、その事実に打ちひしがれるしかない自分が悔しくて堪らない。
だけど、今の私が出来る最善のことはまゆの傍にいることだと思ったので、まゆのベッドに潜り込んで瞼を閉じた。
***
まゆが私に仲間外れにされていると打ち明けてから、実際に学校でどんな目に遭っているのかを理解するまでそう時間はかからなかった。
まゆの学校の持ち物が日に日に、不自然にボロボロになっている。
ペンケースは先月新しいものにしたばかりだったはずなのに、赤や黒のインクのようなものが大量に付いて使えない状態にされていた。教科書やノートもところどころが破られたり汚されたり、ひどい有り様だ。
物を大切にするまゆが、自分でこんな風にするはずがない。だから悪意を持っている誰かが、まゆを傷付けるために意図してやっているということはすぐにわかった。
そして、そんな嫌がらせをする人間が少なくとも一人ではないことも、なんとなく察しがついた。
─こんなくだらない奴らのために、まゆが傷付く必要なんて全く無いのに。
腸が煮えくり返りそうなほど、怒りが込み上げてくる。今すぐにでも、まゆを傷付けた奴ら全員の顔面を引っ掻きに行きたい。
だけど猫である私は何も出来ないし、何を言っても伝わらない。ただ、こうしてまゆの傍にいることしかできない。
せめて私と一緒にいる時ぐらい、まゆが嫌なことを忘れていられますようにと願うしかなかった。
***
そんなことがしばらく続いたある日のことだった。
「それじゃあ行ってくるね、ユキ。いい子にしててね」
その日の朝、私はいつものように玄関先までまゆを見送りに行って、まゆに撫でられていた。しかしいつもと様子が違う。
明らかに表情に疲れが滲み出ていて、目の下にも隈が出来ている。声もどこか、弱々しい。
心配になってじっと見上げていると、まゆは私の視線に気付いたのかふわりと笑ってみせた。
「……大丈夫だよ。ちょっと寝不足なだけだから。じゃあ、今度こそ行くね」
そう言って玄関のドアを開けたまゆを見送った後、いつものように二階の部屋の窓から外を覗き込む。
ここから家の前の道路を歩くまゆを見送るのが私の日課だった。
仲間外れにされていると私に打ち明けてからも、まゆは学校に行く時に笑顔で挨拶してくれたし、その後はちゃんと学校に向かって歩いていた。
(……本当は、行きたくないんでしょう?)
友達だと思っていた人から無視されて。持ち物まで壊されて。
そんな酷い目に遭っているのに、どうしてまだ行こうとするんだろう。
ママに心配をかけたくないから?それとも、今日こそは友達「だった」人たちと仲直り出来ると信じているのだろうか。
ひょっとすると、両方なのかもしれない。
だけどそれは本当に、まゆがこんなに傷付きながらやらないといけないことなのだろうか。
そんなことを考えながら窓の外を眺めて一分ほど。違和感に気付いた。
いつまで経っても、まゆの姿が現れない。
いつもなら学校の方向に向かって歩く紺色の制服を着たまゆが見えるはずなのに。
角を曲がる前に家を振り返って、私に手を振ってくれるのに。
(まゆ……?)
胸騒ぎがして、窓をこじ開けて屋根伝いに下に降りる。
そして─玄関先で小さく蹲るまゆを見つけた。
『まゆ!?ねぇまゆ、どうしたの?大丈夫?!』
きっとまゆには、私が「にゃあにゃあ」と何か騒ぎ立てているようにしか聞こえていないだろう。だけどそんなことはどうでも良かった。
「っ、……、うぅ……」
苦しそうに呻くまゆの顔は真っ青で、額に汗の玉がいくつも浮かんでいる。風邪を引いて熱が出た時とも、少し違う。お腹が痛いのだろうか。背中を丸めて、両手でお腹を押さえながら、苦痛をやり過ごそうとしているように見えた。
「ゆき……ごめん、ね……わた、し……がっこう、いかなきゃ……」
冗談じゃない。そんな死にそうな声で、この期に及んで何を言っているの。
「いかなきゃ……、だめ、なのに……うごけなく、なっちゃった……」
「なんで……かな。わたし、がんばってたつもり、なんだけど……うまく、いかなくて……」
そんなことない、まゆは十分頑張っている。
誰よりも頑張っているのに。
「どう……しよう、ユキ…………」
青白い顔のまま、まゆの瞳がじわりと滲んでいくのが見えた。ぽた、と頭上から降ってきた水滴がまゆの涙だと気付いた瞬間、心臓がぎゅっと締め付けられる。
「い、いかな、きゃ……」
自分を奮い立たせるようにそう言って、まゆはふらふらと立ち上がる。だけどすぐに、お腹を押さえながら再びその場にしゃがみ込んでしまった。
私がもし、まゆと同じ人間の女の子だったら。
まゆのように長い手足と背丈があったら。
まゆと同じように話すことが出来たら。
