【#ガーデン・ドール】きらきらひかる、おそらのほしよ
6月15日。
その日の夜は。
とても寂しく。
とても、眩しく。
とても、煌煌しく。
群青と漆黒を混ぜた空に雲はなく、輝く星たちが空を飛んでいる。
煌煌魔機構獣討伐後、足早に茶の間を退室した二人。
リラはヤクノジの手を握ったまま、対策本部の裏に回って足を止める。
されるがままのヤクノジも、同じく。
ぼんやりとした状態のまま空を見上げる。
空には、輝きが降り始めていた。
「……星が、流れてる……」
ちらりとヤクノジを見てから、リラも空へ視線を移す。
「……本で見たことしかありませんでしたが……綺麗ですね……」
目の前に広がる壮大な景色に思わず感想を漏らすと、ヤクノジがふわふわと揺れる髪を泳がせながら、リラの肩に額を寄せる。
「綺麗なのが、困るんだ」
少し苦しそうな声色で一言呟く。
駄々を捏ねる様に額を押し付けてくるその頭をきゅっと抱きしめて、揺れる闇色の髪をゆっくりと撫でる。
「そう、ですね」
「本当に、困りますね」
腕の中にある温かさに、安心を覚えながらゆっくりと。
ゆっくりと。
されるがままのヤクノジはわざとらしく、むくれながら
「本当に困るよ、僕がもらった飴は無傷だしさ。……こういうこと、初めてだからどうしたらいいのか……ね」
その様子がすこしおかしく感じてしまい、リラはくすりと笑う。
「そうですねぇ。こんな戦いも、思いも……私も初めてです」
そう告げながらも、手は止まらないままゆっくりと。
「……もらったものがあり過ぎて、それがあったかいから……悲しいはずなのに、悲しいって思えなくて。不思議だよね」
「ふふふ、色んなものをもらいましたもんね……本当に、たくさんのものを置いて。私たちの心に温もりを添えてくれて……」
「せめて置いていかないでいてくれたらなあ……上手く言えないんだけど、ね」
「言葉にできない、ですね」
ゆっくりと。ゆっくりと。
自分の気持ちを落ち着けるように。
相手の気持ちを落ち着けるように。
「……あのさ、多分僕また落ち込んだり……色々すると思うんだけど、いいかな……?」
眉は下がり、申し訳ないような表情でこちらを見てくる深緑の瞳に微笑みを映す。
「ふふふ、そのための私でもあるんですよ?……ふたりでひとつ、ですよ」
「……僕、甘えてばっかりな気がする……」
恥ずかしさを感じたのか、尻すぼみになりながらぽつりと。
「そんなことないですよ?」
「私もたくさん、甘えちゃってますから……私が落ち込んでしまったときは、お願いしますね」
リラはそう伝える。
「そうなの?……でも、リラちゃんが落ち込んだ時も……そうじゃない時も、甘えてよ。なんでもない時にも、甘えて?」
「うふふ。はい、甘えちゃいますね」
照れながらも笑い合う。
その上では、星が雨の様に降り注ぐ。
「……まあ、リラちゃんが甘えてくれたら……その、僕はいっぱいいっぱいになるんだろうけど……」
「そうですかね?ふふ」
「いっぱいいっぱいになるよ、僕すごく恥ずかしがり屋だから」
まだリラの戦闘服に慣れないのか、もごもごとした様子で言いながら、自分の着ていたジャケットをリラの肩にかける。
少し大きいそれを笑いながら受け入れたのを見てから、ヤクノジはリラを抱きしめる。
風が二人を優しく撫でるのを感じながら、ヤクノジとリラは離れて二人してまた、空を見上げる。
束の間のふたりの流星観測。
白にも金にも見えるその色たちを眺める。
「……もう大丈夫。また元気がなくなるかもしれないけど、一先ずの元気は貰ったから」
「ふふ、なら良かったです」
そう言って、リラはヤクノジの手を握る。
「……そろそろ戻りましょうか、温かいものでも飲んで……また明日からに備えましょう」
「ありがと、リラちゃん」
来た時とは異なる、まだ弱弱しさの残る笑顔をリラに向けて。
優しい穏やかな微笑みをヤクノジに向けて。
繋がれた手と手は離れることもなく。
煌煌と、煌煌と。
群青と漆黒を混ぜた空に雲はなく、輝く星たちが空を飛んでいた。
【主催/企画運営】
トロメニカ・ブルブロさん
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