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朝日新聞社「論座」に障害児教育の話題を載せました。

 朝日新聞社「論座」に、文部科学相はなぜ国連勧告を受け入れなかったのか――インクルーシブ教育と「よき二級市民」――という日本の障害児教育と国際社会の評価の記事を載せました。「論座」編集部の方は「障害児と非障害児が一緒に学ぶ「インクルーシブ教育」の取り組みがなぜ、この国では進まないのかを考えます」と紹介を書いてくださっていたのですが、この文章に対して、匿名で「開成や麻布がそのような教育を取り入れない理由を考えればわかるのでは?」とコメントを寄せてくださった方がいらっしゃいました。

 開成や麻布といえば東京大学に合格した人数がきわめて多い学校です。このコメントは、日本で有名な学校はインクルーシブ教育はしていない、つまり障害児は入学していないとおっしゃっているのだと思いました。

 わたしは不思議に思いました。進学校だからといって、本当にインクルーシブ教育をしていない、などということがあるのでしょうか? そこで進学校と障害児の入学について、何か資料がないかとウエブを探ってみました。すると、開成や麻布ではないのですが、兵庫県の灘高校の障害児に対する対応が載っている資料が見つかりました(国立特別支援教育総合研究所が2010年に出した『障害のある子どもの一貫した支援システムに関する研究』「第5 章 高等学校における取り組みの実際」57ページからを参照してください)。これは、特に「発達障害」、今風に言えば「顕著な自閉スペクトラム症」で気になる生徒に対する支援の研究なのです。

 灘や甲陽学院といえば関西の名門です。わたしにとっては灘や甲陽学院の方が馴染みがあるので書きやすい気がします。そこで、いわゆる「進学校」の事情をご報告いたします。

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 灘は甲陽学院とともに自由な校風で有名です。両校ともに体育の授業として柔道、または武道が必須で、生徒たちを教えるためにオリンピック出場経験のある人が教えに来ていたそうですが、組み手や乱取りはほどほどに、一学期中、道着のたたみ方を教えてくれたそうです。

 灘には文化祭がありますが、甲陽学院には文化祭はなく、代わりに「音楽と展覧の会」と呼ばれる行事があります。その場では楽器や歌が下手な生徒にも合奏や合唱の機会があります。

 奇妙なことを書いています。何を書いているのか種明かしをしましょう。どこの高校でも、いわゆる「運動オンチ」「リズム音痴」な生徒が多数存在するのです。でも「運動オンチ」でも臆することなく柔道や武道を習いますし、「リズム音痴」でも平気で合奏や合唱ができるのです(巧くできるという意味ではありませんよ)。

 灘や甲陽学院には「発達障害」「自閉スペクトラム症」の生徒が多いのだと思います。ここで誤解を避けるために説明しておきますが、「自閉スペクトラム症」というのは、まったく「健常児」に見える子どももいれば、知的障害と認定される子どももいます。そして「自閉スペクトラム症」の遺伝子は、研究中のものも含めると1,000以上挙がっているのです(SFARI Gene を参照してください)。このことを言い換えると「あなたもわたしも自閉スペクトラム症」ということになります。要は程度と環境の問題ということになりそうです。

 そんな灘や甲陽学院で「自閉スペクトラム症」への支援がないわけがありません。実際にあるのだと思います。でも「自閉スペクトラム症」への支援は教師も生徒も不慣れだと思います。そこで盛んに「発達障害」の当事者だけでなく、視覚障害者や聴覚障害者を招いて、当事者の生の声を聞く講演会や授業を行っているのだそうです。

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 コメントを寄せてくださった方が「開成や麻布がそのような教育を取り入れない理由を考えればわかるのでは?」と書いた理由は、「進学校に障害児は入学していない」とおっしゃっているのだと思いましたが、そんなことはありません。わたしの知る例は開成や麻布のことではなく、灘や甲陽学院のことですが、でも同じだと思います。

 いかがでしょうか?


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