【#ガーデン・ドール】安心と温もり(後編)
前編はこちら(https://note.com/gori_zomco/n/n9debf578ba61)
ちょっとだけ時間を遡ってはじまります。
温かい部屋で温かいものを飲む。
これだけで幸せは作れるんだと、知れたのもあなたのおかげ。
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季節の石探しについては後日話し合う、と決まった会話の前。
キッチンでココアを作るヤクノジさんを見守っていた私。
手伝うほど手つきが危ないわけでもないのに、上手いとは言えない、と謙遜する彼にいつもの兄貴肌な表情はなく、代わりに優しい笑みが浮かんでいて、またどきりと。
忙しない自分の鼓動が隣に聞こえませんように。そんなことを思いながら、手元のミルクを混ぜる。
「私もあまり上手じゃないので、二人でやれば一人前ですね…!」
「リラは色々気配り出来るし、一人前と弟子が一人……じゃないか?俺が弟子で」
二人で一人前。
私とあなたとで一人前。
自分で言っておきながら、なかなかに恥ずかしい言葉にすこし照れそうになりながら、それを誤魔化す様にマグカップを渡す。
無事に人数分用意を終えて、近場の椅子に座り、冷えてしまった指を温めつつそれを飲む。
「…やっぱり、二人で一人前…くらいがちょうどいいかもしれませんね」
すこしずつ温かくなったおかげか、頭も体も睡眠に切り替わっていく。
緩む頬を制御する気なんてとうに忘れて、ミルクの熱さに苦戦している私。
「……いいな、それ。そういうの、悪くない。」
ぽつりと呟くその言葉に、同じ考えを持ってくれているのが嬉しくなる。
ココアを持ち、LDKに来た時には寒さで丸まっていた背はいつも通りの広さを取り戻していて、思い出したように、『人』という字は二人で支えあってできた文字らしい…と、なんとも迷信じみたことを伝えてみる。
「へえ……?でも支え合うって、こう……片方に負担がかかる字だろ?」
言われて気付く、そういえばそうだ。
「背中なら貸すぞ。」
その一言になんだか認められた気がして、私はまた頬が緩むのを押さえられない。
「ふふ、じゃあ私が倒れそうなときは、ヤクノジさんに支えてもらおうかな」
こうやって会話をしていること自体夢なんじゃないかと思いつつも、頭で考えた言葉はするするとそのまま口から零れていってしまう。
また、彼もふわふわと笑って
「……ああ、倒れる前でも支えてやる。大丈夫だ。」
こうやって私が嬉しい言葉を紡いでくれる。
すこし離れた場所に座るリブルさんをアイラさんが楽しそうに焚きつけて、それに乗っかって私もいじわるをしてしまう。
幸せをその言葉通り表した様な空間で、楽しくなる。
「え、リラ先輩も!?ちょ、こまる、ヤクノジさん助けて」
「ん?なんだよ、リブルは遊んでくれないのか?」
「ダメだここに味方がいない!」
頼みの綱を失ったリブルさんは絶望した顔をしていて、ちょっと意地悪をしすぎたかなぁ、なんて考えていると。
いつの間にか隣に座っていたヤクノジさんに気付いて、隣同士、力を抜けば体を預けられる距離。
夢じゃなければいいなぁ、その言葉は音にはならず…代わりにすこし体を預けながら
「…ふふ、よろしくお願いします」
その温もりを確かめる様に寄りかかる。
触れている右肩がじんわりと暖かくなっていくと同時に、私の眠気は加速していく。
手元のマグに既に温もりはなく、右側の温もりは支えるように私に甘えてくる。
それがたまらなく愛しい。手放したくない。
気付けば私の片手は温もりを掴んでいて、そこで意識は途切れた。
+++++
「……リラも眠そうだな……温かいもの飲んだし、隣にいてくれてるから…眠いよな……」
