世渡り下手
「あなたって、花束より酒瓶にリボン巻いて
プレゼントしてほしい人なんじゃない?」
「めっそうもございやせんぜ。わたしゃ乙女中の乙女! 花束に50セント払う所存でございます」
「たったの50セント!? 道端の枯葉だってもっと値打ちはあるわ」
左手首にバラのタトゥーを施した悪魔的美女が、呆れ果ててため息をついた。
わたしは花束の相場が分からない。
それにしたって今わたしたちの間で酒を話題に
出すとはナンセンスだ。
この女、昨晩わたしの超個人的エマージェンシーコールによって急性アルコール中毒から生還したことを忘れているらしい。
あと何秒か救急車を呼ぶのが遅れていたら……いやはや美女は綱渡り人生がお似合いである。
「こう言っちゃなんだけど、あなたのお相手は
見るからにセンスがなさそうだったわ。
プレゼントは期待しない方がいいかもしれない」
おい、美女よ。
言っていいことと悪いことがある。
煙草の吸い殻で街中のゴミ箱を燃やしたい気分だ。
束の間のティータイム、白黒はっきりさせることに躍起になっていたら、負傷者数が跳ね上がる。
ありとあらゆるお付き合いはグレーを呑み込み
成立するものである。
ムカデの感覚をもつ長距離トラック運転手。
わたしのお相手はパーフェクト・ボーイなのだが。
カランコロン。
ブラトップに半ズボンという何とも涼しげな
五十路男の来店。
ここは給水スポットではないぞ、とわたしは視線を送った。
「こっちこっち!」
「うえっ!?」
思わず漏れ出た心の声。
手招きされ近づいてきた男の目ヤニたるや、他の客全員分の目ヤニをかき集めても事足り無いびっしり具合であった。
「新しいボーイフレンドよ。素敵でしょ?」と、紹介される。
「どぅーもぉー」
声量を間違えまくったサラリーマン漫才師のソレである。そしてべっぴんさんの隣でひとつ飛ばされる側のアレである。
「すすすすす、すすす、す、てきや(素・テキ屋)」
「あらどうして急に関西弁なの?」
「あまりに、す、てきや(素・テキ屋)から」
「分かってんじゃない」
素敵などとは口が裂けても言えず、
わたしは別々の引き出しから取り出した「素」「テキ屋」という単語を組み合わせ、何とか難を逃れた。
自分のこと棚に上げ過ぎやろぅぅおいこぅらぁぁぁぁぁああ!!!
勿論心の中で。
ああ、心臓に悪い。