見出し画像

2021年総括 ヴェルディを振り返る  ~さらばレジェンド!ヨミウリよ永遠なれ!~

別れはあまり突然だった

監督として常々プロ意識を口にしてきた永井秀樹。だが、その別れは昇格未達という評価でもなく、あるいはJ3降格、いやJ2残留確定ですらなく、ただ「成績不振のため」という曖昧な理由での離別となった。週刊誌によるパワハラ報道が引き金となったとも言えるが、それだけが原因ともいえない。6月快進撃の後の失速がやはり最大の原因であろう。

緑の遺伝子を受け継ぐ天才少年たちの羽ばたきを最後まで見届けることは出来ず、その職務を離れることとなった永井だが、3年余りの期間でチームに残したものは非常に大きなものがあったと私は思う。ミルアカでも指摘されていたが、永井の作り上げたチームは独特なチームであり、他方ヴェルディらしいチームでもあった。攻撃的なチームを作るという永井の意思が反映された結果に思われる。


まずは永井の目指したサッカーとは何だったのかから振り返り、整理したいと思う。


ヴェルディらしいサッカーの呪縛

2019/07/17   成績不振で解任となったホワイトの後を受け、永井は強い意気込みを持って監督に就任する。

就任時の永井が目指したのは、現代サッカーの起源とも言われる「トータルフットボール」型のフットボール。

「常に数的優位を維持し、90分間のボール保持とゲーム支配」「全員攻撃、全員守備のトータルフットボールで、90分間、自分達でゲームを支配(コントロール)して 圧倒して勝つ」というスタイル

自らのフットボール理論の答え合わせをするために就任したという永井だが、それは欧州のトップモードを日本で実現したいという野心を強く感じさせるチャレンジでもあった。

ただ一方で過去のOB同様、精神面での目標も強く打ち出し、メンタル+技術(戦略)でJ1へ復帰をというのも永井の掲げる目標であった。永井はS級取得時の研修で訪れたフラメンゴでは、アベル・ブラガに感銘を受けている。(
ブラガはCWCでインテルナシオナルが初優勝した際に「魂の勝利」との名言を残した監督でもあった。)

『先の会見で私が「(準決勝でバルセロナと対戦した)クラブアメリカのような守備はしない」と言ったら」、インテルナシオナルはファウル覚悟の暴力的な守備をするのではないかと書いたメディアがあった。だが、われわれは厳しくスペースをつぶすことは心掛けたが、そういったファウルはしていない。バルセロナは強い。だからこそスペースつぶしを徹底した。これは魂の勝利である。』(インテルナシオナル監督)


以下はユースに語ったことだが、永井の精神性をよく表している言葉だと思う。

ヴェルディを自分達の力で再建すること。仲間の為に出来ることを各々の立場、環境で全力でやること。そして人々を感動させるフットボールを作りplayすること。


この目標に対し、永井が率いた期間、どのようなフットボールが展開されたのか。

永井が率いた期間をわかりやすく見直すため、3つの区分で考えてみたい。



第一期  守  ポゼッション神話期          
2019年就任時~シーズン終了時

第二期  破  偽シティ完成期            
2020年シーズン

第三期  離  グアルディオラから遠く離れて   
2021年開幕~辞任まで



第一期  守  ポゼッション神話期          
2019年就任時~シーズン終了時


【寸評】

中心選手となったのは小池。小池の得点能力が開花した年でもあった。山本理仁、藤本寛也など若手の順調な成長、ベテランの域に入りつつあった若狭の攻撃的なセンスが発見されるなど、ポジティブな側面がかなり見られた。(守備面での問題点は多々あったが・・・)


【スタイル】

永井監督就任後のヴェルディは、J2でボール保持率2位。75%の保持率を記録した。

攻撃こそ最大の防御とばかりにボールを保持することで守備の難点を消す形だったが、攻撃面での型を形成することも強く意識していた。


主な攻撃の形は『ポストゾーンの所を(ワイド)ストライカーが狙う』というパターン。


2019年の攻撃の形がよく現れているのが以下の動画。


小池がすっと上がりゴール前に侵入してくる姿は若き日の永井を思わせるものがあった。




【2019年の課題】

レアンドロの状態が悪く、端戸もまだ戦術理解が進んでおらず、フリーマンが固定できなかった。

戦術小池が完成し、若狭が攻撃時の起点になることが増えた。藤本、森田等、個人で局面を打開できるプレーヤーによって支えられていた時点で、攻撃の形は限定されていたも言える。

ただ右サイドからのビルド→中盤で前進→左ワイド→右ワイド小池という型のようなものができ始めたのはこの時からであった。



第二期  破  偽シティの完成期      
2020年シーズン


【寸評】

中心選手は端戸仁。井出・福村という永井の戦術を担うキーマンが活躍した年でもあった。井上潮音が完全に覚醒した年としてヴサポの心に刻まれる年かもしれない。森田や阿野、松橋といった若手の起用でもっとも活躍した藤田がJ1移籍できたのは永井が起用し続けたからであろう。期待された大久保嘉人が全くフィットしなかったのは印象深い出来事だった。


