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万引き少女と深夜のコンビニ店員
「ねえ、何で何も言わないの」
「俺が何か言ったら君は行動を変えるん?」
「そんなの言われなきゃ分かんない」
「ほんなら言うわ。万引きは中学までや」
「らっきー、ゆ、あたしセーフじゃん」
「……誰かに頼まれてやってるんか?」
「は? 勝手に不幸当て嵌めてくんじゃねーよ」
「別にそんなんじゃねーよ」
「真似すんなし」
「してねーし」
「は、うざ」
浪人2年目の佐藤はフラカンのボーカルが書いた『深夜ポンコツ』を読み、退屈な時間をやり過ごしていた。
深夜のローソンは暇だ。
ファミリーマートはお笑い芸人のラジオが流れているし、セブンイレブンは一番くじを求めに荒くれオタクが来るし、今はなきサークルKでさえおでんツンツン男を輩出した歴史がある。
その点ローソンは平和だ。
POTで自動発注の画面を眺め、明日のためにパンを補充し、フライヤーの油交換も済ませた。
あとはコーヒーマシンの洗浄とレジ点検くらいのもので、終わらなければ早朝シフトのおばちゃんに頼めばいい。
「ふぁぁぁぁ」
欠伸を隠すことなく、佐藤は自前のアフロをもふらせながらページをめくった。
「俺、あと何回浪人すんねやろ」
暗い独り言が宙に浮かんでは消えた。
ただ佐藤自身は能天気そのものであり、モニタリングをされていた場合の浪人生・佐藤役として真に迫った一言を吐いただけであった。
「この怠惰な生活がなるべく長く続いたらええのになあ」
ティントーン。ティントーン。
正解、とばかりに入店音が響きジャージ姿のフィッシュボーン女子(前に三つ編みと言ったら訂正されたby佐藤)がやってきた。
真っ直ぐにお菓子コーナーに行くと、チュッパチャプスを2本手に持ちこちらに近づいてくる。
「っしゃ〜せ〜」
「よっす」
「「じゃ〜んけ〜んぽいっ」」
「最悪や、また俺かい」
「ざまあ」
得意げにガッツポーズを決めるフィッシュボーンカツアゲ女子。
佐藤はポケットから86円を取り出し、レジに放り込んだ。
「プリン味もらうわ」
「いいよ」
「そろそろ本気で補導されると思うけどな」
「由姫、老けてるから大丈夫。ガールズバーの面接も受かったし」
「世も末やな……あれやろ、コンカフェの体裁とって働かしてるとこやろ。ようないでぇ」
「関係ないでしょ。闘う意志のない者に勝利はやってこねーから」
「君って漫画で言葉覚えたんかってくらい時々熱い言い回し挟むよな。意味は合ってんのか知らんけど」
「別に厨二病じゃねーかんな」
本を置き、レジ越しに束の間のティータイムが始まった。
(続く🦆)
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