【#ガーデン・ドール】答えの先は

誰かを想うって、こんなにも素敵で、こんなにも苦しいだなんて思いもしなかった。




一部のドールたちによる大捜索のあと、私はまた寝不足になっていた。
悪夢を見たからじゃない、遅くまで本を読んでいたわけでもない。
今まで、自分にはないと思っていた、誰かを想う気持ち。
それをあるドールに感じたような気がして、いつもは大人しい胸の鼓動もなんだか、すこし…早いような気もして。
こんなに早くなったのは、初めてマギアビーストと戦った時ぶりかもしれない。
でも、もしかしたら体の不調かもしれないから、センセーに相談してみた。
私でもわからないことはセンセーに聞くしかない。

『病気の疑いがあります。検査を望むなら~…』

病気かもしれない、と伝えられてびっくりした私は、すぐに検査をお願いした。
けれど、数値はどれも正常で、なにも問題はないという。
要は、私の気持ちの問題なのだろう。
私のことは一番私が知っているはずなのに、分からない…■■も知らないと言ったままそっぽを向いてしまった。

『愛』については、よく本で読んだことはあった。

≪ふたりは想い、愛しあい、そして幸せに暮らしましたとさ≫

幸せに暮らすのは想像できた。
だって、素敵なガーデンがあって、素敵なドールたちと一緒に生活して、素敵な本や物、花に囲まれているのだから、私は今幸せに暮らしている。
もちろん、幸せじゃない場面もあるけれど、それでも十分すぎるほどに幸せと呼べる、"リラの箱庭"(わたしのいえ)
だが、『想い、愛しあう』について、私は明確な答えを持ち合わせていなかった。
本で調べても、抽象的な表現が多く、素敵な話だなと思うことはあれど、物語の登場人物に共感することができなかった。
でもある時、ある2人の関係を目の当たりにして、とても「本と一緒だ」と感じてしまった。
それがまるで小さな双葉から花を育てようとしているように見えて、どうか2人が幸せになれますように、とお節介なプレゼントもした。
けれどまだ私の中でその感情はわからなくて、あるドールから相談を受けたとき、考えても出てこない答えを、自分の想像で咄嗟に答えてしまった。

『愛って、私は、この方の笑顔がみたい……この方の助けになりたいって、思うこと』
『特定の相手にだけは、こう、他の子よりも、優先したい気持ちだったり、私を……自分で見てほしいなって……思ったりする気持ちが強く、出てきちゃう感じ』

本の受け売りをあたかも自分の考えかのようにして、伝える。
まだ、私が見つけられていないその答えを、あの子はもう気付いているんだろう。
■■と変わったあとはわからないけど、後日見た2人は幸せそうに笑いあっていたから。
ただ、曖昧な答えでは自分の分からないことは埋まらず、その疑問は私の中でずっと燻っていた。
おそらく、私が気付く前よりもずっと前に、この気持ちはすでにあったんだと思う。
相談を受けていなかったら、その存在に…違和感に気付きもしなかったんだろうけれど。



そんなことをいろいろと考えて、気付けば朝…なんてことになってしまって、窓のカーテンを開けてびっくりした。
ガーデンで気候が変わることはあまりなく、雨が降ることすらも珍しいこの場所で、それは異例の事態だったのだろう。
あたり一面真っ白で、また悪夢が始まってしまったのかと怯えつつ、校舎の方から時間を知らせる鐘の音が聞こえて、夢ではないことに気付く。
いやな方向に思考を持っていかれる前に、と慌てて準備をして、転ばないように慎重に登校した。
…のに、帰ってくるときに油断して盛大に転び、雪だらけになった。

真っ先に思ったのはあのドールに見られていないか、だった。
おしりの痛みに泣きそうになりながらきょろきょろと見まわして、誰もいないのを確認してからご飯変わりにパンをひとつ拝借して、部屋に戻った。
ジンジンと痛むのをかばいながら着替えをして、明日から休校、と通知が来たので、できる限りの勉強をしてしまおうと、ペンを握った…のはいいが、思うように進まない。
あれからずっと考えてしまっていることのせいだろうか、それとも寒さのせいか。
答えの見えない考えに頭を抱えそうになって、このままではまた寝不足になるな、と確信した私は、早めに寝付けるようにLDKへ暖かいものを求めて部屋を出た。

これから私が百面相する未来を、誰が予測出来たのだろうか。




リラ、分からなくなるの巻。
この日の夜、一大イベントが起こりますよ、と。


#ガーデン・ドール
#ガーデン・ドール作品

【主催/企画運営】
トロメニカ・ブルブロさん

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