【スタイル】

端戸のレイオフからの前進と福村の偽サイドバックなど構造的にシティを真似たビルドアップの構築に成功。スムーズな攻撃を見せる場面も増えた。



【2020年の課題】

構造的には完成に近づきつつあったものの、結果は伴わなかった。その点は永井も意識しており、

井出によると「自分たちの立ち位置や型があるなかで、自分と潮音のところは動きながら崩すように言われていた」という。先ほどの動画を見てもらえばわかるように、ヴェルディのビルドアップがシティやバルサとの違うのはアングルが全くないこと。どちらかというとバルサ式というよりオランダ式に近い。

もちろん自由を与えられていた井出はアングル意識を持ったプレーヤーである。以下の動画の1点目、3点目のボディアングルを見ればそれが明白に理解できる。



永井の目指す型の完成には近づいたが、最終形になっても結果は伴わないではないかという一抹の不安を残したまま、2021年へ継続になった。


2020年 ボール支配率65%以上 8試合 1勝3分4敗

同     ボール支配率70%以上 3試合 2分1敗



第三期  離  グアルディオラから遠く離れて   
2021年開幕~辞任まで


【寸評】

佐藤凌我の躍進、小池・梶川の復活、山本の成長等がプラス要素。加藤弘堅のこれぞボランチという技術を堪能できたチーム。SBに山口・深澤の目途が立ったことで来期の展望は明るくなった。

井出や山口、端戸、優平等、けが人に泣かされた年でもあった。


【スタイル】

偽シティの完成形を目指してより精度を高める方向を目指していた開幕時。だが「個の技術」「戦術理解」はチームにある程度浸透したのに勝利には結びつきにくかった。そのため永井自身にも変化が訪れる。
「戦術に選手を当て込むのではなく、『選手ありきの戦術』を大切にする。そのバランスというか、境界線は難しいところではあるけれど、それは強く意識するようになった」


型としての完成度を目指していたはずが、結果、個人の能力を発揮する方向に舵を切り出した。左サイドバックの山口の前進に頼る場面、加藤弘堅のパッキングパスで打開する局面も増えた。


ンドカが期待以上の成長を見せてくれたことが最大のポジティブな要素。


6月の快進撃が終わり、長い低迷期に入った理由として、3つの要因が考えられる。


1 オリンピックによる長期間のアウェイ連戦

2 サイドバックの構成変更

3 北海道ミニキャンプで井出離脱


右サイドバックに左利きの福村を入れる等、迷走が始まった時期。連戦中になぜかミニキャンプを行い井出が故障離脱し、より状況が悪くなった。2020年の型の延長線上に絵が描けなくなった時期に思える。


【2021年の課題】

シーズン後半、山口、井出の離脱が最大のブレーキとなった。

井上、藤本、じゃがいも、藤田等、アクセントをつけることができる中盤の選手を毎年流出させてきた結果、MFの層が薄くなり、完全に若手依存になってしまった。加藤がいなかったならばもっと下位に沈んでいたことは間違いないだろう。おそらく優平のケガがあった時点で完全にJ2アウトになりかけていたはず。山本の成長や石浦の実践経験の獲得などポジティブな要素もあったが、不安な部分ではある。

バックスに関してもキャプテンの長期離脱や山口のケガなどもあったが、来期は佐古の復帰や大卒補強があるので少し安心していられる。



【参考】永井サッカーの完成形


皮肉にも永井が退任した後にヴェルディは復調しトップフォームを取り戻し出す。

ベストゲームはいくつかあるが、第40節 2021/11/21vsFC琉球 

を取り上げるべきか。

PK失敗の印象の強い試合だが、梶川のコメントにあるように、

「相手を揺さぶることはできていましたし、明らかに疲れているようにも見えていました。サイドに振られるのがしんどくて早めにサイドに動き出して真ん中が空きだしたりというような感じもあったので、あとは本当に決めるだけという状況 」にまで追い込んだ試合だった。

クロスを効果的に使用していたのが印象に残る試合だった。


 永井ヴェルディを振り返る

退屈なバックパスばかり。若い子だけユース上がりだらけのチーム。

そんな風に揶揄されることもあったが、冒頭に述べたように、永井が監督を務めた期間で様々な成長があったのは事実である。実証はなかなか難しいが、以下、永井ヴェルディとはなんであったのか、その可能性を少しまとめて終わりたいと思う。


永井はヴェルディらしさ、攻撃的なサッカーの復権を目指していた。永井の言うヴェルディらしさとはなんであったのか。

その答えのヒントは新井の起用問題にある。


終盤戦の立役者の一人、新井瑞希。永井体制ではスタメンで起用されることは少なかった。

永井は新井のどこをみていたのだろうか。新井は可能性にかけるプレーヤーである。確実なシュートよりここが勝負どころと見たら積極的に撃っていくスタイルであることは皆さんご存知かと思う。


