『事故物件甘納豆』

 その、懐かしい香りに誘い込まれて路地裏に足を踏み入れる。踏まれることもなくゆるゆると育った雑草たち、時間の止まったような風景。砂利を靴が噛む音。
 暗い道で目があった。その相手は私の祖母であった。祖母は私を見つけるなり口をパクパクと開いた。パクパク…金魚やんけ…草と思っていると祖母はこちらに向かって甘納豆を投げてきた。は?なんで?マジ?訳わかんねぇー…甘納豆が好きだったっけ、と記憶の引き出しをひっくり返したが、祖母が甘納豆を食べていた記憶はない。
 祖母とは違い、実体を持つ甘納豆を恐る恐る拾いあげる。なんの変哲もない甘納豆、かと思いきや、よく見てみるとそれは、甘納豆の形にカッティングされた【祖母の親指】だった。
 なぜ祖母の親指と分かったのかだって?
 あの日、空から降ってきた大量の甘納豆に押しつぶされた祖母の親指には、甘納豆大のホクロがあったのさ。嫌いな嫌いな祖母が 最後にゃ指だけになって自分の下にいる 最高の気分だったさ。
「さてと….」
下ごしらえを淡々と進める。もはや”甘納豆”だからな。煮た豆にあえて丁寧に潰し酒をかけて30分放置する。
 そして俺が産まれたって訳。
そう何を隠そうそれこそが甘納豆の王、大甘納豆王なのだ。アイツ、祖母がいなくなって俺はこの政権をやっとのことで手に入れた。
これから行う、俺の政治は…この独裁政権で世界一の甘納豆を作る。
至高の甘納豆を追い求め続ける限り、怨霊となった祖母の霊は消えないだろう。
 全ての記憶を取り戻した俺は事故物件の怨霊と化した祖母を嘲笑した。

なぁバアさん。アンタが愛した孫って奴は
俺はしけた四畳半の隅で甘納豆を捏ね始めた。
甘納豆はねちねちと粘着質に蠢いている。
ここは事故物件「甘納豆」。
俺とばあちゃんだけの部屋。




作者 ばちんこ/少年/人外/ケイマ

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