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【掌編小説】コンビ、潜る

 この国での主な収入源は『発掘』だ。
 対象は高価な石や古代の遺跡等々。掘り当てれば 大きいが、外せば収入はゼロ。発掘の腕により貧富に激しく差が開く、そんな国だ。

 業者のやり方は、大きく二つに分けられている。
 ひとつは対象物の埋まっている場所を推測し、そのポイントに向かって正面にドリルの付いたマシーンに乗り発掘する方法。もうひとつは闇雲に地面を掘り漁る素人のやり方だ。

 俺のやり方はこの二つのどちらにも属さない。
 対象物の埋まっている地中の深さを推測 し、その地点まで掘ったら、横移動で周辺を発掘する。こっちの方法だと、対象とは違う 他の宝を掘り当てることも出来るし、何より宝の埋まっていた周辺を探ることで、かつて その地点にどんな文化があったかを知ることも出来る。俺にとって、一番のやりがいはそ の太古文明の調査だ。
 特殊な発掘法を目の当たりにした誰かが、まるで地中を蠢くミミズのようだ、なんて喩えたもんだから、同業者から俺は「ミミズ」と呼ばれるようになった。悪い気はしないね。

 効率のいい俺のやり方を誰もマネしようとはしない。いや、マネすることができないのさ。
 他の発掘家は、地中で真横に平行移動できるマシーンを所持していない。その画期的な機能を持ったマシーンを作ることが出来るのは、俺の相方である『モグラ』だけだ。

 無論、モグラという名前は本名ではない。
 本名、シャチ夫。最近、名誉棄損で名付け親を起訴したらしい。ちなみに今年で三十九歳。 俺は三十八なのだが、たった一つの歳の差をやけに誇ってくる。癪ではあるが、実際に機械知識の博学さは俺の遥か上を行くから、黙ってやってるよ。知識だけではない。発掘の情報収集やマシーンの整備、発明のアイデアから技術、万能なモグラにはあらゆる点で世話になっている。
 モグラのメンテナンスのお陰で、生涯の半分余り土を掘っては出るを繰り返してきたが、全マシーン、動きの衰えるところを知らない。
 モグラのマシーンの整備は俺の担当だが、モグラのスピードとに比べたらが敵やしないよ。そんな俺のとろさを「丁寧」という言葉で解し、完了を待ってくれるモグラの心遣いこそが、コンビを長続きさせている理由なのかもしれないな。

 潜ってから具体的にどのくらいの日数が経過しているかは、本来であればわからない。
 日光や月明かりの差し込むことのない地中では昼夜の実感がなく、時計があったとしても体内時計が狂ってしまうんだ。
 そこで、時間経過の目安としているのがオドメーター(走行距離計)だ。基本的に一定速度で掘り進むため、進んだ距離から経過時間を汲み取ることが出来る。
 それに並んで、俺たちの仕事を捗らせるために必要不可欠なのがバロメーター(気圧計)。 地中の気圧により、どこまで深く掘ったかが一目でわかる。

 今日もモグラが調査した宝までの距離、深さに従ってマシーンを運転する。
 現在、オドメーターから、地中に潜ってから四日分掘り進んだと推測できる。そろそろ古代都市の財宝の在り処に着く頃。
 バロメーターを見て、気圧を確認。モグラの言っていた深さだ。 マシーンを一時停止させて、前方のドリルを機体の中に戻す。 同時に側面からドリルを 回転させながら起動させ、横移動の体勢に変える。

 財宝は目と鼻の先である。表情が緩みっぱなしだが、このマシーンにいるのは俺ひとり。気兼ねなどする必要はない。頭の中で膨らむ夢に表情を任せて、俺はマシーンを平行に発進させた。

 この国での主な収入源は『発掘』だ。
 対象は高価な石や古代の遺跡等々、掘り当てれば 大きいが、外せば収入はゼロ。
 しかし、僕らのコンビは金銭目当てで発掘をしているわけではない。僕らが地中に求めるものは冒険心とロマンだった。

 相棒のミミズに古代都市財宝の情報を持って行った時、あいつは財宝に食い付いた。僕が謎多き文明の歴史を調査できる機会だと提示した古代都市ではなく、だ。
 僕がミミズと組んだのは、もう生涯の半分余り前。一攫千金に魅せられて発掘をしている奴らばかりの中で、好奇心だけで土に潜っていたミミズに発掘の真髄を見たからだ。
 それがどうだ。今のミミズの目には財宝しか映っていない。金だ。金なのだ。
 しかし、もうあいつとのコンビは今日を以て解消となる。 ミミズのマシーンの整備時、アドメーターとバロメーターの測定速度を二分の一になるようにいじった。あいつは今頃、四日分進んだと思っているはずだ。地上では八日経っているというのに。
 その深さでは、いくら探っても財宝はないだろうし、それを理解した頃には、予定よりも二倍進んだ地中から地上に帰って来れるほどの食料も燃料もないだろう。

 これが年上の頭脳だ、ミミズ。 僕はこれからその財宝を掘りに行く。
 財宝を売った金で、お前の立派な墓を建ててやろう。今までロマンを見せてくれた、せめてもの礼として。

 もう随分財宝を探っているが、土ばかりだ。
 ああ、方向性の違いの果てがこれか。
 でも、やっぱり俺達最高のコンビだよ。裏切るタイミングまで同じコンビなんてなかな かいないぜ?
 お前のマシーンのメーター、ちょっとばかり目盛りをいじらせてもらった。モグラの言うとおり、丁寧な仕事だろ。
 人騙して死ぬんだから、お互い、行き着くところは地獄だろうさ。 そういやよ、地獄の下にはどんな文明があるんだろうな。
 なあ、モグラ。


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【罪状】道路運送車両法違反

車検が切れた状態で走行していたため(2台とも)。

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