鼻持ちならない(2)

鼻の穴を塞いで泣きながら眠り呼吸困難を起こしかけた夜、いっそのこと今回の人生はあきらめようか、と思ったこともあった。

他人から見ればたかが鼻なのだ。説明のしようがない。

一応病院を何軒か回ったが、「あなたの鼻は異常です」「遺伝子の突然変異だ」「嗅覚が犬より優れているとはどういうことなんだ」「御両親はアフリカゾウか何かですか?」と奇異の目を向けられるばかり。親の理解も得られず、病院代も貰いづらくなった。
「死のう」ということでは決してなく、「生きているのに、生きたいのに、死にそう」という状態が何年も続いている。明確な理由がないのがまた厄介だ。どうしようもない鼻を抱えながらも中学までは来られたが、高校・大学・就職という中でいずれかのレールを踏み外すに違いない。何しろ満足なコミニュケーションがとれない。気付いた時には無になっていた。人との交流も減り、何も感じなくなった。

そんな時、枕元のラジオからフラワーカンパニーズの『深夜高速』が流れてきた。暗闇に包まれた2時過ぎの自室。それは偶然がもたらしたささやかな、否、少女にとってはあまりに大きな贈り物だった。少女は思わず息をのみ、脳内が研ぎ澄まされていく感覚に身を委ねた。そして、自分にも生きてて良かったと思える夜がいつか来るかもしれぬ、と仄かな期待を抱いてしまった。この曲が生命線となり、当分の間死ぬのはお預けになった。

フラワーカンパニーズ経由で橘いずみも知った。中学生にして『失格』を聴いた少女は、これは自分のことを歌っているのではと疑った。
榊いずみは己の生き様を宣言するような歌い方をする。甘え方を知らない姉御肌の女性が、強い意志を持ちつつも、愛に飢えて夜の街を彷徨っているイメージだ。これが鈴木圭介のちょっとハスキーな声にかかると、新たに気怠さが出てくる。主人公は仕事に打ち込む内気な女性。周囲には真面目で大人しいと言われているが、心の中には熱い想いを持っているというイメージに変わる。

少女の存在は音楽によって肯定された。

少女にこれらの曲が響いたのは、自分でも受け止めきれない現状を音楽に受け止めてほしかったからかもしれない。

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北村らすく
ハマショーの『MONEY』がすきです。