ぼんやりと自分に凭れかかり、目は半分閉じられたリラを見ながら、まるで自分にも言い聞かせるようにするりと。
本能的なのか、温もりを求めて擦り寄ってくるリラのマグを回収して、自分のマグと一緒に浮遊魔法で流しに置く。
「ここ、あったかい…」
「……リラ、頭ぶつけたりしないように……」
年長者の部類に入るはずのその姿はまるで幼子の様にも見えて、守るように自分の肩に頭を誘導してやる。
…なかなかに自分も眠気にやられている気がするが。
暖かいとはいえ、さすがにここで眠ると風邪を引く未来しか見えないので、声を掛けてみるが、返ってくるのは鳴き声に近い返答で、すこしくすりとしてしまう。
「参ったな……リラの部屋って、何処だ?」
私の部屋の近くですよ、とアイラの言葉に、リブルが不機嫌そうになにか文句を言っている。
その文句にアイラはキラキラと目を輝かせていて…まぁ、分かるか、とリラを抱き上げる。
「駄目だったら、俺の部屋に寝かせるし」
「ん...まぁヤクノジさんがそれでいいなら...?」
「うん、リラちゃんもそれでいいなら…?」
同じような表情をして同じような言葉を投げかけてくる二人に、仲がいいなぁ、なんて見当はずれな考えをしつつ、腕の中で眠るリラを落とさないようにして立ち上がり、あくびを嚙み殺しつつ
「んじゃあ、おやすみ……」
首をかしげる二人といつの間にか増えていた一人を残して、LDKから出た。
+++++
右側に感じていた温もりが離れていく感覚に気が付く。
名残惜しさを感じて、離れたくなくて、腕を伸ばそうとするが動かない。
ふわふわと頭を撫でられた気がして、…なぜか安心するその感触に、私の思考はまたふわふわと溶けていった。
瞼越しでも分かる陽の光に、脳が一気に稼働を始める。
昨日、LDKでホットミルクを飲んで…そこで…?
「あれ………?」
その先の記憶がないことに気付くと、ゆっくりと目を開ける。
布団の感触はあるので、ベッドまで自力で来たと思っていたが、匂いが、違う。
…部屋も、違う?
あるはずの本の山はなく、代わりに窓際の棚の上にひとつ光るマリモが置かれていた。
停止する思考と、記憶に新しい匂いが私を包む。
私の部屋じゃない、ここは、彼の、ヤクノジさんの部屋で…
その考えに至った私の行動は早かった。
出来る限りの速度で布団から抜け出し、素早い動きで部屋から出る。
周りを確認する余裕もなく、2階へ降りて自分の部屋へ駆け込み扉を勢いよく閉める。と、そのままの勢いで周りにあった本に躓き、盛大に転んだ。
大きな音を立てて床に敷かれた絨毯と化した私は、しばらくしてから起き上がり、力なく扉に凭れかかって真っ赤になった顔を押さえながら悶える。
「なななな…わた、わ、わたしなにして…!!?!」
パタパタと足をひとしきり暴れさせて、頭をフル回転しながら考えたものの何も覚えていないので、確認のしようもない。
徐々に冷静になり落ち着いたあたりで、外から雪を掘る音が聞こえて、思い出すのは雪かきのこと。
…部屋の主もそれに参加しているだろうが、私は約束したのだ。
「……確認のためにも行かなきゃ…」
まだ熱さの残った顔をぱたぱたと扇ぎながら着替え、キッチンへと向かう。
甘すぎない程度のロイヤルミルクティーを抱えて、真っ白な雪をかき分け、道を作っているであろう人たちに差し入れに行くのだ。
それまでにどうか、この熱さはおさまってくれますように。
リラにはずっとわからないんだろうな、と思っていた感情が芽生えた瞬間ですね…
今後のふたりを、そっと見守ってもらえたらと思います。
#ガーデン・ドール
#ガーデン・ドール作品
【主催/企画運営】
トロメニカ・ブルブロさん
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