そしたら、まゆのことを助けてあげられるのに。
そんな叶うはずもない幻想を胸に押し込めて、私は玄関の方を向いて息を吸う。
今の時間、ママは空気を入れ替えるために窓を開けていたはずだ。ならきっと、気付いてもらえるだろう。
迫真の力を込めて、私は大きな鳴き声を上げた。
「ゆ……ユキ……?」
苦しそうなまゆが、驚いたようにこちらを見たのがわかった。無理もない。私は普段、こんな風に鳴いたりしないのだから。
もう一度、大きく鳴いてみせる。
お願い。ママ、誰か、誰でもいいから気付いて。
まゆを助けて。
この家だけじゃなく、近隣一帯にも響きそうな大きな声で何度か鳴き叫ぶと、家の中からバタバタと足音が聞こえてきた。
「ユキ、どうしたの? そんなに鳴いて……まゆ?」
玄関のドアを開けたママはすぐに、私の側で蹲って苦しんでいるまゆに気付いて駆け寄った。
「まゆ、大丈夫?どこか痛むの?」
ママはまゆの側にしゃがみ込んで、背中をさすって声をかけながら様子を確認する。まゆもママが来たことに安心したのか、緊張の糸が切れたようにママの方に体を預けて、小さな子のようにしゃくり上げながら泣き出した。
それからややあって、まゆはママに支えられながら何とか立ち上がり、そのまま家の中へ戻った。
当然、その日まゆが学校へ行くことはなかった。
***
それからまゆは、ずっと学校を休んでいる。
週末以外にまゆが一日中家にいてずっと一緒にいられるのは嬉しい……と言いたいところだけど、正直言って複雑だった。
猫は学校に行かなくても良くていいな、なんてこぼしていたのに、学校を休んでいるまゆは決して嬉しそうではなかった。
あの後ママに連れられて病院に行ったまゆは、お腹が痛くなったのはストレスのせいで、しばらく安静にすれば治るとお医者さんに言われたらしい。実際二、三日間はベッドで寝て過ごしていたけれど、今ではいつもと同じ時間に起きて、お休みの日と同じ様な過ごし方が出来るようにまで回復していた。
起きている間は私と遊んだり、勉強をしたり。時折何か思いついたようにミシンに向かって縫い物をしたりすることもあった。
まゆは物作りが得意だ。私が首につけているチャームも、まゆが手作りした「作品」のひとつ。元々手先が器用なのだろうけれど、それに加えて努力家で真面目な性格だからどんどん上達していくのがわかる。まゆ自身も何かを作ることが大好きなのだろう。
そんな好きなことをしていても、前のように楽しそうには見えなかった。ご飯もまだたくさんは食べられていないようだし、夜も時折魘されて目を覚ましている。
「はぁ………」
溜め息の回数も、まだまだ多い。
学校に行っていないのだから、まゆが傷付くような出来事が起こることはないはずなのに。
ママだって、まゆが学校に行けないことを責めたりしていない。あれから結局ママもまゆが学校でどんな目に遭ったのかを知ったようで、まゆには「無理に行かなくていいのよ」と言っていた。まゆは真面目だから、体調が良くなったのに学校に行かないのはずる休みをしているような気分なのかもしれない。
ミシンに向かいながらカラフルな布を縫い合わせているまゆをぼんやり眺めていると、不意にドアのノック音が鳴った。ママだ。
まゆはミシンの音で気付いていないようなので、足に軽めの猫パンチをして注意を引く。手を止めたまゆはようやくママに呼ばれていることに気付き、ドアの方を振り返った。
「まゆ、ちょっとだけいいかしら。大事なお話があるの」
大事なお話、と聞いてまゆの顔が強張ったように見えた。
もしかして、学校を休んでいることについて怒られると思ったのだろうか。だけどママだって、まゆが学校で嫌な思いをしたことは知ってるはずだ。今になってそんなことで怒るとは思えないのだけど……。
「う、うん! 今行くね、ママ」
まゆはミシンの電源を落として椅子から立ち上がり、部屋を出て行った。私もその後に続く。リビングではママとまゆが向かい合って座っていたので、私は二人の足元で待機することにした。
「あのね、まゆ」
話を切り出そうとするママの前で、まゆは小さく縮こまって俯いてしまっている。まるで悪いことをした子どもみたいだと思っていると、ママはこほんと咳払いをして口を開いた。
「ママがやってる、コスメのネットショップあるでしょう?」
「……え? う、うん。『Pretty Holic』だよね?」
……どうやら、全くまゆの想像していた話とは違ったらしい。
突然始まった話にまゆが戸惑いながらも答えると、ママは笑顔で頷いた。
「そう。実は今度、ネットショップだけじゃなくてね。Pretty Holicの実店舗を出そうと思っているの」
「それって、ママのお店が建つってこと!?」
