『天国先輩』

 はやく
 先輩にキスするには もう、限られた時間しか残されていないのだ。「元の姿」でも自分を大切にしてくれるとそう伝えてくれた、あの先輩の元へ。
 変身が解けたら戻ってしまうのだ...あの姿に

 私は、全てが手遅れに…先輩に本当の気持ちをつたえられなくなる前に、がむしゃらに廊下を走りながら、先輩の事を思い出していた。
先輩はいつも飄々としている。私がもう会えなくなるって言った時も、へぇ、とだけ一言。それ以外何も言わずに、ただ夕暮れに染る川を見ているだけだった。そんな先輩に伝えなければいけない。私が先輩のことを…
「私は、先 輩のコ とg AA...?!」
もう言葉を紡ぐことすら危うい。先輩は吹きだして 私を慰めた。先輩はどうして優しいの。一日で先輩に出来たことなんて、忘れ物を届けて 苛立った教師から遠ざけて
「そして、ちゃんとここに来てくれた。」
先輩はニコリとわらう。
「あ…」
ざらざらと視界が揺らぐ。
白く痩せた腕。無数の管に繋がれ、「死」に侵された先輩が、そこにいた。
「迎えに、来てくれたんだろ?」
私は零れた涙を吹き、先輩の手を握る。
「迎えに来ました、先輩」
心音は静かになり病室にはピーピーという音だけが響き渡った。自分の愚かさに嫌気がさし、そんな自分を肯定した。

 かさり と手元に紙の感触がした。先輩の文字が書かれている 読む。文字が滲む。読む。最後まで。 屋上に出た私は 涙も雨もわからないくらい長い間そこに立っていた。ついにガタン!と音を立てて私の身体は濡れてひしゃげたアスファルトに落ちる。
 蹲り、泣きじゃくるほど、先輩の手紙と私の体は、「本来あるべき場所」へと、雨に溶けていった。

ここは屋上。
雨上がりの水たまりには、天使の羽が散らばるばかり。



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作者 少年/人外/ケイマ
使用ツール:オンラインじゃれ本
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