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【#ガーデン・ドール】そして、世界はIを祝福する

!注意!
この先、以下の表現があります。
気分の優れない方、苦手な方はご注意ください。
・グロテスクな場面

また、最終ミッションの内容を含みますので、お気を付けください。



薄く雪の積もったところに、ふたりの足跡が残る。
ゆっくりと刻まれるリズムに、焦りはなく。
ざくり、ざくり。

「もうすぐ、夜が明ける」

ふたりで決めた、約束の地へ一歩ずつ確実に進んで行く。
先程まで室内から眺めていた外の世界の雪は止んでいた。
神々しく輝いていた月はその姿を空へ溶け込ませて、陽の明るさを取り戻しつつある空は、ふたりの白い吐息を白くきらきらと反射させている。

「おかしいよな、すごく楽しみなんだ」

「ふふ、実は私もです」

繋がれた手を強く握られ、ヤクノジを見ると微笑んでいる。
まるで、この間みんなと過ごしたピクニックの時のような様子に、つられてリラの表情も緩む。

これから行うのは、楽しみとは程遠い契り。
ふたりだけの我儘を。
ふたりだけの、秘密を。
ちいさな幸福はこにわを守りたいと思うふたりの、願い。

軽やかにステップするかのように、校舎の階段を上がる。
目指すは校舎、屋上。
この世界で、1番よく知っている建物の最上階。
ふたりきりになるにはうってつけの、ひみつの場所。

「これからとんでもないことをしようとしてるのに、なんか落ち着いていてさ」

いつもの調子で紡がれる、落ち着いた声色。
校舎の中にはふたり以外誰もおらず、しんと静まり返った踊り場にはぱたぱた音が響く。
階段を上がった先、屋上へ続く扉はヤクノジによって開かれ、リラは誘われる。
誰ひとりも立ち入っていないため、積もった雪は真新しく、ふたりの息を吐く音すらも飲み込んでいく。

「ふたりだけのひみつ基地、みたいですね」

胸を上下して吐く息は白く、温かさを視覚化している。
それが見えなくなる時は、もうすぐ。

「幸せ、なのかもしれない」

「…これは、私たちでしか、理解出来ない幸せかもしれませんね」

ふたりは顔を見合わせて、笑いあう。
今までの中で、いちばんの笑顔をお互いの瞳に映して。

+++++

ドアから伸びた足跡は、屋上の真ん中で途切れ、そこにふたりは向かい合っている。
手には、銀色に鈍く光る"プレゼント"

「さて、やるか。……ちゃんと飲んでくれよ、俺のコア」

「ふふ…私のコアも、しっかり味わってくださいね?」

「当たり前だろ」

ニッと笑うヤクノジと、不敵に微笑むリラ。
ふたりは同じ体勢で向かい合って、言葉を交わす。
痛みも感じるだろうが、恐怖はない。
その先に思うのは、ただただ期待のみ。

+++++

鈍く輝く"プレゼント"の刃先を自身の胸に向ける。
これから感じるであろう苦痛は、この先への希望の証と信じて、深く突き刺す。

「っ!!ヴ、ぁ……!」

ぎゅっと強く眉間に皺を寄せ、歯を噛み締める。
ずぶりと刃先の半分以上が刺さったそれを、捩じ切るようにして、胸に切れ込みを入れ続ける。

「あ”…はっ………っっ!!!!」

息をするのも絶え絶えに、しかし動きは止めない。
目の前では、同じように胸に刃を立てて苦しむヤクノジさんの姿。
額には汗が滲み、胸からとめどなくあふれている赤。
ふわりと香る甘い匂いと、鉄の錆びたような匂いが交り合い、ふたりを包む。

「………っ」

ヤクノジさん、と。
口は動いても言葉にはならずに、代わりに胸から赤が零れる。

そして私は、自分の胸に開いた歪な切れ込みに手を入れ、コアを探す。
以前した解体のおかげで、大体の位置は把握していたおかげか、すんなりと見つけられた"I"それを掴み、引き抜く。
嫌な音と共に、外に出されたそれは、まだとくとくと鼓動を続けていた。

「……っ、リラ……!」

口元に押し付けられたそれを、しっかり口に入れて、一気に飲み込む。
ぬるりとした感触と、甘いような苦いような不思議な味を堪能する暇もなく、代わりに自身のコアを差し出す。
ヤクノジさんはそれをしっかりと口で受け取り、飲み込む。

しっかり味わってください。

その言葉はほぼ吐息となってしまったが、伝わったであろう。
お互いにコアを差し出し、飲み込むその光景は、ふたりだけに許された行為で。
世界にひとつしかないエンゲージリングを、交換する。
これで、ふたりは、ひとつに。

そして今はただ、鼓動の無くなった胸を真っ赤に染めて寄り添う。

ヤクノジさんの震える指が、私の唇に朱を差す。
いつか本で読んだ、異国の『結婚式』の装いのようなそれに、私は動かなくなりつつある表情で笑みを返す。
まるで美しいものを見るように、愛でるようにヤクノジさんは微笑む。
赤と黒で彩られた新緑は私の姿を映せているだろうか。
もはやぼやけて色しか分からなくなってきたあなたに向かって、言葉を紡ぐ。

『あいしています』

どうか、目が覚めてもこの言葉を伝えられると信じて。

ちらちらと、雪が降る。
白い世界に赤い花がひとつ咲いた。
ひっそりと、笑いながら、ふたり以外誰もいないひみつ基地で。

雪の季節に始まった二人の淡い恋は。
季節の終わりを告げるように。
美しい花を、咲かせた。




SpecialThanks『ヤクノジ』


#ガーデン・ドール
#ガーデン・ドール作品

【主催/企画運営】
トロメニカ・ブルブロさん

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