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平成の海外旅行失敗談その1
大学卒業前にアメリカ横断の一人旅をして以来、プライベートと出張を合わせて、一体どれだけの国と地域に何回旅行したことだろうか。気がつけば35年以上が経ち、間違いなく100回以上は海外旅行をしているはずだ。それだけ旅行していると、行く先々でさまざまな経験をするものだ。中には、今思い出しても恥ずかしくなるような失敗談も数多くある。
例えば、今から35年前、新婚旅行で訪れたグアムでのこと。レンタカーを借りてダウンタウンへ出かけた際、お昼時にチェーンのピザショップに立ち寄った。ピザといえば、大学時代にアメリカを旅行した際、サンフランシスコで食べた巨大なピザが強く印象に残っている。直径50cmほどのピザ1切れ(おそらく1/8カットくらい)がたったの1ドルで、十分お腹を満たすサイズだった。その時はテイクアウトして道端で食べたが、今回はせっかくの新婚旅行だから店内でゆっくり楽しみたい。ついでにランチメニューのビュッフェも頼んで豪華にしよう、と思ったのだ。
海外旅行が初めてだった新妻に対し、「注文は任せて!」と言い放って意気揚々とレジに向かい、ランチビュッフェ2人分とピザを2切れ注文。すると、ピザは少し時間がかかると言われ、番号札を渡された。ピザができるのを待つ間、ビュッフェでサラダやチキンを楽しんでいた。お腹が空いていたこともあって、調子に乗って結構食べてしまった。15分ほどして、ようやく番号が呼ばれたのでカウンターへ行くと、店員のお兄さんがニヤニヤしながら大きな箱を2つ手渡してきた。
「え?私はピザを2切れ頼んだだけだけど?」と聞くと、お兄さんは「ほら、‘two pieces’だよ」と返してきた。確かに私は1切れを“piece”と表現した。だってサンフランシスコのピザスタンドではそう言っていたから……。お兄さんは笑いながら、「それなら‘two slices’だよ」と教えてくれたがもう遅い。
それだけ注文しても値段がさほど高くなかったため、間違いに気づけなかった。結果として、直径50cmのピザ2枚を丸ごと抱えてテーブルに戻り、唖然とする妻と二人で必死に食べる羽目に。すでにランチビュッフェを楽しんだ後だったので、頑張っても半分以上は食べ切れず、箱に詰めてホテルに持ち帰ることになった。その晩は残り物のピザがディナーになった……。今でもピザを食べるたびにこの出来事を思い出して、妻と二人で笑い合っている。
言葉がわからなかったことで失敗したケースはこれだけではない。出張でフランス南部のトゥールーズに2週間ほど滞在していた時のことだ。あいにく持っていた歯磨き粉がなくなってしまい、近くのスーパーで新しいものを買うことにした。
ホテルで飲むお酒やおつまみ、翌朝の朝食用のパンなどを買い、ついでに日用品売り場で歯磨き粉を探した。たくさんの種類が並ぶ中、旅行中に使うだけなので、出来るだけ小さめのサイズを選ぶことにした。ちょうど良さそうな小ぶりのチューブを見つけ、それを購入してホテルに戻った。
その晩、さっそくそのチューブを使って歯を磨こうとしたが、何かがおかしい……。歯ブラシで歯をゴシゴシすると、口の中で歯磨き粉がどんどん固まって歯にこびりついてくるではないか。慌てて確認したところ、それは歯磨き粉ではなく、チューブタイプの入れ歯用接着剤だった……。
箱には確かに歯と口の絵が描かれていたが、文字はすべてフランス語。Google翻訳などない時代だったため、電子辞書で一文字ずつ単語を調べてみると、入れ歯と歯茎を固定する「ポリデント」のようなものだと判明した。
この接着剤、とても強力で、時間が経つとますます硬化していく。そのため、翌朝までに口の中が大変なことになってしまった。夜中に気づいたが、正しい歯磨き粉を買いに行けるわけもなく、翌朝水で時間をかけて洗い流し、ようやく問題を解決した。
今ではスマホのおかげで瞬時に翻訳ができ、世界中どこにいてもこんなトラブルは起きにくくなった。当時はまだ辞書頼みだったため、日本の常識を基にした曖昧な判断が失敗を招くことが多かったのだ。それでも、こうした出来事は今となっては良い笑い話であり、旅の楽しい思い出になっている。