思わず顔を上げて身を乗り出すようにして声を上げるまゆに、ママはニコニコしながら再び頷く。
「そうよ!だけど、ひとつ相談しないといけないことがあって……」
そう言ってママは、まゆの前に何枚か紙を出す。何が書いてあるのかはよくわからないけれど、色んな図形や写真が載っていた。
「ママが考えていた条件にぴったりな物件があったんだけど、ここからは少し遠いの。アニマルタウンっていうところなんだけど……」
ああ、なるほど。ママの大事な話の本題はここか、と私は納得する。
アニマルタウンは名前だけなら聞いたことがある。
ここからだと、車でもかなりの距離を移動しなくてはならない場所にある町だったはずだ。仕事で立ち寄ったことがあるらしいパパが、以前そんな話をしていた。
「アニマルタウン……」
「もしここにお店を出すのであれば、この家から引っ越さないといけないの。まゆも、転校することになるんだけど…… 」
「行こう」
ママが全て説明し終えないうちに、まゆは即答した。驚いているママに向かって、まゆは続ける。
「わたしなら大丈夫だよ、パパもきっと賛成してくれるはず」
「……でもまゆ、本当にいいの? 確かにあんなことがあった後だけど、お友達とか……」
「い、いいの!わたしが、行きたいの!!それにママ、ずっとお店持つのが夢だったんでしょう?わたしもお手伝いするから!だから……!!」
必死に訴えかけるまゆに、ママは少し考え込んだ後、ふっと表情を和らげた。
「……わかったわ。それじゃあパパにも相談して、ちゃんとした引っ越しの日程が決まったら教えるわね」
「うんっ!」
まゆの表情がぱぁっと明るくなるのを見て、ママも安心したように微笑む。
久しぶりに、まゆが嬉しそうにしているところを見た。
***
「ユキ、ママすごいよね。自分のお店が出来るなんて」
話が決まってからはとんとん拍子に支度が始まり、今ではまゆの部屋はダンボール箱だらけになっていた。猫の私は引っ越しの荷造りを手伝うことも出来ないので、まゆが部屋の私物を箱詰めしていく側を邪魔しないようにうろちょろするだけ。
そんな中でも、まゆはずっと上機嫌だった。引っ越しの準備自体は面倒臭いし大変だと思うのだけれど、それ以上にこれからの生活への期待の方が大きいのだろう。数日前までの暗く沈んだまゆの姿は、もうどこにもなかった。
「アニマルタウンってどんなところなんだろう。新しい友達とか………」
友達、と言う言葉を口にした途端。ぴたり、と荷物を箱詰めしていたまゆの手が止まり、表情が曇っていく。
「ねぇ、ユキ……わたし、また友達作れると思う?」
不安そうな声で問いかけてくるまゆは、まだ学校で負った傷を完全には癒せていない。
それでも、まゆはここに閉じ籠るのではなく、新しい場所へ進む方を選んだ。諦めるでも、辞めるでもなく。
自分を傷付けてきた奴らのことを悪く言うことさえ、一度も無かった。
まゆは優しい。優し過ぎる。
優しくて、傷付きやすくて、繊細な女の子だ。
だけど私は知っている。まゆが誰よりも強い子なのだと。
その強さは人を傷付けるためではなく、誰かに寄り添うためにあるのだということを。
だって、私もそんなまゆの優しさと強さに救われて今ここにいるのだから。
『大丈夫よ、何も心配することはないわ』
そんな意味を込めてにゃあ、と鳴く。
まゆには私が何と言ったのかはわからないだろうけど、肯定の返事だということはわかってもらえたらしい。
「ありがとう、ユキ。わたし、がんばるね」
まゆは私を抱き上げると、私の腹部に顔を埋めてぐりぐりと押し付けてきた。それから深呼吸をするように、すぅ、はぁと深く息を吸って吐くことを繰り返す。
私にはよくわからないけれど、まゆはこうして私の匂いを嗅ぐと落ち着くのだという。くすぐったいけれど我慢していると、しばらくして満足したのかそっと床に下ろされた。
─ねぇ、まゆ。もしあなたが私の本当の気持ちを知ったら、がっかりするかしら。
本当はね、まゆに人間の友達なんて出来なくてもいいと思っているの。
人間の友達がいなくても、私がいるからいいじゃないって。
だけど、それがまゆのためにはならないことも、わかっている。
人間は人間と関わりながら生きていかないといけないし、それに何よりもまゆ自身が、友達を作ることを望んでいる。
それでももし、あなたが友達を作ることが出来なかったら。
あなたがまた、友達のせいで傷付くことがあったら。
『私が、あなたを守る』
「ん? なあに、ユキ?」
不思議そうに首を傾げるまゆに何でもないと言う代わりに、足に頭を擦り付ける。
私が甘えていると思ったらしいまゆは、柔らかい手で私の頭を撫でた。