ミルアカでも触れられていたが、永井ヴェルディで突出した数値を出す指標がある。攻撃の正確度である。2021年の枠内シュート率は驚異の40%弱。シティやレアルも超えたと言われている。

元々、ヴェルディの枠内シュート率は伝統的に高い(冨樫期は微妙)。

この部分は意図的に作られたものであり、ヴェルディの攻撃でもっとも大事にされている部分だと思う。昔、呟いたがJrのスクールですら「何で撃っちゃうんだよ、かわして来いよ」というぐらいヴェルディの文化に根付いたものなのかもしれない。

永井の言うヴェルディらしさの一部である可能性は非常に高いように思う。

むやみにシュートを打つよりはきっちり相手を崩して撃つことが重要。

その観点から見ると新井のプレーは不合格なのかもしれない。


しかしヴェルディらしさは攻撃の正確性にあるのではないかもしれない。

北野誠監督は最終節相模原戦で以下のようにつぶやいていた。

最終節では分厚い攻撃を見せつけ、相模原に勝利したわけだが、そのスタイルこそがヴェルディらしく北野には見えていたようだ。

DFが跳ね返したボールを再度回収し、再び追い詰める。コーナーに追い詰めるボクサーのような厚みのある攻撃こそヴェルディらしさ。

永井のイメージとは違うが、これも攻撃的なスタイルである。研ぎ澄まされた一撃必殺のカウンターパンチではなく、ボクシング漫画「はじめの一歩」でおなじみデンプシーロールのような破壊的な攻撃力。

どちらがヴェルディらしいのかはいったん置くとして、攻撃的で魅力的なサッカーではあるのは間違いない。この文脈であれば新井は十分に評価されるべきである。

永井のサッカーを暦年で整理すると、どうもレーンごとに攻撃の型を作成しようとしていた節がある。最初はワイド、次はハーフレーン。最後は真ん中。必殺の型を作成することで攻撃的なサッカーができると永井はおもっていたのかもしれない。これは伝統を作るという意気込みともマッチする思考でもある。

しかし、実践においてはそれは難しい。常に相手がいるのがフットボールだから。

永井ヴェルディが成功しなかった理由を以下に簡潔に示したい。

1. 型思考の呪縛

これは先ほど述べた型を作成するという考え方である。必殺技思考に近く、このパターンにはめ込めば勝てるという自信を生むと同時に呪縛にもなる。選手の自由度を奪いかねない思考である。
現実は相手の出方を伺い、攻め方を変える必要があり、むしろ型の完成度よりも発動のさせ方、対応の仕方が重要になってくる。
永井のサッカーには決定的にここが足りなかった。

2.交代人数の増加によるポゼッションサッカーの限界

ロティーナがヴェルディ時代よりも清水で勝ち点が取れなかったのは引き分け数が少なかったからであろう。引き分け減少の原因を逃げ切れなかった清水のプレーに求めるのは簡単だが、どうもそうとは言い切れない可能性がある。ポゼッションサッカー自体に限界が来た可能性があるからだ。

サッカー批評において渡邉 晋監督が語っていたように交代人数の増加でプレッシング型の戦術を取るチームが優位になった。5人交代はフィールドプレーヤーの半分が交代できることを意味する。いくらボールを動かしても疲れていないプレーヤーが登場するのだ。これまでのようにボールをキープし続けて最低勝ち点1を取ることが非常に困難になった。

この二点において、永井サッカーの限界が見えてしまったとも言える。

堀がコメントしていたように永井サッカーを大きく修正してはいないのに結果が出たのは、永井ほどの精度は求めず、よりシンプルにしたことが復調の原因だったのではないであろうか。

ただ永井が行ったことは無駄ではなかった。
攻撃的なサッカーを復活させるという点では数字も残している。

チャンスビルディングのパス、クロス、ドリブルのポイントの合計値である攻撃の指標は高い。

Football LABより

永井のサッカーを評価するのはこの点においてである。
ただ時々呟いているがヴェルディのサッカーにはアングルの思考が少ない。型を連続的に展開するには角度の思考が必ず必要になる。これはいつかどこかで書くかもしれない。ここは永井でも改善できなかった。

歴史にIfはないのだが、永井がフラメンゴに行くのがひと月遅かったらと思わざるを得ない。ジョルジェ・ジェズスに会って指導を受けていたら、永井のサッカーは少し変わっていたかもしれないからだ。

ここは少しだけ残念だった。

リーグからの裁定は出たが、永井にはまた指導者にチャレンジしてほしいと個人的には思っている。

批判もあるだろう。ただ一つ一つハードルを超えてほしい。
かつて自分で言っていた言葉を今も信じているなら。

「人生で大切なことは、何度転んでも、そのたびに立ち上がること。何度倒れようが、そのたびに歯を食いしばって立ち上がれ。栄光はその先にある。サッカーも、人生も、大切なことは一緒だ」

永井秀樹

復活、待っています。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?